第20話 異世界転生した主人公はどう戦いの覚悟を決めるのか知りたい
突然の出来事に、流石のアルスとセニアも驚きの色を隠せない。
「魔、魔炎龍がなぜ！？」
「魔王様！！下がっていてくれ！！！」
この事態にも『あーこのパターンね』と落ち着いていられる俺は、まだ自分自身に起きた異世界転生をどこか他人事として捉えているのかもしれない。
「大丈夫ですよ２人とも。レイラ、その状態で会話できるかい？」
俺の言葉に更に目を見開くアルスとセニア。
目の前の龍はじっと俺を見た状態で動こうとしない。
「それなら一旦戻ることはできるかい？」
すると龍は眩い光に包まれ、次の瞬間そこに人型のレイラが立っていた。
着用している衣服については不思議現象として疑問を持たないことにする。
ちゃんと来ているから事案ではない。
「「れ、レイラ！？」」
「だ、黙っていてごめんなさい。ただ…あの姿を見せたら親切にしてくれた皆に嫌われると思って…」
「「…………………」」
真剣な顔で固まる２人。
暫しの沈黙の後、非常に申し訳なさそうな表情を浮かべ小さな女の子に素直に詫びる。
「ごめんなさいレイラ、突然のことで思考が追いつかなかったわ。一瞬でも貴方に対し敵意を向けたこと、心よりお詫び申し上げます。」
魔族の大人２人が改めてレイラに頭を下げる。
「お、怒ってないの…？」
恐る恐る尋ねるレイラに対しセニアが答える。
「勿論だ。言いにくい秘密を打ち明けてくれて嬉しく思う。早くお母さんのところにいって薬を飲ませて上げよう。」
母親に薬を飲ませられることもそうだろうが、龍である自分を受け入れてくれた２人に対する感謝もあるのだろう。
セニアの言葉を聞いてレイラは満面の笑顔を浮かべた。
「レイラ、龍の君の姿に俺ら３人と１匹乗っても問題ないのか？」
「うん、全然平気だよ！今から急いで向かえば暗くなる前には母様の元に帰れると思う！！」
レイラの外見から判断するとまだ成体の龍でないだろうに、我々が５日掛かる所を半日か……
この世界でも龍は絶対強者として君臨してそうだな。
その後、改めて龍の姿に戻ったレイラは地に伏せ俺たち３人を背中に乗せてくれた。
お世辞にも乗り心地が良いとは言えなかったが、レイラの言った通り暗くなる前には煉獄の峡谷に到着した。
煉獄の峡谷－
「こっちだよー！」
一刻も早く薬を母親に飲ませたいレイラは小走りで自分の家に向かう。
どっちだ？どっちの姿がベースなのだ？？
子供のレイラがあの大きさの龍になったということは母親の龍はどんなサイズだ？？まさかその状態で生活をしているのか…
ちょっとワクワクしながら向かった先は、普通のこじんまりとした家だった。ちょっと安心した。
どうやら龍は普段人間形態で生活しているらしい。
そっちの方がエコだしね。
「母様ただいま帰りました！薬持って帰ってきたよー！」ﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞｯ
挨拶もそこそこに母親の元に向かうレイラだったが母親からの返答はない。
そこにはレイラによく似た女性が苦しそうに横になっていた。
「母様？寝てるの？？大丈夫？？」
「ん、んんうん…」ﾊｧﾊｧ
レイラの母親の顔色は悪く額には汗を浮かべている。
「か、母様！薬持って帰ってきたから少し待っててね。今白湯をもってくるから。」
そう言ってレイラは家の奥に姿を消す。
「アルス、人間の姿だから確証はもてないが、この眼球の色を見てくれ…」
「どうしたの？……こ、これは……まさか……」
母親の眼球は燃え上がるように赤く染まっていた。
そこにレイラが白湯を持って戻る。
「レイラ、貴方のお母様は普段から目が赤いのかしら？」
