第9話 幼馴染たちの約束
ナイトクリークを後にしダークヘルムに向かう道中。
「「はぁ…」」
あからさまに元気がないアルスとセニア。
チラチラこっちに視線を送ってくるので恐らくため息の理由を聞いて欲しいんだろう。まぁ聞かないけど。
「あー残すところダークヘルムだけだなー。ダークヘルムはどんなところかなー。」
2人にも聞こえるようにダークヘルムについて問うてみる。
普段であれば聞いてもいないような事まで詳しく説明してくる癖に今日に限って乗ってこない。
「あの筋肉馬鹿が治める都市ですからね。ろくでもない場所に決まっています。」
アルスにしては珍しく憎まれ口を叩いてくる。
そういえばゼファがアルスとセニアが嘲笑を受ける切っ掛けがフレイムと言っていたが、もしかしたらため息の原因はそれ絡みかもしれないな。
それはそれで興味はあるけど、今は情報集が一番重要だ。
2人に確認しなくても俺にはサポート犬がいるもんね。
おもむろにその辺の落ちていた木の枝を取りはちべえの鼻先に近づける。
クンクンと臭いを嗅いだのを確認し遠くに投げる。
あ、やべえ。まだ魔王としてのステータスに慣れていない俺はとんでもない勢いで枝を投げ放ってしまった…と思ったらはちべえがもの凄いスピードで枝に向かって走っていった。
しばらくすると、すまし顔で戻ってきてそっと俺の目の前に枝を置いた。
とても可愛いのでもう一回投げたらまた追いかけていき同じように戻ってきた。
先程同様にすまし顔ではあるが、尻尾がブンブンと左右に揺れているからはちべえも嬉しいのだろう。
「魔王様、魔王様からいただいたこの身体ですが、魔王様がモノを投げると不思議な感情が芽生え走って追いかけずには要られません。もう投g(ブンッ
とても面白かったのでその後何回か投げて愛犬との時間を楽しんだ。
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「ゼーハーゼーハ―…ということでダークヘルムは魔王軍の本拠地として四天王のリーダー、『憤怒の炎』ことフレイムが治めております。ゼーハーゼーハー」
一通り遊んだ後はちべえがダークヘルムについて説明してくれる。
どうやらフレイムは他の四天王たちと違い、都市を治めるものとして自身の役割をまっとうしているらしい。
ただその治め方が問題で、恐怖と暴力により魔王軍を従わせているらしい。
言っていること自体間違っている訳ではないので周囲の誰も反発できないでいるとのこと。
「あの馬鹿めが…何も変わらないな…」
セニアが悔しそうにつぶやく。
「薄々感づいてはいるんですが、フレイムさんとお二人の間に何か因縁でもあるんですか?」
面倒くさくはあるけど、フレイムと会う前に知っておいた方が良いだろう。
あれだけ適当なゼファがあそこまで非難しているんだから相当やばい奴なんだろう。
「……実は他の四天王たちとは学園からの付き合いなんですが、フレイムとセニアと私は乳飲み子からの幼馴染なんです---
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フレイム(3歳)「待ってよー!アルスちゃん、セニアくん。僕そんな早く走れないよー」
アルス(3歳)「フレイムさん、早くここまでいらっしゃい。遅いですわよ。」
セニア(3歳)「フレイムよ、気合が足りないぞ!」
家が近所の幼馴染3人組は、他の魔族同様自分のトレーニングに精を出す親たちから半ば放任気味に育てられ、幼い頃から非常にわんぱくに育っていった。
「今日も裏山の御神木に最初に到着した方が魔王役ですわよ!」
「今日も俺が魔王をいただくぞ!」
「あ~ん、そのルールだと僕また勇者役になっちゃうよ~。」
魔族の子供たちの遊びといえば専ら魔王ごっこ。
幼い3人も同様、飽きもせず毎日の様に魔王ごっこで遊んでいた。
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-夕暮れ
カーカーカー
「「「ハァハァハァハァハァハァハァッ」」」
いつも通り全力で遊び尽くした3人は精も根も尽き果て大の字で地面に寝転がっている。
「ね、ねぇアルスちゃんとセニアくん…笑わないで聞いてくれる?ハァハァハァ」
「「どうした(の)フレイム(さん)?」」
「ぼ、僕も今から死ぬ気で頑張るから、2人と一緒に魔王軍ににゅ、入隊したいんだ!!」
「「………」」
フレイムの叫びに顔を見合わせ固まるアルスとセニア。
「や、やっぱり僕みたいな弱っちい魔族じゃ無理かな……」
「フフフ。それならば明日からもっと激しく訓練しないといけませんわね。」
「フレイムよ、我ら3人は魔王軍に入隊するのが目的ではない。我らは魔王様の側近になるのだ。遅れるでないぞ?」
「…!?う、うん!!」
比較的成長が早く才能に恵まれていたアルスとセニアに対し、幼いフレイムは周りの子供と比べ身体が弱く、2人に着いていくので精一杯だったが、
そんな2人は近所の悪ガキにフレイムがいじめられていると、いつもどこからともなく助けに来てくれる、幼いフレイムにとって『魔王物語』の魔王よりも身近なヒーローであった。
フレイムもそんな2人の期待に応えようと頑張り、切磋琢磨して3人は共に成長していくのだった。
時は流れ10年後-
「フレイムよ、お前はまだ加重50㎏腕立て伏せ1000回も出来ないのか!?こんな簡単な事アルスとセニアは5年前には片手で出来ていたぞ?」
「す、すみません先生」ゼーハーゼーハー
魔学園の中等部に上がってもまだフレイムの身体は弱く、アルスとセニアとの差はさらに広がっていた為、2人の足を引っ張り続けるくらいなら、自分は2人から距離を取った方が良いのかもしれないとフレイムは本気で考え始めていた。
教師もアルスとセニアにフレイムがくっついているのが面白くなく、遠回しに距離を取るよう促してきている。
実際問題、アルスとセニアの実力があれば飛び級で高等部に進学しても、そこですらトップクラスであろうと噂されている為、教師たちの気持ちもわからなくはない。
落ちこぼれのせいで将来の魔王軍幹部候補の成長を妨げる訳にはいかない。
ただし、アルスとセニアはフレイムのことを抜きにしても飛び級を望んでおらず、じっくりと基礎を身体に染み込ませたいと考えているのだが、それをフレイムに知る由はなかった。