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魔王戦

 俺たちは魔王の元に向かうことにしたのだが、その前に俺はバランに訊いておきたいことがあった。

「ちょっといいでゴザルか?」

バランは
「なんでしょう?」
と言って首を傾げた。

「俺たちは今から魔王のところに行くわけでゴザルが、魔王ってのは魔族にとって王様みたいなものでゴザルよな?」

「はぁ。確かに王様といえば王様なのかもしれませんが」

「場合によっては戦うようなことになるかもしれないんでゴザル。それについてはどう思うでゴザル? 俺には反逆行為のように感じられるでゴザルが、大丈夫でゴザルか?」

「ああそういうことですか。心配してくださりありがとうございます。ですが問題ありません。そうなった場合でも私は皆さんと一緒に戦えます」
「それならいいでゴザルが」

大和がバランに念を押すように確認した。

「本当に大丈夫なんですか? 魔王が魔族にとってどんな存在なのか俺は知らないですけど、少なくとも逆らったらマズい存在ではあるでしょう?」

バランは少し悩む素振りを見せた。
「そうですね……。正直なところ私たち魔族は魔王様について何も知らないんですよ」

天姉が驚いた。
「えぇ。そんなことあります? だって魔王ですよ? 魔族にとって一番大事な存在なんじゃないんですか?」

「その通りなんですけど魔王様は誕生して以来、魔王様の誕生と同時に出現した魔王城から出てこられたことがなくて、誰も会ったことも無ければ顔を見たことすらないんですよ。なのであんまり忠誠心のようなものがないんです。それに私にとっては会ったこともない魔王様よりも自分の村の者の方が大事ですからね」
「そうでゴザルか」

俺はそれで納得したが、今度は大和に疑問が生まれたようだ。

「っていうかそもそも魔王と戦うような状況になるのってどんな場合ですか? 俺たちは交渉に行くんですよね? だったら戦うことなんてないと思うんですけど」

大和の言葉を聞いて天姉が呆れたようにため息をついた。

「でたよ。大和の面倒くさい着眼点」
「え、なんかすみません」
「いや別にこれくらいだったらいいでしょ」

そう言って恭介が説明を始めた。

「今までの各国のお偉いさんとの交渉はぶっちゃけダメ元っていうか断られても別にいいやって感じだったんだけど、魔王の場合は絶対協力してもらわないといけないから、もし断られたらボコボコにして無理やり従わせるしかないんだよね」
「なるほど。無茶苦茶ですね」

「しょうがないやろ。世界の存亡が懸かってるんやからな」

「まぁそうですけど。ところでさっきのバランさんの話じゃ魔王は魔王城なるところにいるんですよね?」
「はい」

「そこはファンタジーな感じなんですね。ウッヒョー!」

「大和は本当にファンタジー好きでゴザルな」
「やっぱワクワクするじゃないですか」
「左様でゴザルか」

「はい。あ、今ちょっと思ったんですけどコザクラさんはどうやってエピロゴス島に行くつもりなんですかね? 確か結界に守られてて知覚することすらできないんでしたよね?」

そこは俺たちも気になっているところだ。
正直先生だし、何ができても驚かないけど。

日向が説明した。
「結界についてはどうするつもりなのか知らんけど、大体この辺の位置にエピロゴス島があるっぽいっていうのはなんとなく分かってるんや。やから多分その場所にできるだけ近づいてどうにかするんやろうな。知らんけど」

「へぇ。その、大体この辺って位置はどの辺なんですか?」

「それがな。多分魔王城の近くなんや。魔力の感じからして魔王城は海の近くにある。よな?」

日向が確認するとバランは頷いた。

「そこが専門家の間でエピロゴス島があるって噂されてる位置にすごい近いんや」

「あーそういえば表世界と裏世界って作りがほとんど同じだから、表世界のエピロゴス島の位置が分かれば裏世界のエピロゴス島の位置も分かるんですね。それにしてもこの世界で一番重要な島が魔王城の近くにあるんですか」

