191 十の生命の扉の彫刻③
シュミットは、天使の座る扉の先の、7つ目の扉、さらにその先の頂上にある10番目の扉に向かって、ゆっくりと指でなぞっていった。
「この彫刻をつくっていて、不思議なものだと僕は思ったよ。なぜ、ティアは人間の生命の中に4つの未知の扉を設けたのか。どうやって、7つ目の扉を自身の生命の中に見つけるのか、そして、その先の扉までたどり着けるか……」
シュミットの指が、頂上の扉に着いた。
「そして、その扉を開けた者は……」
シュミットが、マナトへと目線を向けた。
「ティアの力、すなわち、マナを取り込むことができるようになる。君も、ここの扉を開いた一人だということになるんだよね」
「……そういうことに、なるんですよね」
※ ※ ※
村の内部へと入り、マナトはシュミットに連れられ、村長の家へと向かって歩いていた。
子供達が、走り回っている。
「あっ、もしかして、あれ、キャラバンの人じゃない……?」
「ぜったい、そうだよ、さっきラクダさんを連れて通っていった……!」
シュミットの横に歩くマナトに気づいた子供達が、興味津々な様子で囁き合っている。
子供達の他にも、たくさんの人が行き交っていた。
……なんか、みんな洒落た格好してるなぁ。
マナトが村の人々を見て思った。
行き交う人々の服装は様々で、全身紺色の修道士のような壮年の男性もいれば、上下華やかなドレスで着飾った貴婦人のような女性もいる。
人といい、建っている家といい、所々に置かれている彫刻を中心とした芸術の数々といい、村全体、とても華やかな印象だ。
「フフっ」
マナトが歩きながら周りをキョロキョロしていると、シュミットが少し笑った。
「村の景色が気になるみたいだね」
「あっ、はい。華やかな村だなと思って」
「この村は大理石が採れることで、その石を利用した彫刻、をはじめとした芸術が、昔から盛んでね」
「なるほど」
「みんな、お互い刺激を受けながら、切磋琢磨しているうちに、所々に芸術品が置かれているような景観になっていったんだ。……さぁ、見えてきたよ」
シュミットが前方を向きながら言った。
「村長の家だ」
「うわぁ……大きいですね」
岩石の村に建っている家は、アトリエも兼ねている関係か、他の村に比べて大きな印象があったが、目の前に出てきた村長の家は、それを遥かに凌駕した大きさだった。
広く木の柵で仕切られた先には、広い芝生の中庭があって、ケント商隊のラクダ達は腰を下ろしていた。
そしてその先には、一言で言ってしまえば、豪邸。ピュアホワイトの大理石でできていて、いくつもの窓に、やたら大きなアーチ状の玄関の扉。
ケント達の姿はなかった。また、ラクダ達の背に取り付けられていた交易品がない。
「彼らが、いないね」
「そうですね。どうやら、もう、取り引きをしているみたいです」
「すまない。長く話してしまっていたようだね」
中庭へと入ると、シュミットがマナトに、申し訳なさそうに言った。
「あぁ、いや、僕のほうこそ。ここまでありがとうございました」
「もしなにかあれば、協力するよ。家の玄関を叩いてくれ」
「ありがとうございます」
シュミットは去っていった。
……後で、ケントさん達には、素直に謝ろう。
マナトは思いながら、ラクダ達とともに待機することにした。