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「そう。敵を倒したり、異世界を冒険したり、現実世界ではできないことを色々するわけです。…とはいえ、今は実現できるようになりつつあるんですけどね…」
「敵を倒す…。それって戦争ごっこ?」
「やだ、先輩。本気にしないでください。ゲームの話ですよ。撃たれてもすぐ復活できます」
透日は戦争を経験したことない。しかし、意味は分かる。
近くの少年少女たちが「戦争ごっこ」と呼んでは鉄の棒や小石を使って騒いでいるのを見ている。
「人を傷つけてはいけないよ。悲しむ人が必ずいるから」というセリフは母親から聞かされたのもではない。
ある夜たまたまラジオから流れてきたものだ。
遠い記憶の中、なぜかそこだけ覚えている。誰の言葉なのか分からない。
透日にとって母親は、いないのも同然だった。
2、3日帰ってこない日もあった。時には知らない男を連れ込む日もあった。そして、知らない間にいなくなっていた。透日に何も教えないまま。
母親の顔を思い浮かべても、波紋が広がる水面に映っているような、いつまでもはっきりとしない。
透日を睨んでいるのか、それとも憐れんでいるのか。
産み落としてしまったことに。過酷な道を歩かなければいけないことに…。
「ゴミ以外は全部回収されるから。壊れてそうなものでも、とりあえず捨てないでいてね」
「了解です」
透日はデバイスで時間を確認する。なんとか時間内に終わりそうだ。
久しぶりに早く帰れる。そう思うだけで身軽になった。
二人で床と壁の汚れを拭き取り、最後に空になった部屋の写真を撮る。あとはそれを会社へ送信をするだけ。
ハルの素性はともかく、動いてくれる人でよかった。素直にそう思った。
「よし、これで今日の仕事は終わり。ありがとう、手伝ってくれて」
「こちらこそ!…ところで、先輩。一つお願いがあるのですが…」
「え、何?」
「あの…今日家に泊めてもらえませんか…?」
ぬかるんだ道を歩いて30分。ようやく炊き出し所が見えてきた。
たくさんの人たちが列をなしている。
近くのベンチや、飲食スペースは既に満席になりつつあり、中には花壇や地べたに座って食べる人もいる。
外側の土地は環境汚染によって作物が育たなくなってしまった。
そのため内側から食糧が送られてくるのたが、基本的には売れ残ってしまった野菜や腐りかけの肉や魚、賞味期限が過ぎてしまった弁当がほとんどで、中に食べかけのファーストフードなどもある。
外側の世界に外食サービスはなく、調理環境が整っていない透日のような人々は、ボランティア団体が運営している炊き出し所へ集う。