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第55話 深淵の迷宮⑬

俺の攻撃がそのまま自分に返ってきたんだがどうするべきか。
自分の攻撃が自分に返ってくる分にはまだ対処は出来るんだが、これで俺の攻撃が他のメンバーに向けられるとしたら非常に不味い。確認が必要である。

「全員引き続きその場で待機して下さい!俺の攻撃がそのまま皆さんに向けられる可能性があるので、俺が攻撃するタイミングでそれぞれ全方向からの攻撃に備えて下さい!」

「「「おう!」」」

よし、これでいきなり仲間を傷つけることはないだろう。
とりあえず情報を集めよう。

最初に攻撃した断罪の刃は魔法攻撃、虚無の魔神の顔に直撃したと思った次の瞬間、自分の目の前の空間が切り裂かれて断罪の刃が現れた。

先程は魔法攻撃を試したので次は物理攻撃でいってみよう。
先程同様縮地で魔神との距離を詰め、レバーブローを放つ。
瞬間先程同様空間が切り裂かれて俺の拳が現れ俺のレバーを襲う。覚悟していたので何とか耐えきるが凄く痛い。

魔法に続いて物理攻撃(パンチ)も返ってきたからほぼ答えは出ているのだが、念の為武器も試す…嫌だけど。

魔法もパンチも俺が狙った相手の箇所に対し、そのまま自分の身体の同じ個所に自分の放った攻撃が飛んできた。

逆刃刀だけど痛いものは痛いから嫌だな…せめて一番痛くなさそうな所で試そう。

そう思い俺は上段から逆刃刀を振り下ろし寸止め、縮地を応用し横にずれ虚無の魔神の臀部を思い切り打ちつける。フェイントのつもりだったが最初の上段からの攻撃も避けたりガードするそぶりは見られなかったので最初から避けるつもりはないのだろう。

「!?」

それにしてもお尻だろうと痛いものは痛い。涙が出る。

だが痛い思いをしただけあって一応仮説は立てられた。
魔法だろうと肉弾戦だろうと武器攻撃だろうと、自分の攻撃はそのまま自分の狙った場所に次元の切れ目から返ってくる。あとは…

「ゾラスさーん、そこから何か遠距離攻撃を当ててみて下さい!同じ攻撃が自分に返ってくることを頭の中に入れておいてくださいねー!ち、違う違う、レイラはダメだよ!絶対だよ!!いやいや振りじゃないよ!!!!」

「承知しました~!えい」

「ちぇっ」

レイラな、フラグは分からないくせにお約束だけは理解しているのは何故だろう。
一度しっかりと話し合う必要がありそうだ。

気の抜けたゾラスの掛け声からは想像もできない、見た目凶悪そうな光の矢が魔神に向かって放たれる。
顔面を直撃、と思ったら先程までと同じように俺の顔面を襲ってきたが、既に回避行動に移っていたので何とか回避に成功。

ん~こうなってくると全ての攻撃が俺に返ってくると仮定した方が戦いやすいな。レイラは不満だろうが我慢してもらうしかない。

「もしかしたら全ての攻撃が俺に向かって返ってくるかもしれないので、一旦俺一人で戦わせて下さい!皆さんの攻撃を避けながら戦うとなると俺も無事では済みません。念の為、俺の攻撃が皆さんに向かう事も頭に入れておいて下さい!……ちょ、レイラなんで必殺技の詠唱始めたの!!??」

「「おう!」」

「ちぇっ」

可愛かったレイラがこの冒険を通してどんどん戦闘狂になっていく…。
エレナさんも満更ではないし。止められるのは俺しかいないのか…。

さて、戦いの方針は決まったのは良いが、まだまだ虚無の魔神を倒す目途は立っていない。

今の所攻撃が全部俺に向かって返ってくる以外、虚無の魔神の情報はない。攻撃手段はどんなものがあるのだろうか。

「………………」

俺が様子見の為に動かずにいると、初めて虚無の魔神が動き始めた。
予備動作なしでまるで氷の上を滑る様に近付いて来るのが気持ち悪いが…

「うぉ!?」

今の攻撃は間違いなく断罪の刃だ。

俺自身が魔神から力を与えられているので、虚無の魔神が俺と同じスキルを持っているのは不思議ではないのだが、もしこれが元々持っていたスキルではなく俺の使ったスキルを一度見て身に付けたとしたら大問題だ。

様子を見ていると今度は逆刃刀と同じ見た目の刀を振り下ろしてk

「危ねぇ!」

振り下ろしはフェイクで俺のお尻目掛けて切りかかってきた。
間一髪で交わしたがあの刀は絶対に逆刃刀ではない気がする。お尻が4つに割れてしまうわ。

絶対にこれ俺の攻撃手段盗んでるだろ…
だとしたらあまり攻撃の手段を増やさせる訳にはいかない。早く勝負を決める必要がある。

しばらく防戦一方で観察を続けていると、案の定虚無の魔神の攻撃は、俺が放った『断罪の刃』『逆刃刀』『ボディーブロー』の3つと、ゾラスが見せた『光の矢』の4パターンしか
ない。断罪の刃は厄介だが、こちら側が攻撃のパターンを増やさない限り、虚無の魔神の攻撃の手段も限られているので少しずつ考える余裕が生まれてきた。

さて、こちらの攻撃が返ってくるあの空間はどこに繋がっているのだろうか?

「ゾラスさーん!もう一度先程と同じ攻撃お願いします!!」

俺やレイラの攻撃では殺傷能力が高過ぎて失敗した時のリスクがデカすぎるのでゾラスに攻撃を依頼する。俺が頼むとすぐ、空気が読めるゾラスは先程より弱めに加減した光の矢を放つと、先程と同様魔神に当たる瞬間俺の目の眼前に現れる。

予想していた俺はそれをしゃがんで躱し、光の矢が現れた切り裂かれた空間に向かってクロスカウンター気味に右のオーバーハンドパンチを放つ。

ガンッ

「ぃよっしゃぁぁああ!」

この戦いで初めて攻撃の手応えを感じ、思わずテンションが上がる。
攻略法は分かったが、先程ゾラスが放った程度の攻撃では切り裂かれる空間が小さく、空間が開いている時間も短い。
また、相手の特性上攻撃の手段も学ばせたくはない為、出来る限り一撃で仕留めたい。

となると、巨大なビームの様な攻撃を俺以外のメンバーに放ってもらい、俺に返ってくるであろうその攻撃を躱しつつ、その間に一撃で仕留める必要がある。

パーティーメンバー達も俺と同じ考えの様子で、全員が俺の指示を待っているようだ。
流石に3カ月間苦楽を共にした仲間達だ。

あ、いや、一人キラキラした目で俺の事を見ているが絶対に勘違いしている気がするが、気付かないふりをしよう。

だってレイラ手加減できないじゃん…今回の作戦では殺傷力はいらないのよ。太いビームを長時間、ってのが肝だからね?

「…では……エレナさん、お願い出来ますか?」

無言で頷くエレナさんと無言で崩れ落ちるレイラ。


よし、準備は整った。クライマックスだ。

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