231 論功行賞④/ルナの父親、公爵ムスタファ
もう一人、公爵達の中から出てきた。
ステージへと上がり、話を終えたアブドの隣に立つ。
……ルナのお父さん、ムスタファ公爵だ。
ルナと同じで、少し垂れ目に、青い瞳。頭には、黄色のクーフィーヤ。背が高く、隣に立っているアブドも背が低い訳ではないが、比較で低く見えてしまうほどだった。
ルナの父親であり、公爵の一人であるムスタファその人は、執事の者達に目配せをした。
賞状となる、薄く小さな石板が、執事の手によって運ばれてくる。
公爵アブドが、再び口を開く。
「それでは、名を呼ばれた者は、前へ」
執事が立ち、一人ずつ名を呼ぶ。呼ばれた者はステージへと上がり、賞状である大理石の石板を受け取ってゆく。
石板が渡される度に、拍手が鳴る。
……あっ、ヤバい。また、緊張してきた。
ウテナは目が泳ぎだした。
「あれ……?」
「ちょっと、あの者……」
少し、周りがざわざわしている。
オルハンが前に立って、石板をもらっていた。
「ルナの父ちゃんか。ルナは、元気にしているのか?」
ただでさえ、もろ私服で注目を集めているのに、その上、ムスタファ公爵に、ずけずけ質問している。
「うわ、オルハン……」
「もう、サイアク……」
それを見たフェンもライラも、ドン引きしている。
「プふ……ふ……」
フィオナはおかしくなって、笑いを必死でこらえている。
……オルハン先輩、図太過ぎる。
ウテナは思った。公爵とかそういった、国の権威を前にすることは、オルハンにとってはどうでもいいことなのだろう。
「もちろん、元気にしているよ」
ムスタファは、笑顔で言った。
「……そっか。なら、いい」
オルハンは石板をもらい、下がった。
儀礼もへったくれもない。周りからは、少し笑い声が漏れていた。
「フェンキャラバンサロンメンバー、ウテナ」
「はいぃ!」
……この後!?やりづらいよ~。
ウテナは緊張したまま、ステージの上に立った。
先に石板をもらったフィオナ、ライラが、「大丈夫かしら?」と、心配そうに見ている。
「いつもルナが、お世話になっているね」
ムスタファは、優しい口調でウテナに語りかけた。
「あっ、はい」
ルナと同じで、少し垂れ目の、優しく青く光る瞳。
そこには、いつも見ているルナのお父さんが立っていた。
緊張が、複雑に絡まった糸がほどけてるように、すぅっと、おさまる。
……そうだ。ルナも、見てくれているもの。
ステージの上で、ウテナは座した。
そして、合掌。
アブドが皆に言った。
「このウテナは、先のサロンメンバーと同じく、ワイルドグリフィン3体を相手に戦い、一体を倒し、撃退のトリガーとなったキャラバンであります!」
この娘が?というのが意外過ぎたのか、周りがざわつく。
「これからも、娘をよろしく」
「はい」
ムスタファが石板を差し出す。
石板を前に、ウテナは合掌したまま、一礼。
そして、石板を受け取った。
美しい光景に、拍手は沸いた。
※ ※ ※
宮殿の奥にある一室。
論功行賞が終わるとすぐ、公爵全員、その一室に集まっていた。
壁に、メロの街並みが描かれている大きな絵画が立て掛けられている。
中央にある大理石のテーブルを囲うように公爵達は座っている。
一室の扉の鍵は、かけられていた。
「なんてことだ……」
公爵達のささやく声が聞こえてくる。
「ワイルドグリフィンだけでも訳の分からない状況なのに、とうとう、ジンがこの国に……!」