第181話 流行り病
「まさか、ちょうど冒険者ギルドに来てくれるとは思わなかったぞ」
ミリアに腕を掴まれてそのまま応接室に連行された俺達は、ガリアとミリアを正面にしてソファーに座っていた。
相変わらず、膝の上に乗っているポチは一人のんびりとしていて、俺の太ももの上で欠伸をしていた。
エリスの奪還と護衛、それにモンドル王国の秘密を知ってしまったのも、全てはこの応接室から始まっている。
さすが、ここに連れてこられて何もないなんてことはないだろう。
出されたお茶に手も着けず、緊張している俺の姿を見て、ガリアは小さく笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「ふっ、安心してくれ。今回は冒険者としての依頼だ」
「え? そうなんですか?」
「まぁ、一般的な採取や討伐の依頼ではないから、この依頼を受けれるパーティがいなくてな」
「特殊な依頼、ですか」
ここ最近受けてきた依頼が特殊なものが多かったせいか、緩みかけていた警戒心がきゅっと引き締められた気がした。
いや、特殊だったのはエリス関連のことだけで、モンドル王国の件は自分から突っ込んでいったのか。
そう考えると、そこまで特殊な依頼を受けていない気も……いやいや、王女の奪還と護衛は十分すぎるくらいに特殊か。
そんなふうに一人頭の中で悶々としている俺をそのままに、ガリアは言葉を続けた。
「デロン村の周辺の山の調査をお願いしたい」
「デロン村……デロン村って、ミノラルの端の村ですよね?」
「流行り病のことは知っているか?」
「まぁ、ある程度はって感じですけど」
王都のミノラルから見て東の位置にあるデロン村は、隣国のルロン王国の近くにある村で、凶暴な魔物が出たという噂も聞いたことがない平和な村だったはず。
確か、少し前に流行り病が流行したって聞いたけど、どこかから来た聖職者によってその病も抑えられているとか。
「あそこの村では、まだ流行り病が抑えきれていないらしくてな。もう一度、その原因が山の方にあったりしないか、その村の村長から周辺の山を調べて欲しいという依頼があった」
「もう一度?」
「ああ。一度調べはしたんだが、それらしいものは見つからなかったらしい。他の冒険者に頼んでもいいんだが、【鑑定】のスキルを持っている冒険者なんて、そうそういなくてな」
「なるほど、それで俺たちにですか」
ガリアが言っていた依頼内容が特殊だと言っていた理由は、【鑑定】を使った依頼だという意味だったらしい。そもそも受けられる冒険者自体が少ないという意味か。
それも、調査という位だから、ただの鑑定持ちではなくて、ある程度のランクの【鑑定】のスキルを持つ者ではなくてはならないのかもしれない。
おそらく、そうなってしまうと、俺たち以外には難しい依頼なのかもしれない。
「【鑑定】のスキルを使って、それらしい原因を掴んできてくれってことですね? 本当に何もなかった場合はどうするんですか?」
「その時は、その報告をしてくれればそれで十分だ。アイクのレベルとスキルのランクで見て異常がなければ、山の方には異常がなかったことを証明できるしな」
どうやら、ガリアの話しぶりからするに、本当に山に異常があるというよりも、異常がないという証明をしたいように思えた。
一度問題がないという結果が出ている上での確認作業。それなら、そこまで面倒な依頼ということはないだろう。
そしてないより、俺以外には受けることが難しそうな依頼内容だし、断ることはできないだろう。
ギルド長からのご使命でもあるしな。
「分かりました。そういうことでしたら、お受けいたします」
冒険者ギルドに入る前に嫌な予感がしたが、その予感は杞憂に終わりそうだ。
まぁ、結構な距離を移動しないとだから、それが面倒といえば面倒か。
そんなことだけを考えて、俺達はミノラルの端であるデロン村に向けて出発することになったのだった。