第44話 深淵の迷宮②
「魔王様、私にも攻撃させてくれるって言ったよね?何あの攻撃??欠片すら残らなかったんだけど??」
「あ、いや、その…あんなつもりではなかった…というか…」
「あんなつもりないとか言ってるけど、思いっきりその剣振り抜いてたよね?殺す気満々じにしかみえなかったんだけど?」
「あ、あれは刀がそ、想像以上に強過ぎて……」
「言い訳しないで」
今俺は50階のボス部屋でレイラに物凄い責められている。
レイラと一緒にボスを倒そうと約束していたの、初めての冒険でついつい楽しくなったのと、想像の遥か上を良くドワーフの業物のせいで50階のボス、アイスクイーンを塵も残さず瞬殺してしまった俺が悪い。
「れ、レイラ、次のボスは魔王様と一緒に倒させて貰いましょうね?」
「でもどうせこの魔王様は次も一人でやる気よ。」
レイラは母親のエレナが狂竜病を患っていた時は、母親を助ける為、周囲の大人たちに対してかなり大人ぶって話をしていたらしい。
それが俺の近所で暮らすようになり、大分打ち解けてきた。特に見た目の年齢が近い俺は尚更だ。
子供は子供らしく元気に育っていって欲しいものだ。
「もう嫌い魔王様」
流石にそれは泣く。
一緒に畑仕事の手伝いや、家畜やはちべえの世話も手伝ってもらって、前世でも子供のいなかった俺は娘がいたらこんな感じなのかなーとか、勝手に父性が芽生えてしまっているのだよ。
レイラにだけは嫌われる訳にはいかない。
「レイラ様、次の60階のボスは私は完全にレイラ様のサポート役に徹します。ボスの足を削る程度の攻撃はしますが、トドメの一撃はレイラ様の役目です」
力強く俺は宣言する。
「……………。次約束破ったら知らないから。」
「お任せください!!!」
「魔王様、前回の50階のボス討伐でr
「うるさいぞはちべえ、今俺は人生の帰路に立っている。レイラには絶対に嫌われる訳にはいかない」
珍しく話に入ってきたと思えばタイミングの悪い奴め。
見た目が愛くるしいからといって全てが許されると思うなよ。
まだ何か言おうとするはちべえを撫でまわすと気持ちよさそうに尻尾を振って腹を見せてきた。黙っている分には最高だな。
「じゃあ今回のことは無かったことにしてあげる」
「は!寛大な処置に感謝いたします!!」
「あらあらあら」
こうして姫の機嫌がなんとか元に戻ったので俺はキャンプの準備をする。
とりあえず今晩泊まることになるフロアなので危険がないか確認する。
ボスのフロアは他のフロアと違い、屋外ではなく室内なので調査するのにそこまでの時間は必要ない。
そもそもボスフロアは、罠もなく討伐後24時間はリポップしないことも判明しているため安全なことはわかっているのだが、初めての経験なので自分の目でも安全を確認したい。
念には念を、という奴だ。
次のフロアに進む階段の横に何かグルグルした如何にもワープしそうな渦が浮いている。
「魔王様、あれが1階まで戻れるワープですよ」
俺にあれこれ説明しながら着いてくれていたゾラスが教えてくれる。
しばらくは関係ないが、3か月経っても踏破できていなければあれのお世話になることになる。
ちなみに今回ドロップした宝箱からは明らかに『銃』っぽいモノが入っていた。
ゾラスたちは何か分かっていなかったようなので、俺は何も言わずに収納した。
異世界間も何もあったもんじゃないぜ。
一通りフロアを調査した後、いよいよキャンプの準備を進める。
ここはレイラに良い所を見せるチャンス。
何を隠そうサラリーマン時代、唯一夢中になって続けていた趣味がアウトドアである。
子供にカッコいい所を見せるにはキャンプに限る、って誰かが言っていた。
俺は四次元ボックスの中からテントを取り出す。
スミスさん達に酒を差し入れて酔い潰させた後工房を使って試行錯誤して作った自信の一品である。
「「「おお~~」」」
テントを組み立てると、野宿を覚悟していた他のメンバーは歓声を上げた。勿論レイラも。
ふふん、驚くのはまだ早いぜ。
その後も四次元ボックスから、机、椅子、かまどなど、本来野営では存在しないアイテムを続々と取り出し歓声を浴びた。
