バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

44.閻魔 文華

「文華と言えば。
 ここは、異能力犯罪を研究しているーー」
 私は、ふりかえった。そして。
「安菜に語ってもらうのが良いでしょう」
 私は安菜と、はーちゃんと見合わせた。
 私はフルフェイスのヘルメット。
 安菜のヘルメットは首も固定された木目に、前と左右の丸窓。
 はーちゃんは、その横につけられた小型カメラ。
 窓ごしカメラごしでおたがいの視線はわかりづらいけど。
 決意を込めて、安菜が話しはじめた。
「あなたが、アーリンくんですね。
 私のことは安菜と呼んでください」
『よろしくお願いします。
 安菜さん』
 うん。ダイジョウブそう。
「文華については、私なりに言いたいことはあります。
 しかし、私は専門で研究しているわけではありません。
 それでも良いのなら、できる限りのお話をさせていただきます」
 プロではないけど、こういうときに手をぬかないのが安菜なんだ。
『むしろ、それを知りたいのです。
 僕も自分なりに調べてみたのですが、なんと言いますか』
 アーリンくん、前より安心してる感じがする。
『年月でウワサが一人歩きしているような気がするのです。
 それなら、当事者の近くにいる人がどう思っているか知りたい。
 なにに怒っているか知れば、それが注目するべき点だと思うのです』
 朱墨ちゃんのそばで、良い経験を積んだみたい。
 そういえば、朱墨ちゃんが執事をやとった、というウワサが流れたけど、アーリンくんのことかな。
「なるほど。ならまずは・・・・・・」
 安菜、一呼吸おいて。
「あっ。はーちゃん、この件は私に任せてちょうだい。
 手だしは無用」
「もともと手はだせません。
 口はだせますが。
 ですが、わかりました」
 ありがとう、と安菜は答えて。
 さてアーリンくんに、なにを話すかな。
「閻魔 文華と聞いて、すぐ連想したエピソードをお話します。
 私やうさぎにとって身近な人が巻き込まれた、有名な事件です」
 これで監視任務に集中できる。
 ありがたい。
 だけど、これから聞こえるのはゆかいな話じゃない。
 寒気がしてきた。
「10年くらい前まで文華は、元は魔術学園高等部の先生でした。
 出身は暗号世界ルルディ。
 彼女は、その王と王妃の子。
 つまり、お姫様です」
 こういうときの私の声は、どうしてもカクカクしてしまう。
 安菜は、そんなことない。
 人をリラックスさせる、耳にやさしい声。
「ちなみにですが、私はルルディや他の世界から人が来ることは、素晴らしいと思います。
 出身の友人がいます。
 世界同士でも技術や経済的に重要だし、なにより楽しいからです。
 ですが、文華はそんな流れにのらなかった。
 これは予想ですが、彼女には優秀な人には他に野心がある。
 それが理解できなかったのではないでしょうか」

 このまま、何らかの事件について話すだろう。
 それを聞いたら、気持ち悪くなることもあるかもしれない。
 ノイズキャンセラーで、安菜たちの声を消そうか?
 私のヘルメットについた機能の1つだよ。
 音は、空気を伝わる波だから。
 いらない音に、その反対の音の波をぶつけて、消してしまうんだよ。
 でも、このまま消すなんてもったいない、という気もちもあるの。
 私たちハンターキラーに、いまも影を落とす大事件。
 安菜の心に、どう写ってるのか知るチャンスかもしれない。

しおり