233 公爵緊急会議②/アブドの主張
まず、ワイルドグリフィンの急襲についての情報が整理される。
「被害を受けた市街地は?」
「やはり、大通りの市場のみ。戦いが繰り広げられた箇所以外で、被害はない」
「意外と範囲が狭いですね。不幸中の幸いか……」
加えて、必要と思われる対策についても並べてられてゆく。
「近いうちに、必要な物資については、キャラバンに交易に向かってもらいましょう」
アブドの言葉に、他の公爵達はうなずいた。
すると、先までアブドに指差されていた灰色のクーフィーヤの公爵が、今は落ち着いた口調で言った。
「しかし、分からないのは、やはり、いきなり街中上空に現れたことではないかね」
「メロの街は……」
ムスタファが、壁に立て掛けてある、メロの街並みを描いた絵画を指差した。
「雑多な建物でひしめき合っております」
「ふむ」
「歩いてみると意外と空が狭く感じるものです。つまり、グリフィンが大通りを通らず、ひしめき合う建物の上空を飛んでいる間は、意外と見つけづらいのかもしれない」
「なるほど」
「どちらにしろ、護衛隊と、被害市街地付近の住民からの聞き取りが、もう少し必要でしょう」
ワイルドグリフィンについてある程度整理できたところで、ジンの話題に移り変わっていった。
「今回の、グリフィンとジンとの関連性はどうなのか?」
公爵達は言い合う。
「今回のグリフィン急襲による混乱に乗じて、国内に入ってきたと考えるのが、妥当ではないか」
「いや、もともと潜伏していたのかもしれないじゃないか」
「しかし、今までジンの報告など、なかったぞ」
「だがジンは、何年も潜伏しているとも言われるが……」
話は平行線をたどる。
「ムスタファくん、どうなのかね。娘から、話は聞いているんだろう?」
灰色のクーフィーヤの公爵が言うと、ムスタファはうなずきつつ、話し始めた。
「はい。ジンはルナの前に現れたものの、なにもせずにただ消えていった、ということです。かつて交易した際、共行したキャラバンの一人に化けていたと」
「知っている者ということ、かね」
「はい。なぜその者に化けていたのかは分からないですが、詰まるところ、ジンはまだ潜伏期間で、人間へ危害を加える前という状況ではあるのでしょう」
「なるほど」
「その上で……」
ムスタファは、皆に言った。
「国民に、ジンのことを知らせるかどうか、国民全員に、血の確認をするかどうか……決めなければ、なりますまい」
「……」
少し、沈黙が流れた。
皆、思考を巡らせているようだ。
やがて、意見が飛び交う。
「血の確認は、もはや必須だろう」
「ただ、血の確認をするならば、ジンについての情報は国民にも共有するべきではないか?」
「うむ」
「仕方あるまい」
皆が言う。
だが、アブドは反論した。
「他国との関係を考えるべきです。それだと、先に言っていた、メロの国からキャラバンを諸外国に派遣することができなくなるでしょう」
さらにアブドは続けた。
「また、今は大規模な交易で国や村に来てもらう予定が多くある。それを途絶えさせてしまう」
「……なるほど」
「それに、危ないですよ」
そしてアブドは、周りに諭すような口調で言った。
「先の、お互いを疑い始めるという、我々の混乱ぶりだけでも、なかなか情けない有り様だったではありませんか」
「……」