「まぁ意外でもないけどな。重要なところやからこそ魔王城なんて物騒なもんを置いといて誰も近くに寄ってこんようにするって目的もあったんやないか? 知らんけど。とにかく、エピロゴス島に行くってなったら桜澄さんも魔王城の近くを通りかかるはずや」

望月さんが
「じゃあ魔王との交渉の後、魔王城で待ち伏せるのもいいかもね」
と提案した。

大和はその提案に疑問を呈した。
「え、でもコザクラさんがいつ来るかなんて分かりませんよね? ずっと待ってるよりこっちから行った方がいいと思いますけど」

俺はそれを聞いて思わず苦笑してしまった。
「いや、多分そのうち来るでゴザルよ」
「なんでそう思うんですか?」
「先生は化け物だからでゴザルよ」

俺の言葉に大和とバラン以外の先生のことをよく知るみんなは大きく頷いた。

「本当に皆さんはコザクラさんのことを持ち上げますね。近くに海があるってことは砂漠地帯のここから結構離れてるんじゃないですか? 俺たちは日向のテレポートがあるから一瞬で行けますけど、コザクラさんは」
「まあまあ。落ち着きたまえよ」
天姉が大和を窘める。

大和はちょっと納得いっていないようだ。
まぁ実際先生の強さに触れてみれば分かるだろう。

「魔王との交渉がすぐに済んだら、大和の言うようにこっちから行くのも全然ありやけどな」
「そうですか」

「……あ」
恭介が何か思いついたようだ。

「魔王城についたらバランさんは付近の魔物を操って警備させておくことってできますか?」
「はい。可能です」

「一応先生が魔王との交渉中に来ちゃった時のためにそうして備えておいてくれたら助かります」
「承知しました」
バランは恭介のお願いを快く受け入れた。

「……大体話しとかなアカンことは話し終わったな。今から魔王のとこにテレポートするけど、みんな準備はええか?」

俺たちが頷いたのを確認して、日向は指をパチンと鳴らした。


 俺たちは日向の空間魔法によってテレポートした。

目の前には西洋風の城。
魔王城がある。

すぐ近くに海があるため、波の音が聞こえてくる。

覚えているか分からないが、エレジデンから魔法書を受け取ったのが今日の昼のこと。

それからチェルボの近くにいた魔物と大和が戦って、墓参りして、四天王と戦って、魔人の村を発ったのがついさっきのことだ。

時刻はそろそろ二十三時を回る。
すっかり真っ暗だ。

夜なので風は陸から海に向かって吹いている。
潮風を感じることはできない。

「威圧感がありますね」
大和が月明りにぼんやりと照らされている城を見上げて言った。

セノルカトルの大図書館と同じように空気が重く感じる。
おそらく魔王が発する魔力のせいだ。

「行こうか」
日向が歩き出した。

俺たちもそれに続く。

城の正面にある門の手前まで来た。

「門、閉じちゃってますけど。どうします?」

大和に天姉が答えた。
「壊そう」
言うと同時に天姉は門を殴った。

天姉に殴られた哀れな門は派手な音を立ててぶっ飛んでいった。

大和はドン引きしながら門の破片を拾ってポケットに入れた。

バランは魔物を操るためにここに残ることにした。


 それから俺たちは平然と城の中を進んだ。
魔物がうようよいるのかと思っていたが、中には誰もいなかった。

「何にもいないですね」
大和が周囲を警戒しながら言った。

「そうでゴザルな」
「そういえばバランさんが魔物操れるならコザクラさんとの戦いの時の俺の役割が消えちゃいましたね」

「あ、本当だ」
恭介が大和を一瞬だけ見て、目を逸らした。

「なんで目逸らすんですか」

「いや、あれだよ。回復っていう大事な役割が残ってるじゃん。回復役も大事だし。勇者っていっても色々あるし。大丈夫だよ。ね?」

「なんも言ってないのに励まされてしまった。まぁそうですね。俺にできることをやります。っていうか話変わりますけど、さっき恭介がバランさんに魔物を操るように頼んだのってもしかして魔王とバランさんを戦わせないための配慮だったりします?」
「え、なんのこと?」

