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 それから毎日シェリーはアルバートの病室に詰めていた。
 それでも国政は容赦なく続き、シェリーの執務室には大量の書類が運び込まれる。
 それを分類し、緊急のものだけを選ぶのはオースティンの仕事となった。
 病室から出なくてはいけない時間まで、ずっとアルバートの側にいるシェリーにとって、そこからが執務の時間だ。
 レモンはシェリーの体調が心配だった。

「妃殿下、睡眠時間が短すぎます」

「良いのよ、どうせ眠れないもの」

「倒れたら皇太子殿下に会えませんよ?」

「そうね、でも大丈夫。私意外と強いのよ?」

 そう言って笑ったシェリーが医務室に担ぎ込まれたのは、その日から二日後だった。
 診断結果は過労だったが、シェリーはなかなか意識を取り戻さなかった。
 アルバートの二次感染の危険性がなくなり、テントが撤去される日となっても、シェリーの意識は戻らない。
 二人は隣り合った部屋で眠り続けた。
 シュラインなぜ自分は倒れないのだろうと愚痴を言いつつも、効率的に仕事をこなす。
 動けるようになったサミュエルも、八面六臂の活躍をする甥を手助けしていた。
 今日の仕事も一段落を迎え、夜食に手を伸ばしながらサミュエルが言った。

「イーサンの後遺症が心配だな」

「ええ、騎士として一線で活躍するのは、もう難しいでしょうね」

「利き手だったか?」

「ええ、動かないわけではないのでリハビリすればある程度は戻ると聞いています。まあ、時間はかかるでしょうね」

「結局イーサンはシェリーに会わずに帰ったな」

「寝顔だけでも見るかと思ったのですが、結局それもしなかったですね」

「それが奴の愛ってわけだ」

「愛ねぇ……愛って何でしょうね」

 二人はフッと息を吐いて新しいサンドイッチに手を伸ばした。

「そういえばアルバートは目覚める時間が増えてきたとか?」

「ええ、徐々にオピュウムの量も減らしていると聞いています。それでも覚醒できるのは一時間が良いところですね」

「少しずつでも回復してくれるのを願うしかないな。シェリーは?」

「彼女はほとんど眠っています。時々微笑むのだそうですよ。どんな夢を見てるのでしょうね」

「幸せな夢なら良いな」

「そうですね」

 二人は同時に天井を見上げた。
 その頃シェリーは相変わらず夢の中にいた。
 大きな木の下に座って本を読んでいるシェリーの横で、彼女の膝に頭をのせているのはアルバートだ。
 
「ねえシェリー。何を読んでいるの?」

「恋愛小説よ」

「どんなストーリーなの?」

「単純よ。婚約破棄をされた女性が新たな恋を見つけて幸せになっていくというお話し」

「楽しいの? だって君、ずっと微笑んでいる」

「そう? 本が楽しいというよりあなたとこうやって穏やかな時間を過ごせるのが嬉しいのかもしれないわ。だって結婚してから一度もこんなことなかったでしょう?」

「ああ、そうだね。君も僕も忙しすぎた。それに父や母のこともあったからね」

「でも解決したから……もう終わったことよ。ご苦労様でした、アルバート」

「ああ、君も本当にご苦労だったね。いろいろ秘密にしていてごめんね?」

「そうよ? 私悲しかったんだから」

「ホントごめん。巻き込みたくなかったんだ」

「なぜ? 私だけ蚊帳の外?」

「そうじゃないよ。君を危険な目に合わせたくなかった」

「立場的にそれは無理でしょう? だったら最初から知っておいた方が良かったと思わない?」

「うん、そうだね。そうだよね……考えが浅かった。余計に傷つけたよね。僕は君に嫌われたくなかったんだ……でも君のことを考えると、僕に愛想を尽かした方が良いって思って」

「愛想を尽かす? 別れる気だったの?」

「君がそれを望むならとは思っていた。僕は別れたくなったから、直接口にはしたくなかったんだ」

「どうしてそう思ったのか聞いても?」

「うん……君は他に好きな人がいただろう?」

「ああ……イーサンのこと? そうね、好きだったわね」

「だから戻りたいのかと思ったんだ」

「あなたもローズの元に戻りたかった?」

「いや、僕は違うな。確かに彼女のことを愛していたこともあったけれど、僕は振られた方だからね。心の整理はつきやすいさ。それに彼女はどんどん壊れていったから……でも君は違っただろう? 君を心から愛している僕にとって、一番大事なのは君の幸せだ。僕がいなくなることで君が……」

 アルバートは最後まで喋らせてもらえなかった。
 シェリーがキスでアルバートの口を塞いだからだ。

「シェリー?」

「私はあなたの妻として生きていく決心をしたの。そしてあなたはとても素敵な人だった。私は確かに傷心していたし、辛いこともたくさんあったわ。でもあなたは常に私の心に寄り添って、私を尊重してくれた。あなたは素晴らしい人よ? 好きにならずにはいられない」

「シェリー……ありがとう。愛してるよ、心から君のことが大好きだ」

 心から嬉しそうな顔でアルバートが微笑んだ。

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