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お祝い

 先生が帰ってきたのは夕方のことだった。
早乙女さんたちは全員意識を取り戻した後、何もすることなく引き上げていった。

先生によると、元々早乙女さんたちは僕たちをどうこうする気はなく、襲撃してきたのは危機感を煽るためのことだったらしい。

それにしてはやけに本気でかかってきたような気がしたけど。

早乙女さんが先生を表舞台に立たせたいのは本当だったらしいけど、できたらいいなくらいの感じであんまりこだわりはなかったようだ。

帰ってきてから先生は、自分の家のことや僕たちと出会うことになった本当の理由を話した。

先生の父親は相当な狸おやじだったようだ。
手のひらの上で踊らされていたことは気に入らなかったようだが、先生は憑き物が落ちたような晴れやかな顔をしていた。


 とりあえず色々問題が解決したということで、お祝いをすることになった。

僕と桜は腕によりをかけてご馳走を作った。

ゆずも手伝うと申し出てきたが、げんじーの介抱をしてもらった。
早乙女さんにボコられたらしい。
げんじーが怪我しているところなんて初めて見た。


 みんなで食卓に着いてご飯を食べ始めた。

けいが麦茶を一気に飲み干してコップをテーブルに置きながら大きく息を吐いた後、ゆずに訊いた

「はぁー今日は疲れたなー。あーそういえばゆずたち大丈夫だった?」

「はい。三人ほど家の中に侵入してきましたけど、二階に上がる階段を隠したので屋根裏まで到達されることもなかったです」
「この家ほんとどうなってんの?」
「おもしろいよなー」
僕は適当に相槌を打った。

天姉が餅をびよーんと伸ばしながら訊いてきた。
「そういえばさ。なんで恭介たちは家が囲まれてるのに気づいたの? 私全然気づかなかったんだけど」

僕はあくびを堪えながら答えた。
「僕たちはいつ先生に不意打ちされても反応できるように常に耳を澄ませてるからね。あのくらいじゃ全然気配は消せてない。息遣いも足音も聞こえてたし」
「いや全然聞こえなかったけど」

「音が聞こえなくてもなんか気持ち悪くなかった? 自分のテリトリーに知らん奴が勝手に入ってくる気持ち悪さ。そういえば今朝天姉もなんか嫌な感じがして寝れなかったとか言ってたじゃん」

「あー。自分でもよく分かってなかったけど、今思えばそういうことだったのか」
天姉は腑に落ちたようで二回くらい頷いた。

「みんな野生動物くらい警戒心強いな」

日向がそう言ったのに対して僕は先生の方を見ながら答えた。
「そうじゃないと先生の不意打ちでくたばっちまうからね。先生の教育の賜物ですよ畜生が」
「ちょっとキレてるやん」

その時げんじーが
「いてて」
と言って背中をさすった。

「あ、げんじー大丈夫? もう、無茶するからだよ。おじいちゃんなんだからね。わかってる? 自覚ある?」
天姉が心配してるのか馬鹿にしてるのか判断がつかないようなことを言った。

げんじーは口を尖らせながら答えた。
「わかっとるわい。でもあの状況じゃわしが風河の相手をするしかなかったじゃろ。こんな老いぼれより二人がよわっちーのが悪いんじゃろが。年寄りに無理させよってからに」

僕が
「げんじーがそんなに強いのが悪いんでしょ。自分で言うのもなんだけど、僕たちだって結構強いはずだよ」
と答えるとげんじーは、はいはい分かった分かったと軽く受け流し
「早くわしより強くなってくれ」
と、今度は腰をさすりながら言った。

