魔人の村
ゼノライトから魔法書を奪い返そうと這っていたはずなのに、目の前からゼノライトが消えた。
というよりも俺の方がゼノライトの前から消えたんだ。
さっきまで俺の視界に広がっていた荒廃した都会の景色から打って変わって、目の前には禍々しいオーラを放つ巨大な門がある。
門の上の部分を見るには見上げなければならないくらい巨大だ。
門の周りには何もない。
本当に何もない。
多分ここは砂漠のど真ん中だ。
日向によってテレポートさせられたのだろう。
「クソッ! 魔法書が奪われた!」
俺が地面を殴って悔しさをぶつけたところで声がした。
「いや~参ったでゴザルな」
「あ、れ? けいがいる。あ、俺だけテレポートさせられたわけじゃないんですね」
周りを見ると恭介たち四人も早乙女さんも望月さんもいた。
「……すみません。魔法書、取られちゃいました」
俺が謝ってもみんな気にした様子はなかった。
「まぁあれはしゃあない」
気にすんなと言って日向が俺の肩に手を置いた。
「ごめんね~。ゼノライトって子とは僕と風河君が戦ってたつもりだったんだけど、分身だったみたい」
「望月さんたちは何も悪くないですよ。俺が弱いから大事な魔法書が」
「そんなことよりさっさと傷を治した方がいいよ」
恭介に言われて怪我していたことを思い出した。
「忘れてました。コレクト」
肩と足の傷が治った。
「そんな痛そうなの忘れるもんなの?」
天音が不思議そうに首を傾げる。
「最近毎日骨折してるんで、痛みに鈍くなってるのかもしれませんね」
「ん? 毎日骨折?」
「あ、いや。なんでもないです」
日向が訝しそうに俺を見た。
俺が夜中に凛と小太郎と修行しているのは、多分四人とも察しがついている。
だけど、どんなことをしているのかは知らないはずだ。
危ないことをしているわけではないと思っているはず、多分。
なぜなら俺の目も髪も赤くなっていないからだ。
今まで俺の目や髪はコレクトを使う度に少しずつ魔力が染みついて赤くなっていた。
しかし、みんなには内緒にしているが、俺は最近魔力の扱いが上手くなった。
体の一部分に魔力を集中させたり、特定の部分には魔力がいかないようにしたりできるようになり、目や髪の毛が赤くならないように調整できるようになった。
このことを黙っている限り、四人に隠れて怪我し放題なのだ。
今はコレクトの効果をデバフだけ消してバフは残せるように調整する練習をしている。
「いやそんなことより。本当に申し訳ないです。魔法書が」
「まあまあ落ち着くでゴザル」
「でもあれって魔法を反射するやつですよ? あれがあればコザクラさんとの戦いとかにも」
「んー。あれはお守り程度のもんやからなー。実際桜澄さんみたいな化け物の魔法を反射させれるんかわからんもん」
「え、そうなんですか?」
「大和。先生は本当に規格外のヤバい奴なんだよ。あれを使っても反射させられずにそのまま壊れるみたいな感じになる未来の方が想像しやすい」
恭介が諭すように言った。
「でも、四天王の奴らに塩を送るようなことになっちゃいましたけど」
「あの子たちが持っててもしょうがないでしょ。あの子たちの相手はアレだもん。使い道ないよ」
天音が励ますように言ってくれたけど、なんか天音の髪がすごいことになっている。
いつの間に着替えたのかくノ一の衣装からいつも通りカジュアルな感じの服装になっていて恰好は特に問題ないが、髪が焼かれたみたいにチリチリしている。
「あの、髪どうしました?」
「あのロゼメロって子に丸焼きにされた」
そう言って天音はポケットからポーションと書かれた缶を取り出すと、プシュっと開けて頭に振りかけた。
「なんですかそれ」
「髪がいい感じになるポーションだよ」
「シャンプーみたいなポーションがあるんですね」
「うん」
