2話
目的地など何もない。
日は暮れて、街灯が点き始めたので、夜七時くらいといったところだろうか。
私は、人目のないところないところと歩を進めていたら、いつの間にか山の中に迷い混んでしまっていた。
雨のせいで足元はぬかるんでいて、滑って足を挫きそうにもなった。
暗いからよくわからないが、きっと制服も泥だらけになるくらい、険しい道に入ってきた。
--少し、疲れたな……
私はその場に座り込んだ。
誰も見ていないのだから、地べたに座って汚れても今更である。
そういえば、お腹も空いてきた。
お母さんが作ってくれたお弁当以降、何も食べていない。
自分で選んだ道だが、お母さんの優しさを思い出して少し後悔する。
そろそろ心配して、警察にでも連絡をいれているだろうか。
私は溜め息をつく。
五月で暖かくなってきたと言っても、雨に濡れた身体は芯から冷えてきた。
山の中は天然の木葉の屋根で、少し雨よけができた。
見上げると、空は見えず。
雨なので星も見えず。
でもここ最近、ずっと下ばかりみていたので、うつ向き加減から前向きになった気がする。
次に前を見ると、少し先に岩肌がむき出しになった小さな崖があった。
落石注意の看板が目を凝らすと見える。
私は何故かそこに引き寄せられるかのように、ゆっくりと立ち上がり、岩肌へと近づいていった。
街灯はとうになくなり、辺りは真っ暗だが、近づくと若干の風景は感じ取れた。
濁りのない綺麗な水。
岩肌からは、そんな湧き水が流れていた。
私は透明な湧き水に指をつける。
山からの湧き水は酷く冷たく、でも柔らかかった。
--もう疲れたのだ。
だから、もう最期にしようと、この人気のない山の中に入った。
でも、ここには人の手のおよんでいない、綺麗な自然があって、こんなふうに綺麗な水もあって、綺麗な空気が漂っている。
透明な水から指先を離す。
なんだか、少しだけ心が透明になった気がしたから。
--もう少しだけ、生きてみようかな。
適当に歩いてきた山道を私は戻る。
辺りが白むにはまだ早い。
まだ夜は始まったばかりで、帰り道などわからないが……足元には透明な水が帰り道を示してくれていた。