バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

4

「お前は男に産まれてよかったな」出会う人に言われてきた。成長するにつれ、意味が理解できるようになってきた。

ゴミ袋をドアの外に出したとき、「臭いんだよ!早く片付けろ!」とどこからか怒鳴り声が響いた。

おそらく透日の部屋から悪臭が漏れてきたのだろう。

この仕事をしていればよくあることだ。
見ず知らずの人から暴言を吐かれることも、ゴミを投げつけてくる人もいる。しかし今はそいつらにかまっている暇はない。

ー終わる気がしない…

透日は作業量の多さに、途方に途方に暮れていた。

 すると、
「こんちはー、お邪魔しますー」
と今度ははっきりと、後ろから声が聞こえた。

反射的にふり返る。
薄っすら見えた顔はサトウでも古傷の男でもない。若くて凛々しい青年だった。この地の住民ではないような、服装と体つき。
透日が呆気に取られていると、「あれ、先客いたの?気づかなかったよ」と言って靴のまま部屋へ入って来た。

「こんちは。俺の名前はハル。まぁお互い仲良くやろうぜ」
ハルと名乗った青年は握手を求めてきた。

「あ、どうも…。えっと、もしかして、新しい派遣の方ですか?」

「新しい…ハケン…?」
ハルはポカンした表情をしている。その反応を見て透日も困ってしまった。

場所は間違えていないはずだ。ここまではナビ通りきたし、そもそも仕事中の行動が監視されている身であるため、適当なところへ行くと電話がかかってくる。
彼は同業者ではないのか。

「えっと、ここを掃除するよう依頼され方ですか?」

透日より年下に見えるが、一応敬語で話しかける。

「そうそう、掃除する用できたんだけど…。ここら辺ではハケンって言うの?」
それに対してフランクに返ってきた。

「まぁ、そうですね。…、あのもしかして初出勤…?」

「そうなんだよ。あ、もしかしてキミ、俺の先輩ってことですか?俺初めなんで、色々と教えてください」

「ああ、そういうことだったんだね。敬語じゃなくてもいいよ」—どうせ一週間も持たないだろうから—本音は伏せることにした。「透日と言います。よろしく」

「あざっす、先輩。お願いします!」
ハルは人懐っこい笑顔と白い歯を向ける。

本当に派遣されてきたのか。もしかしたら、会社の人間が監視として寄越してきたのかもしれない。そんな風に疑ってしまう。

透日と違って小綺麗で身長も高い。絶望とは無縁で生きてきた、そんな眼をしている。
茉璃もたまになるときがある。無邪気で曇りのないキレイな瞳で笑うときが。とにかく一人でないのなら、相手が誰であろうと少し嬉しく思った。

かなりの汚れ具合だったから、透日だけで完遂しようとすれば一日では足りない。

しおり