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友情

 大和の魔法について新しいことが分かった。
どうやら壊れているものを元に戻すことができるようだ。

「大和、どういうことなの?」
恭介が心底不思議そうに訊いた。

「多分木刀にとって折れているっていうのは状態異常ってことなんだと思います。だからコレクトで正常な状態に、つまり元通りにできた」
大和の説明を訊いても僕はなんだか腑に落ちなかった。

恭介も納得していないようで
「んー。なんか納得いかないな。わけわからん。コレクトについては色々検証が必要みたいだね。魔法のことならやっぱ日向を交えた方がいい。あとで相談してみよう」
と言った。

僕はそれに頷いて同意した。
「そうだな。とりあえず風呂行くか。ここの温泉有名なんだよ~」

「楽しみです!」
大和はニッコリと笑った。

大和のコレクトについては一旦置いておくことにして、僕たちは温泉に行くことになった。


 大和が温泉を見て声を上げた。
「おー! すごいですねー! にごり湯じゃないですか」

「いい雰囲気だな。落ち着く」
恭介が天井や床を見てから言った。

僕も真似するように上も下も見た。
天井は結構高くて、デカい(はり)がある。
黒い石床で、それもなんだかお洒落な気がする。
流石結構いい値段のする温泉旅館だ。

湯舟に浸かるとため息のような声が出た。
「ふぃー。いい湯だなー」
「だねー」
恭介もふにゃけた表情で同意した。

呆然と天井を眺めていると、大和が僕と恭介の体をじっと見てきた。

「それにしても、二人とも鍛えてますねー。俺も大概鍛えてるつもりでしたけど、二人に比べるとまだまだですねぇ」

僕は軽く首を振った。
「いやいや。僕たちは先生にバチボコに鍛えられたから勝手にこうなっただけで、大和は自分を変えるために自分の意志で努力した結果でしょ? 立派だと思うよ」

「そうですかね。そう言われると素直に嬉しいですね。ありがとうございます。へへ」
大和ははにかんだ。

そんな大和を見て恭介が思い出したように言った。
「そういえば、改めて考えてもほんと災難だったね。気づいたら違う世界にいるとか」

「ほんとだよなー。ごめんな。こっちの世界の都合で勝手に召喚したりして」
僕はこの世界を代表するようにして謝った。

「けいが召喚したわけでもないですし、どうせ俺はあのままだったらいつか駄目になってたと思いますよ。変わろうと努力はしてましたけど、何も状況が変わる気配はなかったですし。ギリギリ心が折れてなかっただけで、そろそろ限界だとは思ってました。何か自分を取り巻く環境が一変するようなきっかけが欲しかったんです。ちょうど良かったんですよ」
そう言って大和は儚げに微笑んだ。

「そっか……」
恭介は大和に何か言おうとしているが、言うかどうか迷っているようだ。

「えーっと。言うべきことか迷うんだけど」
恭介はそう切り出した。

「何ですか? なんでも遠慮なく言ってください」
「そっか。じゃあ言うけどさ、色々相談してくれていいんだよ?」
恭介は真剣な顔つきでそう言った。

「相談ですか?」
大和が首を傾げる。

恭介はそのまま続けた。
「うん。隠してるつもりかもしれないけど、大和ずっと空元気でしょ? 初めて話した時からずっと感じてたんだけど、なんか誤魔化してるようにしか見えない。会ったばかりの関係だし、信用できないのはしょうがないのかもしれないけど、僕たちこれから一緒に旅する仲間でしょ? 悩みがあるなら相談してほしいな」

