第72話 魔神様の特訓の続き
〖ちょっと、レイ。そろそろ起きなさい〗
妖精さんたちの力を借りて、土の流れるプールから抜け出した私は地面の上で大の字になっていた⋯さすがに疲れたわ
〖そろそろ起きないと、またグルグルさせるわよ〗
『⋯それは、勘弁して』むく
魔神様、鬼だわ。やっと動かない地面を堪能しているのに⋯
『我が孫ながら、なんて恐ろしい魔法を編み出したの⋯』
恐るべし、流れるプール土バージョン⋯
〖妖精たちが気に入って、『流れるプール』って呼んでるけど、愛し子は『みきしゃー』って言ってたわよ〗
『ミキサー?』
〖ええ。源に『それはハンドミキサーだろ!キッチンから離れろ!』って突っ込まれてたけどね〗
『ハンドミキサー⋯あれね。たしかに、あの子ったら好きでよく見てたわね』
でも、好きなんだけど
「うにゅ~」ふらふら
『あらあらまあまあ、椅子から落ちないでね』キュイーン
「あい~」ふらふら~
という感じに見すぎて目を回してたわよね⋯なんでかしら?
〖可愛ければいいのよ♪それより、次行くわよ?準備はいい?〗ニヤ
『えっ!?』
〖何よ?その濁ったような『え』は?安心しなさい。今度は何の魔法か教えてあげる。火魔法と重力魔法よ。あ、あと一応土魔法かしら?〗こてん
『あらあらまあまあ、ちっとも安心できないのだけど?』
何だかとっても嫌な予感がするわ⋯
〖まあまあ。ちょっと話を聞きなさいな。今度は動かないでひたすら防御に徹してくれればいいから♪〗ばちんっ
『⋯⋯』じと~
思いっきりウインク。なおのこと怪しい⋯
〖まあまあ、いいから、早くシールド張りなさい。まずは⋯源に聞いた、漬物石♪〗
ぼんっ
『へ?』
ちょ、ちょっと、なんで空中に巨大な岩が?
漬物石って、そんなわけないでしょ?何を漬ける気なの!?巨大な味噌樽?
レイの周辺は不気味な影に覆われていた⋯
〖うふふ。次は、これをこうして⋯〗ぼっ!
『ヒィッ!?』
も、燃えた?メラメラしてるわよ!?
『あ、あつ!?』
めちゃくちゃ熱いんだけど!?溶岩?いえ、太陽!?私を石焼き芋にでもする気!?
〖さあ、じゃあこれを⋯えっと、なんて言ったかしら?アイロン?のしいか?えびせん?〗
『の、熨斗!?』
私をエビせんみたいにぺっちゃんこにする気!?
〖まあ、いいわ?ほらほら、気を抜くと押しつぶされた上に丸焼けになるわよ?ほらほら、どんどん重さを増すわよ?〗
『ヒィっ』ぐぐぐっ
こ、これが重力魔法!?あ、足が地面にめりこむっ
神経集中よ!心頭滅却すれば火もまた涼し⋯くないわ!熱いわ!
ええと、こうなったら、
ぼそぼそ
『シールド二重にして、熱遮断⋯あ、まずいわ、これ、熱くないけど酸欠になる⋯空気を確保しないと⋯』
レイさんはブツブツ言いながらシールドをいじくり始めた。
『ええと、酸素、酸素はどうやって⋯あ、とりあえずここの空気とあの辺の空気を入れ替えて⋯効率悪いかしら?魔力はなるべく温存したいし⋯そうだ。こういう時のために酸素ボンベみたいな魔道具を⋯』ぶつぶつ
考えがシールドとは違う方面に行ってるような?
〖おいおい、レイのやつ、なんかブツブツ言いながら多重障壁作ってるぞ。誰か教えたのか?〗
〖いいえ。教えてないはずですよ。完全にオリジナルでしょう。多重障壁というか、シールドに色々付与しようとしてるようにも見えますよ〗
『のう⋯何やら転移魔法まで使ってないかえ?』
『熱が届いてない辺りの空間とあの玉の中の空間を入れ替えてるような気がするな?』
どうやらレイさん、この世界の常識とは外れたことをしてるようです。
ぶつぶつ
『う~ん、酸素酸素、過酸化酸素水も二酸化マンガンもないし、空気を生み出す水草とか、石とか?どれもここには無いし、やっぱり工芸神様と魔道具⋯あら?小説なんかでなかったかしら?熱耐性とか、冷気耐性の効果のある装備品とか⋯』
レイさん、どんどん色んな方に考えが⋯
〖⋯何だか非常に巻き込まれる予感が〗
〖まあ、頑張れ!〗バンバン!