恭介はすっとぼけた。
俺は大和に少し感心した。

「恭介に対する理解度が上がってきたでゴザルな」
「えっへん」
「だからなんのこと?」
恭介はまだとぼけている。

「恭介はツンデレなんですね~」
「そうなんでゴザルよ。さっきのもバランは魔王と戦ってもいいって言ってたけど、やっぱり魔族が魔王と戦うのは良くないだろうから戦わせないようにしようっていう恭介の人知れぬ優しさが、おっと」

恭介が俺を殴ろうとしたから躱した。

天姉は
「うぃ~やっさすぃ〜」
とか言って恭介の脇腹をつついている。

「俺、やっぱりあなたたちについてきて良かったです。楽しいもん」

大和はそう言ってニッと笑った。


 そのまま城の中を誰に邪魔されるわけでもなく探索した。

そして……。
「この扉の向こうに魔王がおるみたいやな」
遂に魔王のいる部屋の前に辿り着いた。

「玉座の間ってやつですね」
大和は刀を取り出した。
手が少し震えているように見えた。

俺たちはそれぞれ武器を構えた。

「開けるか」

俺と恭介が同時に扉を押した。
扉はギギギと音を立てて開いた。

全員で玉座の間に入ると、まず目に飛び込んできたのは
「ぁ、え、ゆず……?」
玉座に俯いて座っている、死んだはずの人間。
先生の友人であり、日向と天姉の先生であった市川結輝の姿だった。

