第45話 深淵の迷宮③
結局シャドウデーモンを倒した日のうちにレイラの機嫌が戻ることはなく翌日を迎え、なんとか佐藤特性とろけ~るプリン2個でようやく手打ちとなった。
レイラ恐ろしい子やで…
やっと姫の機嫌回復に成功し胸を撫でおろしているそのタイミングで、シャドウデーモン討伐の経験値により、俺のレベルが44になっていることを伝えてきたはちべえ。
はちべえの陰湿な嫌がらせは少しの蔑んだ視線だけで事なきを得たが、この豆柴わざとやってんのかな…
ここで俺は重要なことを思い出した。
この冒険を最大限楽しむ為に開発していた手加減魔法の存在を忘れていたことにようやく気付く。
レイラがいる以上安全マージンは確保しておかなくてはならないので防御力とスピードの値はそのままで、それ以外の過剰な攻撃力は不要だろう。
攻撃ステータスをSランク相当に抑えスキル使用を制限したので、今までの様にボスを一撃で消し去ることはなくなるだろう。
ちなみにステータスの解除は俺の任意なのでいつでも解放出来る状態ではあるが、余程の危機に遭遇しない限り解除することはないだろう。
加護やステータス、スキルの制限など、正直魔王に転生して自分が異常に強くなっていることは理解しているものの、実践慣れしてない為自分の強さの立ち位置がよくわかっておらず手加減の塩梅もよくわからない。
別に俺自身戦闘狂ではないのでそこまでの強い戦闘欲求はないが、今後新たな勇者など人間からの襲撃により身内を守る為の戦いがあるかもしれない。
一度全力で戦ってみたいが、それを受け止めてくれる相手が思い浮かばない。
アルスとセニア、四天王たちでも厳しいだろう。
まぁおいおい考えることにしよう。
〇
その後我々は冒険を再開。
冒険3日目、80階のボス部屋で一夜を過ごして今日もエレナさんの背に乗り突き進む。
といっても90階、100階、110階のボス部屋はボスが討伐された直後なのか、ボスが不在の部屋をそのままスルー。
事前に聞いていたゾラスの話では、現在冒険者ギルドに加入している魔族の最高到達フロアは120階までで、100階を超えられる冒険者も数えられる程しかいない。
現在130階のボス討伐にチャレンジしている冒険者は、グラウスとネクサという男性魔族のコンビ。
現在Aランクの2人だが、130階を超えることが出来れば50年振りのSランク冒険者誕生になるだろうと言われているそうで、実力的には四天王と肩を並べる程強いらしい。
ちなみに現時点でレジェンド級のゾラスを除いた最高ランクは、その2人のいるAランク冒険者が7人いるだけで、Sランク以上の冒険者は存在しない。
「50年振りですよ~魔王様~」
「何か言いたいことがありますか、ゾラスさん?」ニッコリ
「いや~、私もアルスとセニア同様魔王様のお力を世間に知らしめたいので、この冒険が終わった後に公表しないかな~と思いまして~」
久々に顔を出したアルスとセニアに次ぐ『予言の子』好きの変態魔族。
ゾラスはアルスやセニアと違い自分の欲求に正直な人なので、魔族社会全体を考えている俺の思惑はあまり伝わっていない為、俺を全面に押し出したい気持ちが今は一番強い。
「話が違いますね。次のボスを討伐したら帰還しましょうか?」
「あ~冗談です。すみません~」
今は冗談を言い合いながら120階のボス部屋へ進む。
油断はしていないつもりだが、ゾラスから聞く話では120階もボスがいたとしても特に問題はないだろう。
一応慎重に通路から顔を出しボス部屋の様子を伺うと、リアルタイムで名前の上がっていたグラウスとネクサがいた。
「「ま、マスター!?」」
………?
