オープンスクール
翌朝。
僕たちは四人で学校に向かっていた。
「昨日はすみませんでした」
歩き出したところで桜が謝ってきた。
「気にするなでゴザル」
「いいってことよ~」
「別にいいよ」
僕たち三人はほぼ同時に答えた。
「へへ。ありがとうございます」
桜は穏やかに微笑んだ。
少し心配だったが、もう大丈夫そうだ。
「それより、何も考えずに和服で来てしまったけど大丈夫でゴザルかね?」
けいが自分の服を見ながら言った。
「珍しいとは思いますけど、多分問題ないと思いますよ」
「そうでゴザルか」
「桜は制服着てこなくて良かったの?」
僕が訊くと
「多分大丈夫なんじゃないですかね。知りませんけど」
桜は適当に答えた。
雑談しながらしばらく歩いていると、僕たちと同じ方向に進む中学生と思われる子供たちが増えてきた。
この子たちも多分オープンスクールに行くのだろう。
見た目だけでどうこう言うのもどうかと思うが、なんだか個性的な子が多い。
髪を染めていたりピアスを開けていたりする子がたくさんいる。
さりげなく周りの子を観察しながら進んでいると目的地に到着した。
豪落高校はそこそこ歴史のある学校らしい。
校舎の様子からもその歴史を感じ取ることができる。
悪く言えばボロいだけだが、趣があって僕はあんまり嫌いじゃない。
「なんかすごいでゴザルな」
「そうだね~」
天姉とけいは興味深そうに校舎を観察していた。
まず案内されたのは体育館だった。
ここで一斉に説明を受けるらしい。
体育館のステージにはプロジェクタースクリーンが下ろされている。
体育館に入るときに係の人に配られた、表紙にラッコのイラストが載っているパンフレットを眺めていると、二人組がステージに上がった。
二人は自分たちのことを生徒会長と副会長だと言った。
そしてスクリーンには
『ようこそ豪落高校へ!』
と映し出された。
それから生徒会長と副会長によるラッコーの説明が始まった。
この学校はやはり自由な校風が売りらしい。
制服はあるが、入学式や卒業式などの行事の時以外着る必要はない。
アルバイトをすることも許可されている。
髪を染めようがピアスを開けようが刺青を入れようが自由。
多種多様な部活があり、条件を満たせば新たに部活を立ち上げることもできる。
スマホやゲーム機を持ち込める。
通学は公共交通機関でも自転車でもバイクでもよい。
他にも色々説明された。
僕が調べた限りではこんな学校はかなり珍しい。
正直少し不安だ。
校則は生徒をまとめ、秩序を守るためにあるものだと思う。
ここまで自由だと収拾がつかなくなりそうだ。
でもかなり興味が湧いた。
なぜなら校内が綺麗だからだ。
こんなにルールが緩い学校なのに、落書きもなくタバコの吸い殻が落ちているようなこともない。
これはこのオープンスクールに向けて今日だけ綺麗にしたような感じではない。
日頃から精力的に掃除に取り組んでいることが感じ取れた。
失礼かもしれないが、すれ違う在校生も不良のような見た目の子たちが多い。
この子たちが真面目に掃除している姿はあまり想像できない。
何かからくりがあるのだろうか。
元々この学校自体には桜が目指しているということ以外何の興味もなかったが、今はなんだか心惹かれる。
この学校にしよう。
僕は豪落高校に通うことに決めた。
僕はこの学校に決めることにしたが、三人はどう思ったのだろうか。
「どう思った?」
率直に訊くと
「自由な学校だなーって思ったでゴザル。でもあんなに自由なのに学校として成り立ってることが不思議でゴザルなー」
けいはそう答えた。
「そうだよね~。学級崩壊しまくりそうだけど校舎を見る限り酷いことにはなってないみたいだし」
天姉も同意する。
「正直どうですか? アリかナシか」
桜が不安そうに訊いた。
「私はアリかな。面白そうだし」
「俺はそもそもどこでもよいでゴザル。アリでゴザルな」
「佐々木先輩は?」
「興味が湧いた。ここにする」
桜はパッと表情を明るくした。
「それは良かったです! それでは、あとは先輩たちが編入試験に合格して私も入試に合格するだけですね!」
「俺たちは多分大丈夫でゴザルよ」
「くれぐれも油断なさらぬよう。一人だけ落ちるとか笑えませんからね」
「桜だけ落ちるかもよ」
天姉が怖いことを言う。
「それはほんとに笑えないですね……」
こうして豪落高校へと通うことを決めた僕たちはそれぞれ編入、入学に向けて準備を始めた。