「頑張る」
「頑張りまー、ってかラーメンうめぇ!」
けいは答えながらラーメンをすすった。

「けいはほんとにカップ麺でよかったの?」
せっかくだしみんなの食べたいものを作ろうと思って、さっき聞いたらけいはカップ麺でいいやと答えたのだ。

「うん! うまいし、早いし、安いし、きついし、眠い」
「後半体調不良を訴えてるじゃん。疲れたんだな。目が死んでる」

けいは大きくあくびをした。
僕もつられてあくびが出た。
さっきからあくびが止まらない。

「七人倒すのは結構骨が折れた。恭介のとこも七人行ってたな」
「うん。僕も疲れた」

「一発ももらってないのは流石だな。僕だったら囲まれたらきつそう」

「二人とも頑張ったみたいだな」
先生が労いの言葉をかけてくれた。

「ほんと頑張りましたよ。あー疲れた」
僕は腕を伸ばしながら答えた。

「デザートですよ」
ゆずが桃を切ってくれたみたいだ。

大好物の登場に日向のテンションが上がる。
「おぉ桃やん! ありがとゆず! うっひょーい!」
「うふふ。日向ちゃんは桃が好きなんですね」
桜がニコニコしながら日向を見た。

「おう。桃うまい。桃好き。ん? ほんまに桃か……? ほんまに桃や! ヒャッホー!」
「テンション高いですね」

「桃って頬ずりしたら痛い目に遭うんだよな。前やってみたら予想外にザラザラしてて痛かった」
僕がそう言うと、桜は
「なんで桃に頬ずりしたんですか……」
と、引きながら訊いてきた。

「なんかしたくなるじゃん」
誰しも桃に頬ずりをしたくなったことがあるのが当たり前だと思っていた僕には桜の反応が意外だった。

「アホなのか天然なのか。あなたってなんなんですか?」
「なんなのって聞かれても。あと天然っていうな。気にしてるんだぞ」
「あ、すみません」
桜は雑に謝った。

「あれ? 天姉どうしたの?」
桃が乗った皿を天姉のところに回そうとしたけいが、天姉がボーっとしていることに気づいた。

「……」
天姉は下を向いて黙っている。

けいがおもむろに天姉の前に置かれているグラスを手に取った。

「ん? あ! やっぱこれ酒じゃん。先生の間違えて飲んだな。やばい。めんどくさいぞ」

「間違えて飲むってなんですか。間違えないでしょ普通。匂いもするんだし」
桜が当たり前のことを訊いてきた。

「天姉はアホなんだよ」
僕の答えを聞いて桜は
「納得できないですよ。っていうか天音ちゃんが前にもお酒飲んだことあるみたいな言い方してましたけど、年齢的に飲んじゃダメですよね?」

「前にも間違えて飲んじゃったことがあるんだよ」
「だから間違えないでしょ」
「いやアホだから間違えるんだって」

僕がこんなに馬鹿にしても天姉は黙ったままだ。

「……」
下を向いてボーっとしてる。

「何も喋らないですね」
天姉の様子を観察しながら桜が言った。

僕は前回の経験を元に説明した。
「そう。酒を飲んだ天姉はしおらしくなる。というかこれが本来の天姉なんだけどね」
「どういうことですか?」

「普段のとち狂ったあれは本来の天姉じゃないんだよ」
「とち狂ったは流石に言い過ぎでは?」

「とにかく。普段のあれは強がってるんだよ。まぁでも噓から出たまことって言葉もあるように、あれが天姉の本当の姿になりつつある、というかもうなった気もするけど」

「それでお酒を飲むことで本来の、昔の自分に戻るって感じですか。なるほど。でも何が面倒なんですか?」
「じゃあ試しにどっか行こうとしてみて」
「? わかりました」

桜が席を立つと天姉は今にも泣き出しそうな顔をして桜を見つめだした。

「え……なんかすごい見つめられてますね」
「うん。すごい見られるの」

天姉はうるうるしながら桜を見つめ続ける。

「うっ。これは……罪悪感が」
「そうなんだよ。元々天姉は寂しがり屋だからね。離れようとするとすごい見られるの。地味だけど結構きつい攻撃」
「なるほど。これは大変ですね……」
桜が席に戻ると天姉は少し頬を緩めた。