あ、あぁゾラスは一応偉い人だったか…そりゃこの反応になるわ。
〇
「いやーびっくりしたぜ!なんでこんなところに馬…マスターがいるとはなww」
豪快に笑う偉丈夫がグラウス。
「本当ですね。サブマスターは馬、マスターがここにいることはご存知なんですか?」
冷静に確認する優男がネクサらしい。
「だだだ大丈夫ですよ~。むしろサブマスターが今回アドバイスをくれてこうして冒険者に復帰できたんですから~」
スケープゴートにされることをアドバイスということを初めて知ったよゾラスさん。
グラウスとネクサもゾラスの発言で色々察したらしい。
無言でしみじみと頷いている。
「グラウスさんネクサさん初めまして。佐藤と申します。」
俺は別に目立つつもりがないだけで、自分の存在を無理に隠すつもりもないので普通に自己紹介をする。
「ま、魔王様がなぜここに!?」
ネクサが驚きの声を上げる。グラウスも同様の表情を浮かべている。
どうやらフレイムと最初に接触した、魔王軍と冒険者の軍事合同演習に参加しており、俺の啖呵を生で観戦していたらしい。頼むから忘れてくれ。
「今回はゾラスさんにお誘いいただいて、この『深淵の迷宮』の踏破にチャレンジしている最中なんです」
「魔王様…あの馬鹿に何か騙されていませんか?」ゴショゴショ
小声でネクサさんに心配されるが、やはりゾラスはアルス・セニアと同類なのか身内から尊敬されているのか馬鹿にされているのかわからん。
愛されていはいるようだけど。
心配無用だと丁寧にネクサに説明していると、今度はグラウスがエレナとレイラに興味を示す。
「こちらの別嬪さんとよく似たお嬢ちゃんも魔王様とマスターの連れかい?」
「初めまして、エレナと申します。こちらは娘のレイラです」
「は、初めまして…レイラです」
「おおっ。マスターの連れとは思えない程の丁寧な対応…失礼しました。私はA級冒険者のグラウスです、こちらが相棒の同じくネクサです」
エレナさんが俺の方に視線を送ってくるので俺は無言で頷く。
「ちなみにグラウスさん、エレナさんとレイラは、実は魔炎龍なんです」
俺の言葉と同時に、エレナさんとレイラは龍型になる。
「「……………」」
あ、もう少し慎重に言葉を選ぶべきだったかもしれん。
2人のタイプの違う美男子が現実逃避して蝶々を追いかけ始めた。
〇
「も、もう他に隠し事はありませんよね!?」
疑い深そうな目でネクサが尋ねて来るが、後は俺のステータス関連くらいだからわざわざいう必要はないだろう。
「し、しかし魔炎龍が人型になれるとは…久し振りにあせったぜ…」
グラウスもようやく落ち着きを取り戻した。
以前からエレナさんと話して決めておいたことなんだが、エレナさんとレイラのブラッドレイブンでの人権を確立する為に、影響力があり味方になってくれそうな魔族には積極的に『魔炎龍』のことを公にしていくつもりである。
予想した通り、グラウスとネクサは驚きはしたもののすぐにエレナさんとレイラを受け入れてくれている。ありがたいね。
で、今はグラウスとネクサがボスを倒し安全地帯となった120階でキャンプの準備を進め、夕食をいただいている最中である。
ちなみに夕食は佐藤特性吉〇家風牛丼である。
作った状態で四次元ボックスに収納しているので熱々の状態でお召し上がりください。
「ところで2人はこの後帰還するのかい?」
「「………」」
「その状況だとまだ倒し方が判明していないのかい?」
珍しく真剣なゾラスに対し、グラウスとネクサが神妙に頷く。
どうやら2人はこの後のボス、130階までは安定して進めるそうだが、問題は130階のボス、『ファントムスライム』を倒す目途が全く立っていないらしい。
「魔王様、申し訳ありません。ダークヘルム冒険者ギルドのマスターとして、冒険者の指導に当たりたいので明日1日お時間をいただけませんか?」
時折見せるその真面目なやつ本当にズルいと思う。
断れるわけないだろ…どっちにせよ断らんけどね。