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 僕たちは荷物をまとめて、恭介の家を出た。

「それじゃ、いよいよ出発だね」
天姉が大きく伸びをしながら言った。

「お、いよいよですか! 最初はどこに向かうんですか?」
興味津々に大和が訊いてくる。

恭介が答えた。
「魔王のとこに向かう前に行かなきゃいけないところがあるんだ。ヴォルペを集合場所にした理由なんだけど、ここで武器を作ってもらう予定なんだよね」
「武器ですか?」

「そうなんだよ。なんかそういう職人さんがいるの」
「素材は持ってるからそれで作ってもらうんだー」
天姉が得意げに言った。

「何を作ってもらうんですか?」
「僕は刀だねー。今持ってるやつじゃ先生にすぐ折られるだろうし」
僕はパーカーの前についているポケットに右手を突っ込んだ。

ポケットから少し手を引き抜いて、握った刀の柄を大和にちらりと見せる。

「え!? どうなってるんですかそのポケット!?」
大和は目を大きく見開いた。

「言ってなかったっけ? 日向の空間魔法でこのポケットたくさん収納できるようになってるんだよ。みんなの服もズボンのポケットとかそうなってるよ。大和の服もさっき日向が空間魔法を施してたからそうなってると思うけど」
僕がそう説明すると、大和はズボンのポケットに手を突っ込んだ。

「え? あ、ほんとだなんか広い。どこまでも入りますね。すご! さすが魔法! ……いいなぁ。俺なんか状態異常を治すとかいうわけわからんことしかできないのに」

「それ長いからなんか名前つけようよ」
いちいち状態異常を治す魔法って言うのは面倒だ。

僕の提案に大和は
「あー確かにいいかもですね。そしたらちょっと愛着が湧くかも」
と言って考え始めた。

……。
結構考えてる。
中々決まらないようだ。

「そうねー。……正すってことで、コレクトは?」
考え込む大和に天姉がそう提案した。

「おー。言いやすいし良いですね! ちょっと親しみが湧いたかもです。ありがとう天音」
「にへへ」
天姉はドヤ顔をしながらニヤけた。

「そういえば武器作ってもらうって話でしたよね。けいは刀ってことでしたけど、他のみんなは何を作ってもらうんですか?」
「私は武器いらない」
天姉は即答した。

「天姉は素手やもんな。私は杖や」
日向は指揮棒を振るようなジェスチャーをした。

恭介は
「僕も杖だね」
と答えた。

「あ、魔法っぽいですね。そういやさっき素材は持ってるって言ってましたけど、何の素材で作るんですか?」

「ゲートの素材だよ」
僕が答えると、大和は僕たちの話を思い出すように上を向いて
「ん? ゲートって裏世界に繋がってるっていうゲートですか?」
と訊いてきた。

「うん。実はあれ壊せないんだよね。壊せないように神が設計したらしい。すっごい丈夫なの」
「壊せないならなんで持ってるんですか?」
僕の説明に対して大和は当たり前の疑問を口にした。

「昔先生がくれたの。なんかあった時のためってね」
「はぁ。じゃあコザクラさんは何で持ってたんですかね?」
「先生がゲートぶっ壊したからだろうね」
「……はい?」

「壊せないはずのゲートをぶっ壊したの。まぁそれが魔王が誕生した一番の原因だって言われてるんだけど。先生が各地のゲートを壊して回ったから、やばいと思った神が魔王を誕生させたっていう説が有力なんだよね」
僕の説明を聞いて大和は引いたようだ。

「……ほんとコザクラさんは規格外ですね。あ、そうだ! 武器といえば、勇者にしか抜けない剣とかないんですか? 俺一応勇者なんですし」

「あったんだけどね……」
恭介が気まずそうな顔をする。

「あった? どういうことですか?」
「召喚された勇者にしか抜けない、地面に刺さった剣はあったんだけど、先生が折っちゃったんだよ」
「……折った?」

「そう。その剣は先生にも抜けなかったんだけど、あの人ちょっと力入れすぎたみたいで、ポキッと」
大和が唖然としている。

「剣身はまだ刺さってるけど、まぁ役に立たないだろうね」
天姉が大和の心を抉るように付け加えた。

「……」
「お、落ち込まないでよ。ほら、元気出して。餅食べる?」
慌てて天姉が大和に餅を差し出す。

「……いらないです。俺は元気です。……ところで、さっきから気になってたんですけど、この狼と狐はなんなんですか?」
恭介の家を出てからずっと僕たちの後を狼と狐がついてきている。

「あー。こいつらは僕と恭介のパートナーだよ」
僕は屈み込んで狼を撫でながら言った。

「パートナー?」
「えっと。説明が面倒なんだけど、どっから説明しようかな……恭介に任せた」
僕に丸投げされた恭介は僕と同じようにしゃがんで狐の頭を撫でながら説明を始めた。

あ、ちなみにもし野生の狐を見かけても触れてはいけない。
エキノコックス症っていう……説明が面倒だから気になる人は調べてください。

「僕とけいの実家は神社なんだよ」
「へぇ! なんかすごいですね」

「けいの実家は狼を祀る神社で、僕の実家はお稲荷様、つまり狐を祀る神社なんだよね」
「ふむふむ」
大和が相槌を打つ。

「それでまぁ、祀ってる狼と狐に気に入られたみたいで」
「ん? じゃあこの子たちは神様ってことですか!?」

「まぁ神ではあるんだけど、正体は魔力だからねー」
「正体が魔力?」

「うん。神っていっても、この世界を作ったようなレベルの神ってわけじゃなくて。んーなんて言ったらいいのか」
「強い想いには魔力を生み出す力があるって言ったでしょ? これがその一例なんだよ」
僕がそう言うと、大和はじっと狼と狐を見つめた。

「……つまり想いによって生まれた魔力がこの子たちの正体だと?」
恭介は頷いた。

「そう。この世界を作った神、ノケデライオって名前なんだけど、そいつは人を作った神、こいつらは人が作った神、みたいな感じ。人々の信仰とか、強い想いとかが魔力となって神が生まれたってこと」
「魔力は神でさえも作ってしまうんですね。ほえー」

僕は
「魔力だけあればいいってわけじゃないけどね。人の想いがあったから、魔力に意識が芽生えて神になったんだよ。だから神っていってもノケデライオみたいに世界を作るようなとんでもない力を持ってるわけではない。あくまで信仰の対象って意味の神」
と付け足した。

「それでも心強いですね」
大和が狼と狐に
「よろしくね」
と言ってニコニコしながら手を振った。

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