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そして、長い黒髪を輪ゴムで止めた、大きな瞳の少女は透日の横に立つ見知らぬ男を警戒するかのように、だいぶ距離を置いてピタリと止まった。
「あ、お帰りなさい…。お兄ちゃん…」
「ただいま、茉璃。遅くなってごめんね」
「うん…」
視線を透日の後ろに向ける。それに気づいたハルは、茉璃と目線を合わせるようにして、しゃがんで挨拶をした。
「お邪魔してます。それと、初めまして。ハルって呼んで」
「う、うん。あの…ま、茉璃です…」
今まで透日が誰かを連れて来くることはなかった。
病弱なためあまり外には出ない。普段の話相手は透日ぐらいだ。
どう接していいか分からない様子の海を見て、ハルは優しく話しかける。
「今幾つなの?」
「えっと、分からない…。けど、字は読める…」
「そうなんだ、すごいね!後で俺にも教えてよ」
「う、うん…」
茉璃は頬を赤らめ頷く。
「今日知り合ったばっかだけど、ハルは良い人だから、安心して。さ、ご飯を食べよう」
透日がハルを部屋へ案内する。1DKのこじんまりした間取り。
小さいテーブルの横には座布団数枚と、薄いタオルケットが二枚畳まれている。
「必要最低限のものしかないんだ。ずっと二人だけで暮らしているから」
「気にしないでください。泊まらせていただくだけで、ありがたいです」
「これ、茉璃の分ね」
透日が弁当を渡す。
「ありがとう…、お兄ちゃん」
透日はデバイスから、今日働いた分の給料が入っているか確認する。仕事量や評価に応じて金額は増えることはない。