「え？どういう………母様！？どうしたのその目！！」
セニアの手によって開かれていた自分の母親の眼球を見て驚愕の表情を浮かべるレイラ。
どうやら普段は赤くないらしい。
「ふ、普段は白いよ！こんなの赤いの初めて見た！！」
「……そう。」
「レイラ、君の母上だが恐らく『狂竜病』という龍族特有の病だ。」
「きょう、龍…病？」
聞いたことがないのかレイラが戸惑った表情を浮かべている。
「それで、母様は良くなるんだよね？大丈夫だよね？？」
訴える様な目でレイラはセニアに問いかけるが、セニアの表情は浮かない。
「レイラ、落ち着いて聞いてくれ。まず第一に、その薬は君の母上には意味がないだろう…」
「そっか……お店のおじさんに悪い事しちゃったね…」
こんな時でも他者を気に掛けられるレイラちゃんは本当に良い子やで…
そういいながらレイラが母親の顔に触れた瞬間母親が激しく痙攣し始めた。
アルスとセニアも慌てて母親の元に駆け寄り身体に触れようとするが痙攣は更に大きくなり暴れ出す。
「お、落ち着いて、母様！大丈夫！？」
「そ、そっちを抑えろアルス！」
「え、ええ！！」
３人は母親をベッドに押さえつけようとするが益々痙攣が激しくなり、それと同時に母親の表情はどんどん険しくなっていく。
「アルスとセニアよ、ベッドのままで構わん！その龍の女子を広い所に連れ出すのだ！！急げ！！！」
それまでじっと眺めていたはちべえが慌てた様にアルスとセニアに指示を出す。
「「しょ、承知しました！！」」
「母様！母様！！大丈夫母様！？」
ベッドごと母親を移動させているアルスとセニアを先頭に開けた場所を目指す。
（はちべえ、何が起こっているのかわかっているのか？）
（はい魔王様、あの女はセニアたちの見立ての通り狂龍病です。厳密に言うと狂龍病の発症前です。）
元々脳内で会話していたので出来るかな？と思ったら案の定、念話が出来た。
レイラに不安を与えないように念話を続ける。
（狂龍病とはどんな病気なんだ？）
（はい、あまり知られていませんが、龍族は普段人間の形で生活しております。実は人間たちの中にも魔族の中にも結構混ざって生活していたりします。）
アルスたちの、レイラが龍に戻った時の反応もそうだし、日本人的感覚の残る俺もだけど、なんとなく龍族は希少、と考えていたがどうやらはちべえの話ではそうでもないようだ。
（龍の姿のままでは人間は勝手に恐れ、魔族は執拗なまでに戦いを挑んでくる。平穏を愛する龍は悩んだ末、多くの龍が人間の姿での生活を選びました。）
おお同士よ…君たちの心俺は理解できるぜ。
（しかし、強大な龍の力は魔族や人間の姿には小さ過ぎます。定期的に龍の姿に戻り力を発散しなくてはなりません。）
軽自動車にF１のエンジン詰んだらボディが持たないのと一緒だろう。
ファンタジー世界でも色々苦労は絶えないもんだな。
（その発散をしないでいると、どんどん小さな身体に発散できない龍の力が溜まっていき、限界を超えると………）
「だ、ダメだ！もう抑えきれない！！」
「アルスさん、レイラを抱えて逃げて！！」
レイラの母親はレイラの変身と比べ物にならない程の光に身を包まれ、辺り一面真っ白な世界に包まれる。
瞬間、レイラの母親を中心に大きな爆発が起こる。
爆発が収まり辺りが静寂を取り戻すとそこには、龍型のレイラの数倍を超える大きさの魔炎龍が鎮座していた。
「発散できない龍の力が溜まっていき、限界を超えると…狂龍病を発症します。発症した後は、力を発散仕切るまで元には戻りません…」
はちべえの解説をBGMに、狂った表情を浮かべるレイラの母親に睨まれながら、俺はこんなはずでは無かったのにと現実逃避を繰り返していた。
母さん、俺は元気です。