 しばらく喋りながら食べながら今日のお祝いをしているとトイレに行きたくなった。

「ちょっとお手洗い」
「いってらー」

僕が席を立つと天姉が袖を掴んできた。

「……」
「あの、天姉? トイレ行きたいんだけど」
「……いかないで」

でたよ。
めんどくさいぞ。

前もトイレに行かせてくれなくて危ないところだったのだ。

間に合ったけど。
は?
断じて間に合ったけど。

「……ひとりにしないで」
震えた声で天姉が呟く。
別にみんないるし全然一人じゃないんだけど。

天姉は、いかないでよとかなんとか言いながら袖を引っ張ってくる。

さっき馬鹿にしまくったから罰が当たったのかもしれない。

マズいぞ。
天姉は袖を握り潰さんばかりの力で掴んでいる。
強引に振り払ったら服が破れかねない。

それは嫌だ。
この服結構気に入ってるんだ。

しかしこのままでは膀胱がバーストする。

そんな僕にゆずが助け舟を出してくれた。
「天音。恭介はトイレに行きたいそうです。離してあげてください」
「ゆず……」
天姉はゆずに抱きついた。
ゆずは困ったような表情を浮かべながら天姉の頭を撫でた。

助かった。
これでトイレに行ける。
間に合うぞ。

いや間に合わなかったことなんかないけど。
は?
前も間に合ったけど。
間に合いましたけど。


 いよいよ食べる物が無くなってお祝いの宴も終わりに近づいた頃、先生が
「けいのラーメンのついでに花火を買ってきたんだった」
と言った。

みんなに食べたいものを聞いた結果、けいが食べたいと言ったカップ麺だけが無いということが分かって、小野寺家から帰ってきている途中だった先生に連絡してついでに買い出しを頼んだのだ。
その時に花火も買ってくれていたようだ。

「お! 面白そうですね。やってみますか」
けいが真っ先に席を立った。

「風流じゃのー」
げんじーもそう言いながら、けいに続いて立ち上がった。


 みんなで庭に出た。
夜風が心地良い。

先生に買ってきた花火を見せてもらった。
結構いっぱい買ってきてるな。

まぁ八人いるし、このくらいで丁度いいのかもしれない。
やったことがないからよく分からないけど。

げんじーがバケツに水を汲んできた。

「よし。やるか」
けいが花火を一本取り出して火をつけた。

「うおぉ! あっはっは! すげー!」
楽しそうにはしゃぐけいに先生が
「危ないから人に向けるなよ。線香花火もあるぞ」
と言った。

初めてやるけど、結構楽しそうだ。
パッケージのカラフルなデザインを見るだけでなんだか気持ちが浮つく。

「恭介さん」
桜が後ろから声をかけてきた。

「ん? 何?」
僕が振り返ると
「ファイヤー!」
桜が花火をくるくる回していた。

「うぉ! わぁすごいなこれ! 綺麗だね」
「ありがとうございます」

「桜のことじゃないよ?」
「またまた~」

「いや、またまた~じゃなくて」
「はいはい。そういうのいいですから。私はちゃんと分かってます。ほら、そんな照れ隠しなんて後にして、恭介さんの出してくださいよ」
「話が通じねぇ……」

言われた通り、手に持ってる花火を差し出すと、桜は自分の花火の火を僕の花火につけた。
僕の花火は黄色い光を放ち始めた。

「おぉー!」
「綺麗ですね」
桜は自分を指差しながら言ってきた。

僕はさっきの仕返しをするように
「またまた~」
と言ってみた。

「いや、またまた~って返しはおかしいでしょ」
「はいはい」

「適当にあしらわないでください! 拗ねますよ!」
「またまた~」
「話が通じねぇ……」

そういえば天姉はどうしているだろうかと思って姿を探してみると
「ほら、天姉花火だよー。楽しいよー。わくわくだよー」
しゃがんで花火の入った袋を眺めている天姉にけいが話しかけていた。
天姉の方はけいと日向がついてくれてるみたいだ。