「ゆず? なんでゆずが」

日向が消えそうな程小さな声で何かをブツブツ言っている。

恭介と天姉も開いた口が塞がらないといった様子だ。
早乙女さんも望月さんも動揺している。

もちろん俺も体が動かせなくなるくらいの衝撃を受けていた。
大和は俺たちの様子を見て困惑している。

魔王は顔を上げて光のない目で、そんな俺たちの方を見た。

そしておもむろに手をこちらに突き出したかと思うと、その手のひらから雷が発生し、俺たちの方に向かってきた。

魔王の正体がゆずだったことに衝撃を受けた俺たちは大和以外、一瞬反応が遅れた。

大和は動くことができずにいた俺たちの前に出ると雷魔法を斬った。

しかし完全に打ち消すことはできず、大和は体に魔法を受けて膝をついた。

「ぐっ!」
「……あ、大和! 大丈夫!?」

大和が目の前で攻撃を受けたことによってハッとした天姉が大和に駆け寄った。

「大丈夫です……」
大和は大きく息を吐きだして立ち上がった。
雷魔法による傷は消えていた。

日向はまだ魔王をじっと見つめて固まっているが、それ以外のメンバーはなんとか武器を構え直した。

「どういうことだ? なんであの人が」
早乙女さんが斧を構えたまま言った。

「分かんないけど、どうにかしないと」
望月さんがそう言った直後、また魔法が迫ってきた。
今度は炎だ。

それぞれ避けたが、日向だけ目を見開くばかりで動いてなかった。

俺が日向に向かって駆け出そうとした瞬間、いつの間にか日向のすぐそばにいた大和が日向を押しのけた。

日向は大和に押されるがまま数歩よろけて尻餅をついた。

大和は日向の代わりに火だるまになった。

「大和!」
やっと意識がはっきりした日向が声を上げる。

「ゲッホゲホ! ゴホ。……オェ」

黒焦げになった大和は次の瞬間、時間を戻したように魔法が直撃する前の状態になった。

「はぁ。熱かった」
「大丈夫か大和。ごめん、私がボーっとしてたから」

日向が心底申し訳なさそうに謝った。

「死んで無いので大丈夫です。いや~にしてもコレクトってこういう時に便利ですよね。服も元の状態に戻せますし」
「そ、そうか」

大和が段々痛みに対して無頓着になっている。
大和の中で一体何があったんだろう。

一応日向と大和については大丈夫だったので、魔王の方に視線を戻すと相変わらず光のない目で魔法の準備をしている。

今度は魔法陣を使うらしい。
魔王の背後に三原色魔法陣が現れた。

「ヤバいでゴザルな」

魔王は少しずつ使う魔法が強力になっている。

最初の雷魔法はせいぜい水色魔法陣くらいの威力だった。

次の火炎魔法は紫くらい。

誰も覚えてないと思うから復習すると魔法陣の強さは白黒、三原色、オレンジ、紫、水色、茶色の順になっている。

そして今度のは三原色。
そういえば四天王の連中も三原色のを使ってた。

遠目で見ただけだけど、カヨイって奴が使いまくってた。

なんかみんな平気で使ってるけど、必要な魔力量はすごく多いから簡単に使えるものではない。

俺たちの中じゃ普通に使えるのは天姉くらいだ。
俺と恭介と日向は頑張れば使えるって感じ。

そのくらいすごいものをぶっ放そうとしているのだから、結構ヤバい状況だ。

それにどういうわけか魔王はゆずの姿をしている。

あれが本人なのか、はたまた姿がゆずであるだけなのかは分からないが、どちらにせよ俺たちとしては攻撃したくない。

魔王が魔法陣に魔力を込め終え、ついに魔法が放たれるその瞬間、日向は大和に頭からレジ袋を被せた。

「うわぁ! 何するんですか!」

そしてそのまま袋を大和の足先まで下げていった。
大和は吸い込まれるようにレジ袋の中に消えていった。

多分あの袋には例によって空間魔法が施されているんだろう。

日向が大和を飲み込んだレジ袋をポケットに突っ込んだところで、魔王は三原色魔法陣による風魔法を放った。

俺はスマホを取り出して電源をつけた。

そして待ち受けに設定しているオレンジ色の魔法陣の画像に魔力を込める。

これは緊急用の結界魔法の魔法陣だ。
俺の周りに球状の結界が出現した。

オレンジの魔法陣でもたくさん魔力を込めれば三原色魔法陣の攻撃を防ぐことができるはずだ。
多分だけど。

日向も杖を軽く振り結界を作って自分を守り、恭介は幻惑魔法で俺が使ったのと同じ魔法陣の幻を空中に出現させ、それに魔力を込めた。

天姉は迫りくる風魔法を殴りつけて相殺、早乙女さんも斧をぶんぶん振り回して相殺。

……。
脳筋共め。

少し意外だったのが望月さんだ。
氷結魔法で氷の盾を作って凌いでいる。
あの人氷結魔法使うんだ。

それはともかく、みんなそれぞれの方法で自分の身を守ることができた。

しかし、ここは最上階なわけだが魔王の風魔法によって壁と天井が吹っ飛んで行ってしまい、夜空に輝くお星さまとご対面してしまった。

