第180話 的中する予感
サラを含めた宴会をした翌日、サラとモルンはこの国の王と話があるしく、午前中には屋敷を出ていってしまった。
ミノラルの属国になるとの話だったし、色々と決め事とかがあるのだろう。
屋敷を出るときに、ぜひモンドル王国に遊びに来てくれと言われたが、しばらくは行かない方にはいかないつもりだ。
『ミノラルの道化師』を本気で崇拝している国に、今自分が行ったら結構大変なことになりそうだし、熱が冷めてから遊びに行く旨をサラとモルンには告げておいた。
『銅像が完成したら、絶対に見に来てくださいねっ！！』とサラが本気で言っていたし、『ミノラルの道化師』の銅像を作るという話しは本当に進んでいくみたいだった。
『ミノラルの道化師』が崇拝対象として崇められるのかと思うと、なんとも言えない複雑な気持ちにもなったりはするな。
そして、熱が冷めたてから遊びに行くとは言ったが、そんな国で『ミノラルの道化師』に対する熱が冷めるときがやってくるのか。逆に熱が上がってしまわないか心配ではあるが、どうすることもできないだろう。
二人を見送った後、リリと昼ご飯を食べて少しして、手持ち無沙汰になった俺は何気なしに外に出る支度を始めていた。
「アイクさん？ どこか行かれるんですか？」
「んー、少しだけ冒険者ギルドに行こうかなって」
「何か依頼でも受けるんですか？」
「いや、顔出しだけな」
正直、最近冒険者らしくない活躍のせいもあって、懐は中々に温かい。だから、何かしらの依頼を受けるつもりは特にない。
それでも、定期的に冒険者ギルドに顔を出しておかないと、前みたいに冒険者ギルドを避けていると思われる可能性もあるし、何より自分が冒険者だということを忘れないためにも、冒険者ギルドの空気でも吸ってこようと思った。
最近、他国で国家転覆のテロに参加したり、事前に起こりそうだった戦争を防いだりと、まるで冒険者らしくない行動が目立っている気がする。
いや、実際に目立ってるのか。
まぁ、そんなもっともらしいことを色々と考えてはみたが、ただ散歩がてら冒険者ギルドを覗いてこようってだけの話である。
「分かりました。お供しますね」
「いや、ただ覗いてくるだけだから、どっちでもいいぞ？」
「どっちでもいいなら、絶対に行きます。私、アイクさんの助手ですから」
「きゃんっ！」
ふと気がつくと、いつの間にか胸を張っているリリの隣で、お座りをしているポチも俺の方にドヤ顔を向けていた。
そんな息の合った二人の姿を見て、軽く噴き出しようになった笑いを抑えて、俺達は三人で冒険者ギルドに向かうことにしたのだった。
「……なんか嫌な予感がするな」
「アイクさん？」
冒険者ギルドの近くまで来てその扉を開けようとして時、ふと扉を開けようとしていた手が止まった。
何か思い当たる節があるわけでもなし、ただの直感なのだが、今日は冒険者ギルドに入らない方がいいのではないかという予感がした。
「入らないんですか？」
「そうだな。……今日はやっぱりやめておくか」
今さらになって思い返してみると、モンドル王国に行く前にモルンたちから逃げるために、結構なクエストもこなしていた気がするし、冒険者ギルドの空気を忘れてはいない気がする。
それに、ただ散歩がてら冷やかすだけなら、何も冒険者ギルドにこだわる必要もないだろう。
「リリ、ポチ。今日は冒険者ギルドはやめて、そこら辺をぶらぶらとーー」
冒険者ギルドの入り口の扉から手を離して、そのまま踵を返そうとした瞬間、俺たちの前にあった扉がゆっくりと開かれた。
そして、そこにいたのはきょとんとした顔をしているミリアの姿だった。
「あ、アイクさん、リリさん。こんにちは」
「こ、こんにちは、ミリアさん」
何か用事があるから出てきたであろうミリアさんは、しばらく俺の顔を見つめた後にそっと手を伸ばして、俺の手首を掴んできた。
何が起きたのか分からずにミリアさんに捕まれていた手首を見た後、視線を上げてみると、そこには冒険者ギルドでよく見る営業スマイルをしているミリアさんの姿だがあった。
「ミリアさん？」
「こんなところで立ち話もなんですし、座ってお話ししませんか？」
「座って？」
「はい、座ってです」
冒険者とギルド職員が座って話をする場所。そんな場所は俺の知る中では一か所しかない。
目の前の営業スマイルに笑顔を返して、掴まれた手首を引こうとしたのだが、俺の手首はさらに強く掴まれてしまった。
そして、強くなったのは力だけではなく、営業スマイルも一緒だった。
それだけでなんか色々と察してしまった。
「もしかして、ガリアさんも一緒ですか？」
そんな俺の問いに対して笑顔で頷くミリアを前に、俺は抵抗することを諦めて冒険者ギルドの応接室に連れて行かれたのだった。