「……バレてましたか。すみません。これじゃまるでかまってちゃんですね。俺そんなに分かりやすかったですか?」

「いや、上手に隠せてたとは思うよ。多分ずっとそうやって周りに心配かけないように生きてきたんでしょ?」

「何で分かるんですか? そういう魔法?」
大和は観念したように苦笑いしながら恭介に訊いた。

「違うよ。多分昔の自分たちに似てるから分かるんじゃないかな」

「確かに恭介はそんな感じだったな」
僕は大きく頷いて同意した。

「天姉もね。まぁとにかく、大和の空元気には多分天姉も日向も気づいてると思う。だから、安心していいよ。大和の苦しみに僕たちはちゃんと気づいてる」

僕も付け足すように言った。
「ぶちまけたいことがあったらいつでも言ってねー。師匠である僕が聞いてあげるよー」

大和は僕たちを見て一瞬固まったが、すぐに目を逸らした。

「……はい。……あの、俺ちょっと、のぼせちゃった、みたいでっ……涼んできていい、ですか?」
そっぽを向いたまま声を震わせてそう言った。

「うん。僕たちはもうちょい入ってる。ゆっくり涼んでくるといいよ」

恭介が優しく声を掛けると、大和は顔を背けたまま黙って頷いて風呂を出た。

大和がいなくなってからしばらく僕たちは黙っていた。

やがて恭介がゆっくりと口を開き、反省するような口調で言った。

「なんか大和見てたら昔を思い出して勢いのまま言ってしまった。本人が隠してたんだし、余計なことだったかも。やっぱ言わない方が良かったと思う?」

「どうだろうな。少なくとも僕には正解だったように見えたけど?」

「そうか。それなら良かった」
恭介は安心したように肩の力を抜いた。

「恭介って冷静に見えるけど割と感情的なとこあるもんな」
「うっ。分かってるつもりなんだけどな」

「いや、そこが恭介の良いところでもあるし。多分大和にもちゃんと伝わってる」
「だったらいいな」

風呂から上がると、大和が椅子に座って呆然としていた。
大和は僕たちに気づくと少しだけ微笑んだ。

大和の目は少し赤くなっていたが、それには二人とも触れなかった。


 風呂から上がったところで、僕たちは天姉と日向が泊まる部屋を訪ねた。

そして二人に大和の魔法について新しく分かったことを説明した。

日向は驚いたような呆れたようなリアクションをした。

「マジか。そもそもわけわからん魔法やったけど、いよいよ意味不明やな。魔法陣が起動できんかったのもやっぱ気になるし、もうちょっと詳しく調べてみてもええか?」

「はい。全然良いですけど、何すればいいんですか?」
大和が訊くと日向は
「私にコレクトしてみてくれへん?」
と言った。

「いいですよ」
さっそく大和は日向の肩に手を置いて魔力を込めて
「コレクト」
と言った。

「ん? コレクトって声に出して言った方がいいの?」
天姉が大和に訊いた。

「うっ。いや別に言わなくてもできますけど、なんか気分アガるじゃないですか」

日向が大和をフォローするように
「天姉の場合は魔法陣使うからあんま分からんかもしれんけど、魔法ってイメージが大事なんや。声に出すことで自己暗示やないけど、まぁそんな感じで自分の中で方向性を定めるのに良かったりするんや」
と説明した。

「へぇーそうなんだ」
分かってるのか分かってないのか、天姉は適当に相槌を打った。

「そうなんですねー。なんかカッコいいかなって思って声に出してましたけど、まさか効果があったとは」

日向が話を戻した。
「いや、そんな話はどうでもええねん。えーっとな。結論から言えば、大和はコレクトしかできないと思われる」
「え、どういうことですか?」

日向は難しい顔をして説明を始めた。
「どうも魔力の性質が違うっぽい。魔力の量自体は十分足りてるのに、初心者用の魔法陣すら起動せんかったのはそれが原因みたいやな」
「性質が違うって?」
恭介が訊く。

「そのままの意味や。そうやなー。電源周波数が違うと家電が使えんかったりするやん? そんなイメージかな」
「んー。よく分かりません」
大和がはっきりそう言った。

分からないことを分からないと正直に言えるのが大和のいいところかもしれない。
無知の知は大事だ。

日向は根気強く説明を続ける。
「まずは魔法っていう現象の正体についてやな。この世界には、あらゆる場所に満ちてるマナっていう物質があるんやけど、マナは魔力を込めることで性質が変化するんや。そんで魔法ってのはマナに魔力を込めることで、マナが炎だったり水だったりに変化する反応が起こってるってことなんや。つまりさっきの話で言うと、マナが家電で魔力が電源ってことやな」
「なるほどなー」
天姉が適当に相槌を打つ。

「ちなみに魔法陣やったらどんな性質にマナを変化させるのかってのを決める必要がない。魔法陣自体がそれを表現してるからな。魔力を込めればそれを蓄積して、勝手に魔力を調整して放出してくれるんや」
「それってどんなメリットがあるんですか?」

「魔力を調整する必要がないから才能がなくても魔力さえあれば魔法が使えるんがメリットやな」
「ふむふむ」

「でも魔法陣ってあんま小っちゃかったり、雑やったりしたらエネルギー変換効率が悪くなって必要な魔力が膨大になるんやけどな」

「小さいのもダメなんですか。でかい方がいっぱい魔力が必要そうなイメージなんですけど」

「でかい方が演算が効率化されるとかなんとかかんとからしいで。まぁ話が逸れたけど結局」
「俺はどんだけ努力して魔力の量が増えても」
「コレクトしか使えんっちゅうことやな」

大和は俯いたかと思ったら、勢いよく顔を上げた。
「つらい。でも! 今日コレクトに新たな可能性を見出しました! 使いようによっては結構すごい魔法かもですよ!」

「そう。そのコレクトなんやけど、ほんまにすごい魔法かもしれんで」
「え、マジですか?」

「おん。私、けいのこと空間魔法のテレポートで迎えに行ったやん? 距離が距離やったから結構魔力消費してて昨日今日ずっときつかってんけど、大和のコレクトで魔力が回復したんや」

「……ん? なんで?」
僕は訳が分からず訊き返す。

「多分コレクトって魔力が少ない状態も状態異常と見なして正常にするんやろうな」

「は? なにそれズルくね?」
僕がそう言うと
「でもな、ほら見てみ」
日向が大和を指差した。
見てみると、大和はうつらうつらしている。

「魔力の消費は結構激しいんやろな。もう魔力が切れてる」
「あれ? なんか、すごく、眠いです……」
大和はトロンとした目で言った。

「ここで寝んなよ。ここ女部屋なんやからな」
「ふぁーい」
大和は大きく欠伸しながら答えた。

「とにかく、検証は明日に持ち越しやな。今日はもう休ませたって」
日向がそう締め括った。

「分かった。んじゃ部屋に戻る。おやすみ」
恭介が大和を肩に担いだ。

「「おやすみー」」
日向と天姉が呑気に返事した。

部屋に戻る途中、寝息を立てている大和に恭介が
「良かったな。もしかしたらお前ヒーローになれるかもしれないぞ」
と言った。

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