「まぁどうでもいいや。というか逃げてきちゃいましたけど良かったんですか? ってかなんで逃げたんですか? 俺はともかくみんな普通に戦えてましたよね?」
「大和がヤバかったってのもあるんやけど、ずっとあいつらと戦っとるわけにもいかんからな」
「どういうことですか?」
「げんじーがこの前話してたやろ? あいつらが桜澄さんと一緒におらんかったってことは、多分もう桜澄さんは裏世界に行ってエピロゴス島に向かっとるってことや。時間がない。悠長にしてたら桜澄さんに裏世界が消される。元々あいつらの相手は私たちがする予定じゃなかったし、私たちは魔王と交渉とかもせなアカン。早々にケリがつけれるようならと思って戦ってみたけど、あれは勝つにしろ負けるにしろ時間がかかるってのが戦ってて分かった。最悪何日もかかるかもしれん。大和がヤバい状況になってなくても結局途中で離脱しようと思ってた。やから自分のせいで、とか面倒くさいこと考えんなよ」
「……そうですか」
日向は俺の考えを先読みするように言った。
俺は今、自分のせいでみんなは戦闘を途中で止めたんだと自分を責めようとしていた。
それに気がついた日向が先回りして励ましてくれたんだろう。
申し訳ないことをしたという意識は消えないが、ここでうじうじ考えたところで状況は良くならない。
俺は切り替えることにした。
そして天音が話を変えるように言った。
「チェルボのお偉いさんとの交渉はどうする?」
恭介が少し考えてから答えた。
「まぁチェルボのお偉いさんとの交渉は諦めよう。早乙女さんと望月さんが協力してくれることになったし」
「そうだねー。よし。じゃあなんやかんやありましたけども。裏世界に行きますかね!」
天音は目の前のゲートを指差した。
ゲートをくぐるまえに恭介が言った。
「僕たちの中で今までにゲートの先に行ったことがある人って実はいないんだよね。あ、早乙女さんたちはあります?」
「いいや。ない」
「僕もー」
「じゃあやっぱり誰も行ったことがないってことだよね。だから裏世界に何があるのか実際見たことがあるわけじゃないんだけど、石碑によると裏世界は人間以外の表世界の情報をコピーして作られたものらしい」
「あー確か前に裏世界は表世界にそっくりだとか言ってましたけど、そういうことだったんですね。だったら裏世界も表世界の結界の外と同じように人類の文明は滅びて、建物とか崩れまくってるんでしょうね」
「それなんだけど、もしかしたら表世界の結界の外の比じゃないくらい滅茶苦茶になってるかもしれない」
「え、どういうことですか?」
俺が首を傾げていると、望月さんが恭介に言った。
「それって裏世界は表世界と時間の流れが違うって話のことかな?」
恭介は頷いた。
「やっぱりね~。うん。僕、恭介君がなんでこんな話するのか分かった」
「んー? どういうことですか? ……いや待てよ」
俺は顎に手を当ててふむふむ言ってみた。
「裏世界の方が滅茶苦茶になってるってことは、裏世界の時間の流れの方が早いってことですよね?」
「そうでゴザルな。どのくらいの比率なのかは知らんでゴザルが、適当な例えをするとこっちで十年経ったらあっちでは二十年経ってる、みたいなイメージでゴザル」
「あー分かりました。なるほど。俺も恭介の言いたいことが分かりましたよ。つまり、裏世界の魔物はクソ強いから気をつけろってことでしょう?」
「そういうこと」
どうしてこういう話になるのかを理解するには、俺が初めて魔物に遭遇した時にけいから説明されたことを思い出せばいいだろう。
あの時のけいの魔族についての説明の中で今回の話に繋がるのは、
「長生きしてる奴ほど魔力量が多いし、強力な魔法を使う」
という部分だ。
俺の記憶が間違ってなければ、魔族が誕生したのは百年くらい前の話だったはず。
