「動物になりたいのか?」
気のせいか、キツネが喋った。
僕は固まる。
「人間を辞めて、動物になりたいのか」
「……喋った」
気のせいではない。
やはり喋った。
キツネ自ら僕に近付く。
「本当に、動物になりたいのか」
「なりたい! なれるの?」
キツネの問いに、僕は一拍遅れたが食いついた。
キツネは理解したようで、僕の体に巻き付く。
「近くに稲荷神社があるだろう。そこに毎日お参りを三ヶ月しなさい。雨でも毎日です」
そう耳元で囁くように僕は言われた。
キツネに化かされたのか、神のお告げか。
でも、言われたことは事実。
聞こえたかと思うと、白いキツネは煙のように消えていった。
そこで僕は、一つの問題にぶち当たる。
「……外に出なきゃだめじゃん!」
外出するのが嫌なのに、神社にお参りをしなくてはいけない。
しかも三ヶ月間毎日。
しかし、これで本当に動物になれるなら、と、僕は神社に向かった。
久しぶりに外を十分間歩くだけでも、すごく疲れる。
足も腕も体中が重い。
もちろん、すれ違う人の目にも怖さがあった。
「こんにちは」
神社に着くなり、参拝客から挨拶をされるが、僕の口からは挨拶が出てこない。
言葉が喉につっかかり、出ないのだ。
なんとか一回目のお参りをするも、これをあと三ヶ月もするのか、と、心が折れかけた。