第8話 四天王ゼファ
「それで魔王様は私に何を望むの?ハツハッハッ」ダダダダダッ
今俺は『無邪気な放浪者』の二つ名を持つ、ナイトクリークを治める風の四天王ゼファと対面している。
治める、と言っても他の四天王同様積極的に内政に関わることはなく、自分は専らジムで汗を流しているようだ。
「人間との争いを終わらせるのにご協力いただきたいです ハッハッハッ」ダダダダダッ
ゼファの見た目は普通の女の子だ。
今まで見てきたアルスやセニア、他の四天王と比べると一回り以上若く見える。
ガイアに関していえば孫といっても通じるかもしれない。
人間でいう女子高生くらいの見た目かな。
ちなみにゼファも例に漏れず非常に見た目麗しい。
「そんなこと本当にできるの?ハツハッハッ」ダダダダダッ
「私一人の力では無理かもしれませんが、四天王様たちの協力を得ることが出来れば実現できると考えていますハツハッハッ」ダダダダダッ
こればっかりは魔族たち自身で実現してもらう事に意味があるからね。
ちなみに対面していると言ったが厳密にいうと全然違う。
ゼファに付き合ってランニングマシーンで全力疾走中なので『対面』ではなく『並走』中だ。
案内されてゼファの元を訪れるとトレーニング付き合ってくれないと話を聞かないと言われ現在に至る。
非常に疲れるが、若さのおかげなのか前世では考えられない程体力があるようで今の所ゼファについていけている。
「ん、わかった。いいよーハツハッハッ」ダダダダダッ
「ありがとうございます。助かりますハツハッハッ」ダダダダダッ
ちなみにガリポチャは壁際で既に燃え尽きている。
一緒に走り始めたのはいいが普段運動なんて殆どやっていないので速攻脱落して周囲の魔族からの嘲笑を受けている。
俺が馬鹿にする分にはいいけど、ろくに彼らのことを知らない連中に馬鹿にされるのは何故かイラッとする。
取りあえず加護の力を使わずにメンチを切っておく。
小学1年生に睨まれても可愛いだけだろうけど俺の気分の問題だ。
ピッピッピーー
ブザーが鳴ってランニングマシーンの終了を知らせる。
用意されていたタオルで汗を拭きながら会話を続ける。
「俺は助かりますけど、そんな簡単に了承していいんですか?今の所皆さん最初は凄い反対されましたけど…」
「基本うちは自由にやらせてもらってるからねー。それにあのつまらなさ過ぎて逆に笑えるガイアを納得させた時点でもう普通じゃないじゃん。だったら自由にしてもらう方が面白いかなーってね」
「ハァハァハァハァ ぜ、ぜ、ぜふぁ…魔…さm、、、無礼m…ハァハァハァ」
息も絶え絶えといった状態のアルスがゼファの態度にいつものように文句を言おうとしているのだろうが全く聞き取れない。
「お二人は邪魔なので壁際で一生スクワットしていて下さい」
「「……ハァハァハァ」」
2人は素直に壁際でスクワットを始めた。
少し嬉しそうにしているのがムカつく。
滅茶苦茶なフォームなので正しいフォームを教えてあげたいがそれはまた今度にしよう。
「超ウケるww」
何がそんなに楽しいのか、ゼファは屈託のない笑顔でケタケタと笑っている。
「魔族はねー、良くも悪くも結局自分本位なんだよねー。結局うちらも四天王なんて呼ばれて偉そうにしてるけど、普段は好き勝手に動いていざ必要な時も結局実務に関しては全部あの2人に任せちゃってるんだよねー。」
ゼファは話しながらチラっと壁際の2人を見る。
「アクアスも医療の研究なんて偉そうに言ってるけど実際のところ結局は自分が戦う為だし、ガイアも学園の事なんてはほぼノータッチ。あれは筋トレさえできれば他はどうでもいいんだろうね。」
アルスとセニアは本当に四天王からの評価が高いな。
でもそれを理解して評価しているってことは四天王たちもなんだかんだいって周りを見えている証拠なんだけどね。
この人たちは揃いも揃って本当に不器用なんだな。
「フレイムに至ってはあれはもうダメね、自己中の塊だね。昔は魔族の為にー魔王様の為にーって修行に明け暮れていたはずなんだけど、今はもう自分が強くなることしか考えていない。もう私たち以外の言葉なんて聞こうとすらしてないし。ちなみにアルスとセニアが嘲笑される切っ掛けを作ったのもあいつだよ。」
若干の怒気を含んだ口調でフレイムを評している。
フレイムといえばダークフレイムを治める四天王のリーダーか。
順当にいけば明日にはダークフレイムを視察する予定だけど凄い心配になってきた。
嘲笑される切っ掛け、というのは気になるが大丈夫かな。
「それにしてもあんなに楽しそうにしているあの2人は久しぶりに見たよ。あれであの2人はウチらよりよっぽど優秀だから、いくら魔王物語の予言を信じていたって、何も感じなかったら魔王様のこともすぐ見限っていたはずだよ。」
そういえばアクアスも言っていたけど『魔王物語』の予言ってのは何なんだろう。
視察が終わって落ち着いたら見てみたいな。
「そうだといいんですけど。特にあの2人に特別何かした訳ではないので逆に気まずさも感じます。」
「ウチにはわからないけど、それはあの2人にしかわからない何かがあったんじゃないの?知らんけどw」
ゼファの軽さは旧友との絡みのようで非常に気楽でいい。
アルスやアクアスのような見た目が大人の美女は会話するだけで緊張するけど、いくら可愛くても女子高生くらいにしか見えないゼファは全然緊張しない。
姪っ子と話してるような感覚だな。
「ちなみにゼファさんはプロテインはお好きですか?」
こっちの要望だけ押し付けてばかりいては本当の魔族関係?は築けない。
俺に協力するメリットを感じて貰いたい。
「正直好きも嫌いもないよー。あれしかないから考えたこともないかな。」
「わかりました。次回お会いする時楽しみにしていて下さい。きっとびっくりしていただける手土産をお持ちします。」
若い女性と言えば甘味に限る。色々なフレーバーを開発しよう。
万が一お気に召さなかったらその時ばかりはスキルで何とかさせてもらおう。
「自分でそんなハードル上げていいのw?楽しみにしてるねー。」
そうしてゼファがいたトレーニングジムを後にすると、魔族の癖に運動不足のアルスとセニアは生まれたての小鹿みたいになっていた。
全力疾走の後に無限スクワットをさせていたのが効いたらしい。
非常に良いことだ。立派なハムストリングスに育つが良い。
残す都市は王都を除き四天王リーダーのフレイムが治めるダークヘルムのみ。
ゼファの話を聞くとちょっと面倒臭そうだけど、避けたところで後回しになるだけだ。
面倒なことはさっさと終わらせよう。