開放的になったことで外の音が聞こえてくるようになった。

下の方から少しばかりの波の音と、ぞろぞろと何か集団が蠢いているような音がする。

軽く見てみると、地上は数えきれないほどの黒い影で埋め尽くされていた。

多分あれはバランに操られている魔物たちだ。
それにしてもすごい数を集めたものだな。

魔人の村の村長に感心している俺をよそに日向はポケットから先ほどのレジ袋を取り出した。

「びっくりしたー!」
大和がひょっこりと袋から顔だけ出した。
レジ袋から生首が出てきているように見える。
なんか不思議な光景だ。

「大和、コレクトしてくれへん?」
「あ、いいですよ」

大和が袋の中から手を出して日向の手の甲に触れた。

「あー魔力戻った。助かったわ。ありがとう」

「なんか俺回復アイテムみたいな扱いになってますね。まぁ守ってくれたのは感謝しますけど。ところでまた魔王さんの後ろに魔法陣が現れましたけど?」

大和の言う通り、魔王はまた三原色魔法陣を使うつもりのようだ。
今度のは土魔法。

「どうするでゴザル? このまま防戦一方ってわけにもいかんでゴザろう?」

日向は一瞬悩む素振りを見せた。

「でもな。あれは多分ゆず本人や。少なくとも体はゆずのもので間違いない」

「じゃあどうすればいいの?」

「ちょっと待て天姉。私だって混乱してんねん」
「あの~。もう魔法が発動しそ、うわぁ!」

日向が大和の頭を押さえつけた。

「ちゃんと中に入っとけ。危ないやろ」

そんなことしているうちに魔王が魔法陣を発動した。

床から巨大な土の柱が何本も生えてきて、クネクネと動き出した。

かと思ったらまた床から何か生えてきた。
どうやら土でできたナイフのようなものらしい。

天姉が懐から手裏剣を取り出した。

あ、ちなみに天姉はまたくノ一の衣装を着ている。
魔人の村で着替えてきたのだ。

さっき四天王と戦ってた時に着てたやつはロゼメロに燃やされたらしいけど、予備を何枚も持っているようだ。

もっとちなむと誰も興味ないかもしれないけど、早乙女さんと望月さんとバランは長袖で丈が長い感じの服を着ている。

チェルボも魔人の村も乾燥地帯にあるから、そんな感じの恰好をしているのだ。

そして大和はパーカーを着てて、俺と恭介はスポーティーな感じの恰好をしている。

日向はダボダボのパーカーを着ている。

以上、訳の分からないタイミングでの俺によるみんなの服装紹介でした。

こんなどうでもいいことを言っている間にも、床から生えてきた土のナイフが俺たちに向かって飛んでくるのを天姉が手裏剣を当てて止めたり、同じく床から生えてきた土の柱が癇癪を起こしたように暴れまわるのをそれぞれ避けたり防いだりして結構忙しいことになっている。

絶対服装紹介なんてやってる場合じゃない。

俺の方に来た土の柱を叩き斬ってからふと恭介の方を見てみると、恭介の影から凛が出てきていた。

恭介は狐のお面を取り出し、そのお面に頭突きするように凛が飛び込んだ。

凛はお面に溶けるように消えた。
少しだけ狐のお面が光ったように見えた。

隣にいた日向の手元から
「おぉ。あれがさっき言ってた狐のお面に凛が宿ってるって状態ですか」
と大和の声が聞こえた。

見てみると、日向が手にするレジ袋からまた大和が顔だけ出していた。

恭介はそのお面を装着した。
するとみるみる恭介の髪が白くなっていき、腰のあたりまで伸びていった。

頭には狐の耳が生えてきた。
そして恭介の服は瞬く間に巫女服に変わった。
恭介は錫杖をじゃらじゃら鳴らした。

「はぁー。すごいですね~」
大和がレジ袋の中から感動したように言った。

「なんであんな恰好になるのかだけは意味不明ですけど」
「まぁそこはファンタジーってことで納得しとき」

「ちなみに人神一体は俺も小太郎とできるでゴザルよ」
「え、見てみたいです」

「じゃあやるでゴザル」
「軽いですね」

俺も小太郎を呼び出した。
小太郎は俺にタックルするように飛び込んできて、俺の体に溶けるように消えた。

そして俺の髪は色が変わることはなく黒いまま若干伸びた。
ウルフカットくらいだ。

そんでもって犬歯が少し立派な感じになった。
頭には狼の耳が生えてきて、服が一瞬にして和服に変わった。

「おぉ!」
大和が拍手した。

「なんか恥ずかしいでゴザルな」

普通に話しているが、土の柱はまだまだ暴れまわっている。

俺たちはそれを斬ったり、魔法で防いだりしながら話している。

相変わらずレジ袋の中から顔だけ出している大和が訊いてきた。

「けいもやっぱりその状態だと強くなるんですか? 確か恭介は強力な幻惑魔法が使えるようになって、あんな感じで実質万物創造みたいなことができるようになるんですよね?」