だからもし最古参の魔族が表世界にいたとしても、せいぜい百歳くらいのやつであるということだ。
しかし裏世界は時間の流れが違うため、魔族が誕生してから百年以上経っている。
時間の流れがどのくらい違うのかによるが、その差が大きければ大きいほど裏世界には百歳よりさらに長生きの個体が存在するということになる、多分。
「細かいことを訊くようですけど、例えば時間の流れが百倍くらい違うとするじゃないですか。そんで最近ゲートから表世界に来たやつなら百歳以上のやつが表世界にいるってこともあるのでは?」
「んー。大和って目の付け所がめんどくさいよね。説明が長くなっちゃう」
天音が俺の横腹をつついた。
「ごめんなさい」
恭介は面倒くさい俺の質問にも答えてくれた。
「大和の言う通り、最近裏世界から来た奴だったりすると表世界にもすごく強い魔物がいるってこともある」
「俺からすればどいつもこいつも強いですけどね」
「ゲートは先生がぶっ壊して回ったからあんまり残ってないし、最近はゲートから魔族が出てくること自体減ってるし、そこまで頻繁に強いやつが現れるわけじゃないんだけど、もしそういう強いのが結界の近くに出たら国魔連の人が対処してるね。結界はあるんだけど、一応安全のためってことでね。それで国魔連でも対処できないようなやつが出てきちゃったような時は僕たちがなんとかしてた」
「へぇー」
「僕たちはそういうのを狩るって仕事もたまにしてた。国魔連の人から依頼がきてね。四人とも住んでた国が違うし、同じ仕事してても会うことはなかったけど」
「ん? 依頼? ……もしかしてあなたたちって国魔連の人間ではないんですか?」
「そうでゴザルよ。知らなかったでゴザルか?」
「えぇ!? 知りませんでしたよ! なんか勝手に国魔連の人なのかと思ってました。え、じゃあ一体あなたたちは何者なんですか?」
「何者だと言われても。一般市民として普通に生活してたのに勝手に勇者に仕立て上げられてこんなことさせられてる者でゴザルが」
「はぁー。知りませんでした。じゃあ勇者になる前は何してたんですか?」
「僕は山奥のあの家で自給自足してた。たまに国魔連の人から仕事させられたりしてたけど」
「ほーん。けいは?」
「おっちゃんのとこ一階がバーで二階が住居なんでゴザルが、あ、おっちゃんってこの前会ったシグロ・ゼラクのことでゴザルけど、そんでその二階の住居に居候させてもらってたんでゴザル。一応バイトしたり、恭介と同じくたまに国魔連からくる依頼をこなしたりして家賃はちゃんと払ってたでゴザルよ」
天音の方を見てみると、俺と目が合った天音はゆっくりと首を振った。
「私は秘密。乙女に根掘り葉掘り聞くのは紳士じゃないぜ」
「そ、そうですか」
同じように日向も
「プライベートや」
と言って手でバツ印を作った。
「でも本当に意外だなー。みんな一般人だったんですね」
俺がそう言うと早乙女さんが
「国魔連の連中から依頼を受ける時点で一般人ではないと思うけどな」
と言った。
それから俺たちは妖しい光を放つ黒いゲートをくぐった。
強い光によって一瞬目が眩んだ。
目を開けてみると、さっきまでとほとんど同じ光景が広がっていた。
「おー。とうとう裏世界に来ましたね。一見さっきまでと変わらないですけど」
違うところもあるようだ。
ゲートをくぐる前にはなかったものが見えた。
「あれ、なんですかね。村?」
一面砂漠なのは変わらないが、遠くの方に村っぽいものが見える。
みんなが何も言わないので不思議に思って表情を確認してみると、さっき俺が言った村っぽいやつの方をじっと見ていた。
俺もつられて視線を村の方に戻すと、四、五人ほどの人影がこちらに向かってきているのが分かった。
「なんですかねあの人たち。五人? いや四人だな。あ、なんか手振ってる」
ん?