「線香花火もあるで。やるか?」
「……うん」
天姉はこくんと頷いた。

「じゃあ誰が一番長くもつか勝負しようか」
けいの提案に天姉は
「……トーナメント方式?」
と訊いた。

「え? いや、普通に一斉にやればよくない?……いや! そうだね! トーナメントしようか! うん!」

天姉が泣きそうな顔をしたためトーナメントをすることにしたようだ。

「僕、子供をあやす才能あるかも」
そう言ったけいに対して日向は
「どうやろな」
と返した。


 と、いうことで謎にトーナメント方式で線香花火対決をすることになった。

ちょうど八人いるため、二人ずつで対決。
勝った四人で、また二人ずつに分かれて対決。
それに勝った二人で決勝となった。

「負けられねぇっ!」
「けいはなんでそんな気合入ってんの?」
僕が訊くと、けいは
「これに懸けてきたからな」
とか言って準備運動を始めた。

「やること決まったのさっきだけどな」
「さっきから今に至るまでになんか色々懸けてきたんだよ。じゃあ、じゃんけんするか」

じゃんけんの結果、僕対日向、天姉対ゆず、げんじー対桜、先生対けいになった。

「まずは僕たちからやろうか」
僕が袋から線香花火を一本取り出しながら言うと、日向は挑発するように
「かかってこいやっ! ぶっ潰したるわ!」
と言ってきた。
「……線香花火だよ? ぶっ潰すとかないからね?」

