247 岩石の村からの依頼①
「社会主義が、なぜ上手くいかなかった、ですか」
マナトの言葉に長老がうなずく。
「うむ。前のお主の話じゃと、社会主義と主張している国も、経済自体は、結局、資本主義化しておるそうじゃないか」
「そうですね」
「それは、どうして?」
「そうですね~、人間について、本質的に理解できていなかったというか、なんというか……」
「ほう、それはどういうことじゃ?」
「頑張っても、その頑張りが評価されない世界で、人間は頑張れなくて……」
長老とマナトが、紅茶をすすりつつ、議論している。
「そういえば、ムハドさんて、いまどこに?」
菓子に手を伸ばしながら、ステラはリートに聞いた。
「あぁ。書庫で、ゴロゴロしてるっすよ~」
「あらっ、こっち来て、一緒にお茶すればいいのに」
「まあ、一応、ラクダ騒動の責任を取って、謹慎中ということになってるっすから」
「なるほど」
「……ぜったい、反省してないと思うっすけど」
誰にも聞こえないくらい小さい声で、リートはボソリとつぶやいた。
紅茶と菓子がなくなったところで、休憩を終え、作業に戻った。
「長老、もう少し、メロ共和国のあれこれについて、調べてみますね」
マナトは言うと、書庫からひっぱり出してきたメロの国の書簡を手に取って、読み始めた。
「それじゃ、私はいつもの作業をっと!」
ステラは各国、各村の依頼リストの束を手にとって、ペラペラとめくっていた。
「あらっ。長老、この運搬依頼って……」
「ほう、どれどれ?」
依頼リストの束から、ステラは一枚取り出して、長老へ渡した。
「ふむふむ、なるほど。彫刻と絵画の運搬、岩石の村から、か」
「えっ、岩石の村?」
マナトは顔を上げた。
「うむ。ちゃんと、依頼主も、書いておる。岩石の村のシュミットと、サーシャという者じゃな」
「おぉ!そうなんですね」
自分達の目の前で自ら作製した、十の生命の扉の彫刻をメチャクチャにしているシュミット。
所々を青く汚したドレスを着て、ラピスを砕いて、石板のキャンバスに向かうサーシャ。
2人の姿が、マナトの頭に浮かんだ。
「マナトくん、知り合い?」
「はい」
……2人とも、完成したのかな?
2人とも、マナトが岩石の村へ行ったとき、関わりのあった者だ。
シュミットは十の生命の扉の彫刻を、サーシャは、海の絵画を作製していた。
「んっ?これは……?」
「……どうしたっすか?長老」
「いや、てっきり、岩石の村から、メロ共和国までの、普通の運搬依頼と思ったんじゃが……」
長老が、依頼の紙を見ながら、首をかしげている。
気になったリート、ステラ、マナトは、長老の横からその紙をのぞき込んだ。
「ええと……護衛がついてて?」
「馬車もついてて?」
「メロ共和国まで、と?」
「あぁ、これって……」
リートが、書いている内容を理解した様子で、言った。
「岩石の村から、この依頼主も、一緒にメロまで行くつもりじゃないすか?」