ちょっと待てよ。
何でこんなところに人がいるんだろう。
あの人たちは一体……。
ついに姿がはっきり確認できる距離にまで近づいてきた。
四人とも男だ。
普通の人間に見える。
恭介たちはなんとも言えない表情をしている。
さっき四天王と向き合った時と違い、戦闘態勢に入っている様子はない。
「こんにちは~」
四人の中で一番背が高い男がフレンドリーに話しかけてきた。
「勘違いじゃなければ今、ゲートから出てこられましたよね?」
「そうでゴザルな」
「ってことはゲートの向こう側の世界の人ってことですよね?」
「せやで」
「おぉ!」
「すごい!」
正体不明の四人は散歩していたら偶然有名人を見つけた、みたいな感じではしゃいだ。
日向が四人に訊いた。
「あんたら魔族やろ?」
ニコニコした男が答えた。
「はい! そうですよ! 私たちは人型魔族、魔人ってやつですね。あなたたちは人間ですよね?」
「せや」
「すみませんはしゃいでしまって。恥ずかしながら私たちはゲートの向こう側に行ったことがないんです。なので人間の方とお会いできるのが珍しくて」
「友好的だな。意外だ」
早乙女さんが誰に向かってというわけでもなく、一人呟いた。
俺は困惑していた。
この人たちは魔族なのか。
でもこの人たちからは敵意というものが感じられない。
単純に好奇心で話しかけてきているように思われる。
あんまり怖くない。
不思議だ。
今度は恭介が四人に訊いた。
「失礼かもしれないですけど、僕たちが人間であることを知っても襲ったりしないんですね。僕たちのことを殺そうと思わないんですか?」
天音が慌てた。
「ちょ、失礼ですがって最初に言えば何言っても許されるわけじゃないからね」
四人は首を横に振り、さっきの背の高い男が代表するように
「構いませんよ。当然の考えだと思います。……あの、ご迷惑でなければ色々お話させていただけないでしょうか? 向こうの方に見えるのが私たちの暮らす村ですので、良ければあちらで。危害を加えるつもりはまったくありません」
と言った。
俺たちは顔を見合わせ、頷いた。
それを見て背の高い男は
「本当ですか!? 嬉しいです! ゲートの向こうの人とお話することができるなんて!」
と言って飛び跳ねて喜んだ。
村に着いた。
雰囲気はチェルボとかなり似ている。
砂漠のど真ん中にある村だが、魔法で色々なんとかしているらしい。
「ここです」
案内されたのは、この魔人の村の村長の家だった。
どうやらさっきの四人の中の一番背の高い男が村長だったらしい。
四人のうち、村長とニコニコしてた男以外の二人は仕事に戻っていった。
この村は自給自足のような暮らしをしているようで、魔法によって砂漠のど真ん中であるにもかかわらず畑で作物を栽培しているらしい。
仕事に戻った二人は畑仕事を中断して俺たちを見物に来ていたようだ。
俺たちは軽く自己紹介した。
それにより相手の名前が分かった。
村長の名前はバラン。
ニコニコした男はフグニコ。
自己紹介を終えたところで日向が話を切り出した。
「最初に訊きたいんやけど、私たちに敵意を向けんのはなんでや? 魔族ってのは神から人間を攻撃するように作られた存在やんか」
村長であるバランは一度ゆっくりと頷いた。
「それをご説明するためにはまず我々魔人がどのように誕生したのかについてお話する必要があると思います」
バランは一呼吸置いてから話し始めた。
「魔人とは魔物が理性を獲得し、人間を模した姿へと進化した存在なのです。魔人は突然変異のようなもので数はとても少ないですが、特別な能力を持っています。それは魔物を操ることができるという能力です」
「魔物を操れる? ……だとするなら表世界に魔族を送り込んでるのはあなたたちってことですか?」
俺は相手が魔族であるにもかかわらず、自分でもびっくりするくらい強気に詰めてしまった。
表世界の人々を脅かす元凶がこの人たちなら許せないという正義感がこの質問をすることを俺に強制したんだろう。
俺の質問にバランよりも先に相変わらずニコニコしているフグニコが答えようとした、それよりも更に早く日向が答えた。
「いや、逆なんやないか?」
