43.訓練に終わりはない!
「お。
川で消防車たちの放水がはじまったよ」
テレビが中継してくれる。
見下ろせば、防水シートがスルスル伸びていく。
枝分かれしながら、後続の仲間をさらに進めてく。
その一筋が、布ばりのビルへ伸びる。
高さは4階くらいだね。
そこへ、はしご車。
六つのタイヤをもつ赤い大型トラックに、銀色のはしごをのせている。
金沢市からきたんだ。
あの巨体もスイスイ進めるって、便利だな。
「思うんだけど」
なにか感づいたかな、安菜。
「あんなところに、ビルなんか建つの?
すぐ倒れそうだけど」
たしかに、こんなドロドロの山ではリアリティないね。
でも、ここは訓練場だよ。
埋め立て地だと、液状化現象ってのがあるよ。
地震が起こるとね、埋た後も残った海の水が、土のなかでゆれて、まわりの土も巻き込んでドロドロになるの。
建物も倒れるくらいのドロドロだよ。
「なるほど。
震度7の想定なら、それはリアルだね」
さて、ムダ話しはそこそこに。
私たちの任務は、トラブルが無いかの監視だから。
「おっ、さっそく」
安菜が察知した。
「関係ないシートに乗ってるハンターキラーがいるよ」
こいつ時々、高性能なことするな。
AIが探知したのは、その後だった。
警告音がなり、ヘルメットのディスプレイが現実の視界にマークを重ね書きする。
「川を意味するブルーシートに、カーキ色のマークスレイ」
マークスレイも知ってたんだ。
ブルーシートは、雨風から農業機械とかを守るためにかけたりする丈夫なシート。
でも、車とかがのるとやぶれる。
そんな想定の訓練はない。
そのオドジさんは、拡大して見ると風見鶏が屋根の上についていた。
「ルイン・バード。
こちらは監視のウイークエンダー・ラビット。
あなたが乗っているのは川を意味するブルーシートです。
直ちに下りてください」
ルイン・バードがハンターキラーとしての名前。
マークスレイは、地上と低空での機動力を極限まで高めた2人乗りの装甲車だよ。
風の抵抗をへらした鋭くてうすい車体。
F1カーを思わせる。
タイヤの代わりに機械の足を生やして、その先に改めてタイヤをつけたような姿をしてる。
ジェットエンジンを備えて、6トンの車体を時速500キロメートルまで加速させる。
そんな高性能機からの返事は。
『水がつめたくて動けないー』
4本足で大げさにゆれる。
信じられないかもしれませんが、あの人、金沢の大学生なんですよ。
230歳なんですよ。
宇宙でうまれ、ずっと旅をして来た。
機械の体に意思をもつ生命体。
だからあれは、マークスレイに化けたルイン・バードさん。
それが正しいの。
その心は、たぶんマッチョ男性的。
「大丈夫。そこ足つくから」
言いかえしながら私は、言い表せない不安を感じていた。
私は仲間の教育を間違ったのだろうか?
「お言葉ですが、ヒッパタクべきであると考えます」
安菜も、そう言ってる・・・・・・。
あ、ブルーシート川に緑色の巨大な影が近づいていく。
陸上自衛隊の大型トラックだ。
荷台にとっても分厚い鉄の板を4枚のせて、バックで川に近よる。
「はちに、じゃない。
はちひと、しきじそう、かちゅう、きょう!」
安菜、正解!
81式自走架柱橋(はちひとしきじそうかちゅうきょう)
あの分厚い板の2枚を1つに合わせて、橋にして架けてくれる。
2枚の板を平行して架けるから、真ん中にすき間が開くけど。
「富山の第382施設中隊だね」
大したもんだ。
あ、ルイン・バードが、つまみ出されたみたいに逃げていった。
自衛隊の言うことは聞くんだ。
その時、呼びだし音が鳴った。
相手は、朱墨ちゃん?
『もしもし、パーフェクト朱墨です』
その名前、気に入ったんだね。
『今、良いですか?』
私は良いよ。
あ、朱墨ちゃん。
名乗るなら乗ってるロボットよりも、ハンターキラーの名前の方が通りが良いと思うよ。
『これからは気を付けます。
ファントム・ショットゲーマーでいきます』
そう。
安菜と、はーちゃんは?
「はじめまして。安菜・デ・トラムクール・トロワグロです。
今回は、乗ってるだけの人です。
私はだいじょうぶです」
「はーちゃんと言われたのは私です。
破滅の鎧が本名です。
安菜さまに試験されている、鎧です。
安菜さまにしたがいます」
なら、ひと安心。
『そちらも複座になったのですね』
え? 複座?
聞こえてきたのは、男の子の声だった。
『お久しぶりです。
アーリン・アルジャノン・オズバーンです』
そっか。
アーリンくん用の席を作ったのか。
『そうです。
いろいろ教えてくれる人が居るって、心強いですよ』
ファントム、満足そうだね。
『はい。
ところで私たち、聴きたいことがあるんですけど』
声が、真剣な響きをもった。
なんだい?
『主に僕が聴きたいのですが』
アーリンくん。
『閻魔 文華についてです。
あなたたちが彼女について思うこと。
それが知りたいのです』