大和はレジ袋の中から手を出して恭介の方を指差した。

恭介が錫杖を振るたびに巨大なさすまたが現れて土の柱を押さえつけたり、鳥居が現れてこれまた土の柱を押さえつけたりしている。

「あんなすごいことはできんでゴザルよ。俺の場合は普段から使ってる五感を強化する魔法をさらに強力にするってのと第六感的なのが働くようになるってのと身体能力が上昇するって感じでゴザル。さすがに三原色魔法陣の身体強化魔法をかけた状態の天姉よりは劣るでゴザルが、中々動けるようになるでゴザルよ」

そう言ったタイミングで鞭のようにしなる土の柱が俺たちに迫ってきた。

俺は一度刀を鞘に納め、居合切りのような構えをとる。

土の柱は俺たちの鼻先まで迫ったところで、細切れになった。

俺は居合の体勢のままだ。

「おぉ。刀抜くとこ見えなかったです。っていうかけいが動いているように見えなかった。すげぇ」

「照れるでゴザルな。あーあとこの状態だと恭介の幻惑魔法が効かないんでゴザルよ」
「え、どういうことですか?」

俺は土の柱を押さえつけている、恭介の幻惑魔法によって作られた鳥居に近づいて手で触れるようにしてみた。

しかし鳥居に触れることはできず、すり抜けてしまった。

「こんな感じでゴザル。強力な幻惑魔法でも見破ったらただの幻になるんでゴザルよ。でもそれは幻であることを頭で分かってるだけじゃダメなんでゴザルがな。理性的にではなく本能的にこれは幻であるってことを確信しなきゃいけないんでゴザル。俺はそれを第六感によって見破っているんでゴザル」
「へぇー。あ」

大和は呆けた声を出した。

次の瞬間、俺の右側から土の柱が来た。
かと思ったら空から戦車が。

戦車は俺を潰すように降ってきた。

しかし、さっき言った通り今の俺には幻惑魔法によって作り出されたものはただの幻であって実際に潰されるわけではない。
潰されたのは土の柱だけだ。

「あーびっくりしたでゴザル。恭介ー。ありがとうでゴザル〜」

恭介はこちらに振り向くことなく親指を立ててみせた。

「えーっと、こんな感じの使い方もできるんでゴザルよ」

「なるほど。けいには効かないから、敵にだけ攻撃できるってことですか。割と便利ですね」

俺たちが呑気な会話を繰り広げていると天姉が
「説明してるとこ悪いんだけどさー! いい加減何かしら考えないと、ずっとこのままじゃ埒が明かないよ!」
と土の柱をぶん殴りながら叫んだ。

それを聞いてずっと何やら考えていた日向が口を開いた。

「……やっぱりいくら観察してもゆず本人や。あれは多分正気を失ってるだけ。もしかしたら、大和のコレクトでなんとかできるかもしれん」

そう呟いてからレジ袋から大和を出した。

「大和、ゆずにコレクトしてみてくれ。頼む」

日向の真剣な眼差しを受けて大和は少したじろいだが、
「分かりました」
とはっきり答えた。

それを見た日向は一度頷いてから指パッチンをした。

相変わらず俯いたまま玉座に座っている魔王の背後にテレポートした大和はすぐさま肩に手を置いて魔王に対してコレクトをした。

魔王は一瞬体をビクッとさせて、それから力が抜けたみたいにうな垂れるような体勢になった。

発動していた土魔法は止まり、土の柱はボロボロと崩れた。

そして魔王はゆっくりと顔を上げた。
その目には光があった。

しおり