「逆?」
今度こそフグニコが言った。
「仰る通りです。私たちはゲートに近いこの場所に村を作り、魔物がゲートの向こう側に行くことがないように監視しているのです。この近くに魔物が来たときは操ってなるべくゲートから遠ざけるようにしています」
「あ、そういうことでしたか。勘違いして嫌な訊き方してすみません」
「構いませんよ」
フグニコは人懐っこい笑顔を見せた。
「んー」
けいがなにやら唸った。
かと思ったらこんなことを言った。
「今ふと思ったんでゴザルが、もしかしてたまに表世界に魔人が来るのは監視をかいくぐって表世界に行ってしまった魔物を連れ戻すなり殺すなりして処分しようとしてたんでゴザルか?」
バランとフグニコは顔を見合わせた。
バランが心底驚いたといった様子でけいに訊いた。
「え、えぇ。まさにその通りですが、どうしてそのような考えに至ったのでしょう?」
「俺は何回かしか見かけたことがないでゴザルが、俺が見てきた魔人はみんな好戦的ではゴザらんかったからな。強かったでゴザルが、基本自衛しかしなかったでゴザルからほとんどの場合見かけても放置してたくらいでゴザル。それに魔人と遭遇するのは俺たちが国魔連からやらされてた結界付近の強い魔物を狩る仕事してた時が多かったのでゴザルよ。今思えばアレはそういうことだったのかなと思っただけでゴザル」
「なるほど。そういうことでしたか」
バランは納得したように頷いた。
それを見て日向が言った。
「えーっと。私が最初にした質問についての答えは理性を得たからってことでええんか?」
「すみません。まだお答えしていませんでしたね。日向さんの質問は、私たちがあなた方に敵意を向けないのは何故かということだったと思いますが、その答えといたしましては仰る通り理性を得たからです。私たちにとって人間を襲うというのは本能に従うということです。それを理性を得たことによって抑えることができるようになり、私たちの中に人間を襲わずに平和に暮らすという選択肢が生まれました。ここにいるのは皆、その選択をした者たちです」
「ふーん。表世界に行ったことがないなら知らんかもしれんけど、表世界の人間の国で生き残ってるとこは基本結界に守られてて魔族と人間が接触すること自体ほぼ無くなっててな。表世界はもう長いこと人間と魔族の大きな争いなんて起こってないんや。そういう意味じゃ、あんたらの平和主義は間違ってないんかもな」
日向はぶっきらぼうな感じだが、これは多分日向なりの優しさだ。
俺も何度か日向の投げやりな優しさに慰められ、励まされてきた。
バランもフグニコも少し頬を緩めた。
「っていうか、今は人類vs魔族をやっとる場合じゃないねん。人類と魔族が手を組んで桜澄さんに立ち向かわなアカンのやからな」
それから俺たちは二人に世界の現状を伝えた。
バランもフグニコも表情を硬くした。
フグニコが重々しく口を開いた。
「もしかするとその小野寺桜澄という方は、昨日ゲートから出てきたあの人かもしれないですね」
バランが同意するように
「そうですね……」
と呟いた。
「え! 昨日コザクラさんが裏世界に来たんですか?」
俺が訊くとバランは困ったような顔をした。
「私たちが寄って行っても何も言わずに立ち去ってしまったので、あれが小野寺桜澄だったのかは分かりかねますが」
「まぁまず間違いなく先生でゴザろうな」
「やっぱりもう裏世界に来てたんだね。僕たちも急いで魔王のとこに交渉に行かないと」
恭介が立ち上がった。
それを見てバランも慌てて立ち上がった。
「あの、私も同行させていただけませんか?」
「願ってもない申し出でゴザルが、いいんでゴザルか?」
「はい。私にも守りたいものがありますので」
そう言ってバランは胸を張った。
「私もついていきます」
フグニコもそう言ったが、バランは軽く首を横に振った。
「あなたは私がいない間、村のことをお願いします」
「……村長がそう言うなら残りますけど」
「はい。任せましたよ。行ってきます」
「皆さん、村長を頼みます。何かあれば私も他の村人を連れて駆けつけます」
こうして俺たちは新たにバランを仲間に加えて、魔王の元へ向かうことにした。