242 マナトの家にて
ラクトは長老の家を離れ、マナトの家へとやって来た。
マナトの家は長老の家と同じ砂漠寄りのエリアにあって、独り暮らし用の小さな住居だ。
……この家見ると、俺も、独り暮らししたくなるなぁ。
ラクトは密林寄りのエリアで、家族で暮らしており、マナトの家に来る度、自由気ままに暮らしているマナトのことを羨ましく思っていた。
「おっ?」
カギが開いている。マナトは必ず、内側からカギをかけていたハズだが……。
ラクトはなにも考えず、マナトの扉を開けた。
「お~い、マ……」
「ん~!コスナ~!もふもふ~!」
マナトがコスナと戯れていた。
「……」
「もっふ~!……はっ!?」
コスナの身体に顔をうずめている状態のマナトが、家の扉を開けてげんなりした顔で見ているラクトに気づいた。
――ニャッアァ……。
コスナを見る限り、決して嬉しそうにしていない、いや、むしろちょっと迷惑そうだ。
前肢の肉球で、プニプニとマナトの頭を押し叩いている。
マナトはゆっくりとコスナを離した。
――ニャッ!
ラクトに気づいたコスナは、窓に設けられたコスナ用の小窓から外に出ていった。
そして、マナトはラクトのほうを向き、笑顔で言った。
「やあ、ラクト」
「いや手遅れだからな?」
※ ※ ※
「もう、ラクト、せめて、家に入ってくるときくらい、扉ノックしてよ」
家にあがり、靴を脱いで、絨毯の上で寝転がってゴロゴロしているラクトに、マナトは苦笑しながら言った。
「いやぁ、扉開いてたからさ。珍しいなって思って。なんも考えずに開けちまった」
「やっぱり、カギ閉めておかないと……」
マナトはぼそりとつぶやいた。
「まあ、いいや。ラクト、お菓子、食べる?」
「いや、いい。さっきミトとステラと飯食ったからな」
「あっ、そうだったんだ」
「いやぁ、やっぱり、独り暮らしって、いいよなぁ」
ラクトはマナトの家に来るたび、これを言っている。
「でも、そろそろ、交易で得たお金、たまってきたんじゃない?」
「そこは、ぜんぶ、お袋にあげてるからな。オレ自体は一文無しなんだ」
「えっ、なにそれ……めっちゃ、真面目じゃん」
「代わりに、家業はこのとおり、サボりまくってるけどな。よっと……」
寝転んでいたラクトが起き上がってあぐらを組んだ。
「そんで、メロ共和国の交易だけど、まだみたいんなんだよ」
「そっか~。まだ、酒場の大扉のリストにはなかったんだね」
「ああ。それに、長老が家の前にいてさ。ちょっと話して、そこで言われたんだけど、なんか、メロ共和国について、いろいろ調べてるみたいでな」
「あぁ、そうみたいだね」
ラクトは、部屋の壁に飾ってある、アクス王国の交易時、ウテナに選んでもらった幾何学模様の鮮やかな紺色の肩掛けを眺めた。
……アクス王国の交易から、なんだかんだで、結構、経ったよなぁ。
ラクトはしみじみと思った。