その後夕食に振舞ったバー◎ンド風カレーは、特にレイラが嬉しそうに頬張って食べてくれたので用意した甲斐があった。
これで完璧に汚名返上できたな。
〇
2日目、朝は軽めにおにぎりを皆で食べ、先を急ぐ。
今日もエレナさんの背中に乗って猛スピードで進む。
ゾラスいわく、100階を超えるまで宙に浮かぶ敵を見たことがない為、空を移動している限り雑魚敵はいないのではないか、とのこと。
地図を用意している我々は最短最速で進み、60階・70階は他パーティーが倒したのかボスは部屋におらずそのまま通過。
レイラは不満そうにしていたが、そればかりは仕方ないことを分かっているため言葉には出さない。
そしていよいよ80階手前、壁の陰から中の様子を伺うとお待ちかねのボスが闊歩している。
80階のボスはシャドウデーモン、低級の悪魔だ。
低級とはいってもフロアボスを任されるモンスター、A級冒険者だけの4人パーティーがなんとか勝てる程には強い。
この先、現在魔族学園の高等部で学ばせている『役割分担』という概念が世間に浸透すれば、もっと多くの魔族たちも戦えるようになるだろうが、現時点ではその辺の冒険者が叶う相手ではない。
3mを超える体躯は、魔法無効・物理半減の効果の黒い靄に包まれ、見るものに恐怖を与える真っ赤な眼。シャドウデーモンの象徴でもある大きな羊の様な角に、多くの冒険者が犠牲になってきた鋭過ぎる爪。
思わず息を呑むゾラスを除いた魔王達一同。
「落ち着いて戦えば大丈夫ですよ皆さん~」
こんな時ばかりはゾラスの気の抜けた話し方が少し心を落ち着かせてくれる。
「そうしたらレイラ、まず俺が右から回り込んでシャドウデーモンの注意を引き付ける。上手く誘導できたらその隙にドラゴンブレスをお見舞いしてやってくれ」
「分かったわ魔王様!」
「ゾラスとエレナさんは一旦待機で、万が一の時はレイラをフォローしてやって下さい。」
「「承知しました」」
2人の大人は俺に全幅の信頼を寄せているのか非常に落ち着いている。
豆柴(はちべえ)にいたっては寝そべりながら、後ろ足で顔を掻いている。
よし、いこう。
「おい、薄汚い悪魔よ!!お前の相手は俺だ!!!」
予定通り右側から回り込み挑発する。
「キシャーーーーッ」
俺の方に視線を向けたシャドウデーモンはゆっくりと俺に近づいて来る。
その背後にゆっくりとレイラが近付き、あと一歩で射程圏内に入るところまで近付いた。
ニヤリ
「キシャーーーーーーーーーーーーッ」
突如爪を振り上げながら振り返るシャドウデーモン。
見た目的に知能が低いと思ったんだが、少し馬鹿にし過ぎたか…
このままではレイラに攻撃が向いてしまう。
「お前の相手は俺だと言っているだろ!こっちを向け!!」
俺は相手の体勢を崩そうと軽く足払いを繰り出す。
「ギィヤァァァァァァァァァァアアアアアアアア」
シャドウデーモンの断末魔の叫び声がフロア内に響き渡った。
え?
〇
「申し訳ありませんでした。悪気は一切無いんです。」
「……………」
頬を膨らませそっぽを向くレイラに対し土下座で謝罪する俺。
まさか足払いで死ぬ、ましてやまた塵すら残らないとは思わないじゃん…
シャドウデーモン、見掛け倒しにも程があるだろ…
「ちなみに魔王様~、さっきのボスは僕とジュエル様の2人がかりでも5分くらいは掛かりましたよ~」
ゾラスくんは一旦黙ろうね。
「魔王様、レベル上がってることは気付いていらっしゃいますか?」
は?急にはちべえ何ふざけたことを言っているんだ??
「昨日アイスクイーンを倒したことで、元々レベル1だった魔王様はボスの大量の経験値によりレベル32まで成長されています。」
「ちょ?は??えぇぇぇぇええ?」
「ちなみにレベルが1上がるごとに、攻撃や防御などの基礎数値は通常1.5倍ずつ上がっていきます。魔神族の魔王様は倍々で上がっていきますがね」
とんでもない汚物を見るような蔑んだ目でレイラが俺を見てくる。
目覚めそうだからやめて下さい。
ありがとうございます。