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「早速だけど、ゴミ集めを手伝ってほしい。細かいルールがあるかそれも教えるね。あ、袋はこれを使って。あとなるべく詰め込んで、節約しないと怒られるから。それから分別のルールだけど…」
透日は一通りのやり方とルールを教えた。普段このように丁寧に教えることはない。「キレイにすればいいんでしょ?」と言って透日の言うことを聞く人は今までいなかったから。
「んー…もう既にパンクしそう。先輩はいつもこんなことを?」
「まあね。10年近くやってるんじゃないかな。正確なことは覚えてないけど…。ハルくんは、こっち側にきてどれくらい?」
こっち側、つまり国から追い出された側。
興味本位で聞いてみた。正直な答えは期待していない。きっと覚えていないと返ってくるのだろう。監視員だったとしても。
ハルくらいの若さの人間が、最近こちら側に移ったとしたら、人に知られたくない秘密や事情を抱えている場合が多い。
透日や海のように元々の産まれでない限り。
内側から追放される条件は、殺人、殺人未遂を犯し情状酌量の余地はないと判断された場合。
また、窃盗や強盗、恐喝を繰り返し行った場合も同様だ。
「んー、半年ってことろかな。びっくりしましたよ。こんなにも違うってことに」
「え?」
透日は思わず手を止めハルを見た。
「え?見えませんか?俺、内側の人間だって」
何を驚いているのだろう、という表情をしている。
「それは…まあ見えるけど。でも…」
深く聞いていいものかどうか迷っていると、「先輩は?なぜこっちに?」と今度はハルが聞く。
「いや、俺は…」
まだ出会って間もない相手に、素性を明かせられるほど透日はオープンな性格ではない。嘘をつこうにも、ずっと外側で生きてきた彼にとって取り繕うことができない。
ゲートの内側の光景を、透日は想像することができない。
言葉に詰まってた透日を見てハルは、「すみません。今の質問忘れてください」と言ってごみ集めを再開した。
透日は足元に転がっている缶を拾い、ごみ袋に放り込んだ。溢れた茶色い液体がビニールを伝う。
「…、いつか言うよ。言える日が来たら」
当たり障りのない返事をした。
「ええ、分かりました」
それから二人は手を止めることなく作業をした。衣類や使い古した電化製品でも会社へ引き渡す決まりになっている。
数少ない資源を確保するため、再利用できるものは何で使う。
しかし、最近そういったものがある家は次第に少なくなっている。