僕たちは同時に火をつけた。

これは……。
とても綺麗だな。

さっきの花火も綺麗だったが、個人的にはこっちの方が好きだ。
ずっと眺めていたい。

パチパチと光る線香花火はその命を刻一刻と散らせていき、名残惜しくもとうとう儚く消えてしまった。

日向のはまだ残っているようだ。
したり顔でも向けられるかと思ったが、日向は線香花火を食い入るように見つめていた。

「……綺麗やな」
日向が呟いたと同時に火は消えた。

「日向ちゃんの勝ちですね」
桜が小さく拍手した。

「うん」
日向は薄く微笑んだ。

ゆずが
「次は私たちですね」
と言うと天姉はこくんと頷いた。

天姉はしゃがんで手に持った線香花火の光をただ眺めていた。

ゆずはそんな天姉を我が子のように愛おしそうに見ていた。

花火は天姉のが先に落ちてしまった。

「負けちゃった。でも綺麗だったね」
子供のように天姉はニコッと笑った。

次はげんじー対桜だ。

「負けません! 絶対勝ちます!」
桜も謎に気合が入っている。

「ふん。どうじゃろな」
げんじーも結構ノリノリだ。

勝負が始まった途端、二人は同時にお互いの花火に向かって息を吹きかけ始めた。

「ふぅー! ふうぅー!」
「ふー! ふー!」

なんだこれ。
さっきまでのしんみりした空気が嘘のようにおちゃらけてる。

「ふううぅううぅぅ! っ! よし! 勝ちました!」
「負けた……か」

げんじーが肩を落とした。
どうやら桜の勝ちのようだ。

「なにしてんだよ……」
僕はなんともいえない顔で二人の勝負を見届けた。

まぁ本人たちがいいなら別にいいんだけど。

けいが先生に言った。
「次は僕たちですね」
「ああ」

けいはさっきの気合はなんだったのか、しゃがみ込んで膝の上に肘を乗せた状態で頬杖をついて、なんともない顔をして線香花火を眺めている。

先生はいつもと変わらず無表情に近い顔でじっと花火を見ている。

けいが独り言のように言った。
「初めてやったのになんだか懐かしい感じがします」
「そうか」

「いいですね。線香花火」
「ああ。俺も好きだ」

先生の花火が先に落ちた。

「俺の負けだな」
「初めて先生に勝ってしまった。こんなことで」

けいはそう言って肩をすくめてみせた後、自分の花火が落ちるまで黙って見つめていた。


 さて、勝った四人は日向とゆずと桜とけいだ。
またじゃんけんをして誰とやるかを決めた結果、日向対桜、ゆず対けいになった。

「私と桜ちゃんからやな」
「よろしくお願いします!」

「……さきゆーとくけど、ふーふーは無しな」
「承知しました! 任せてください!」

「……不安になる返事やな。フリやないからな」
「分かってますってば~」

今度は桜も大人しく花火を眺めていた。
日向はまた興味深そうにじっと見つめていた。
結構線香花火のことが気に入ったっぽい。

「……あれま。私のが先に落ちてしまいました」
桜は羨ましそうにまだパチパチと光っている日向の花火を見た。

「フフ。私の勝ちやな。さて、私の相手はどちらになることやら。高みの見物と洒落込ませてもらうわ。上で待ってるで」

「ノッてんなおい。じゃあ次は僕とゆずの番だな」
「お願いします」
「こちらこそ」

二人は線香花火に火をつけた。
けいがゆずに質問した。

「ゆずはこんな風に花火で遊んだの初めて?」
「いえ。子供の頃に遊んだことがあったと思います」

「へぇ。ゆずにも子供だった頃があるんだね」
「もちろんありますよ」
「そっかー。ゆずってどんな子供だったの?」

「そうですね……いつも桜澄さんと一緒にいましたね」
「あーそっか。使用人だったんだっけ」

「はい。ですので桜澄さんに影響を受けて感情の起伏が少ないような子供だったと思います」

「ふーん。まぁ概ね予想通りだね」
「ゆずは頼りになるやつだったぞ」
先生がけいに自慢でもするように言った。

けいは
「先生に頼りにされるとか流石だね」
と言ってゆずに笑いかけた。

ゆずは口を尖らせて小声で
「……家出したとき一緒に連れて行ってくれなかったくせによく言いますよ」
「うっ」
先生が痛いとこを突かれたというような顔をした。

「ふふ。冗談です。怒ってないですよ」

ほんとかよ。
絶対怒ってるだろ。

僕がそんなことを考えているうちにゆずの花火が落ちた。


決勝。
日向対けいだ。

「よっしゃー。このまま優勝や」
日向が右腕を曲げて力こぶを作った。

「勝つのは僕だー」
けいはまったく覇気のない声で言った。
眠いんだろう。

火をつけると、日向はやっぱり興味津々で花火を眺め始めた。

よほど線香花火が気に入ったのだろう。
けいはボーっと眺めている。

日向が思い出したようにけいに訊いた。
「そういやけい。物語はちゃんと書いてる?」
「書いてるよん。展開考えるのが結構大変だね」
「楽しみに待ってるわ」
日向はまた視線を手元の花火に移した。

「え、けいなんか書いてるの?」
僕は初耳だった。

「そうなんや。この前の中途半端やったやん? 続き書いてもらってんねん」
「おー。僕も気になってたんだよね」
「まぁ気長に待ってくれや」

けいが欠伸をしたタイミングで、けいの花火は静かに落ちた。

「おっ。私の勝ちみたいやな。いぇーい」
「おめでとさん」
けいは日向に拍手を送った。

こうして天姉の発言で謎にトーナメント方式になったが、僕たちは線香花火をじっくり楽しむことができた。

そういえば言い出しっぺである天姉はさっきから静かだ。
一体どうしたのだろう。

天姉の方を見てみると、立ったままうつらうつらしていて、今にも倒れそうだ。
っていうか今まさに倒れてる。
天姉に近づき、地面に落ちる前に受け止めた。

「天姉起きてる?」
「んーうん。……寝てる」

「起きてるじゃん」
「じゃあ起きてる」

天姉は猫のように手で目をごしごし擦るとゆっくり目を開けた。

「あ、花火終わっちゃったんだ」
「うん。日向が優勝」
「そっかー。ほへー」
天姉はそう言ってまた目を閉じてしまった。

今日はよっぽど疲れたんだろう。

天姉は僕たちのことをかなり心配していたようだから、体力的にというよりも精神的に疲れたようだ。

僕たちが無事でホッとしたこともあり、気が抜けてしまったのかもしれない。
酒が眠気を誘っているっていう可能性もあり得るけど。


 その後、花火の始末をしてから天姉を桜に預け、僕も床に就くことにした。

しつこいようだが今日はほんとに疲れた。
ぐっすり眠れそうだ。

しおり