〖武神、痛いですよ⋯〗
工芸神様、頑張って!
そして、時間は更に経過し⋯
〖ねえ?魔神ちゃん〗ぽん
〖何かしら?主神〗
〖もういいんじゃない?〗
〖⋯なんでよ?〗むう~
〖なんでって⋯レイさん多分だけど、自分の頭の上のこと忘れてるよ?〗
〖⋯やっぱりそう思う?〗
〖うん。思いっきり。だって、どんどん地面に盛り込んでるけど、気づいてないみたいだし〗
〖う⋯⋯〗
そう。ぶつぶつと自分の世界に入ってしまったレイさん。その間も重力魔法を上乗せしていた魔神様。だけど
〖お母様、あれはダメですわ〗
〖⋯あなたまで〗
〖だって、どう見てもダメージ全く受けてませんわよ〗
〖完全に自分の世界だしね~〗
〖ううう~⋯〗ぐぐぐ
〖魔神ちゃん〗ぽんぽん
〖お母様〗ぽんぽん
両側から肩をぽんぽんされる魔神様は、とうとう
〖うう~分かったわよ!〗パチンっ
レイさんの頭の上から燃える岩が消えた
〖レイ、終了よ、レイ!〗
『⋯』ぶつぶつ
レイさん気づかない⋯
プチンっ
〖レーイっ!〗ずどーんっ
〖〖あ〗〗
全く気づかないレイさんに魔神様ついにキレた!
『え?』ずしーんっ
消したはずの岩がレイさんに落とされた!
バリーンっ
そして、レイさんのやたら頑丈なシールドにより砕け散った!
『あらあらまあまあ?』
な、何が起きたのかしら?
〖あ~やっちゃったね〗
〖まあ、さすがに火は消してあるようですし〗
〖そうだね~何より、レイさんが無事だしね〗
〖そうですね〗
のほほんとした主神様親子⋯
〖いいのかよ⋯〗
〖いいんじゃないですか?〗
『まあ、レイだしの』
『そうだな。レイだしな』
〖そうか⋯〗
神様たち、そろって『レイだから』で片付けた。
〖レイ⋯貴方ねぇ〗ぷるぷるぷる
『あ、あらあらまあまあ?私ったら、何をしてたのかしら?おほほ⋯』
レイさん、怒りに震える魔神様にようやく気づいた!
ま、まずいわっ
〖そうねぇ⋯貴方はシールドの強化の練習をしてたはずよねぇ?〗うふふ
『そ、そうだったわよねぇ~?おほほ?』
たしか、動かないでシールドを張り続けるように言われたわよね?火のついた漬物石⋯じゃなくて巨大な岩がどんどん私を押し潰そうとしてて⋯あまりに熱いからシールドを二重にして熱を遮断して、そしたら空気が薄くなったからどうにかしないといけないと思って⋯
あらぁ?
〖そうよね?貴方は途中までちゃんとやってたわよね?そのあとはなにか別のことに夢中だったようだけど?〗ヒクッ
『あ、あらあらまあまあ?そ、そうね?ちょっと酸素のこととか⋯』だらだら
色々考えてたらシールド張ったまま自分のおかれた状況を忘れてたわ⋯
嫌だわ、魔神様のこめかみがピクピクしてるわね。これは⋯
ずさっ
『大変申し訳ございませんでした』ごんっ
謝らないとダメな案件!例え巨大漬物石を落とされたとしても!
〖だいたいね、下手したら死ぬかもしれないような物を頭上におきながらなんで貴方はっ〗
『はい。ごもっともでございます』ごり
そんなモノをなぜそもそもと言いたいけれど
〖もっと真剣にっ〗
『はい。申し訳ございません』ごり
反省しております。
〖レイさんがまためり込んでるね。今度はおでこだけど〗
〖あれって土下座でしたわよね?〗
『レイの世界じゃ、あれが主流なのか?』
『さての?』
決して主流ではない⋯
〖はあ、まあともかく⋯意識しないでもシールドを張り続けられることは分かったわね〗
『え?』
そうなの?
〖だって考え事しながら無意識でシールドを張り続けられるんだもの⋯ねぇ?〗じとっ
『ふあっ!そそそ、それはっ』
申し訳ありません。だから、睨まないで~
〖ということで、貴方はこれから四六時中、食事中も寝る時も魔力を纏いなさい〗
『え、ええ?私、初心者で』
〖出来る、わよね?〗ぎろ
『え、そ、それは』ギギギ
〖で・き・る・わ・よ・ね?〗ニッコリ
『ハイ⋯やらせて頂きマス』に、にこ⋯
という訳で、レイさんの特訓はエルフさん達より一足先に始まったのでした。
〖うふふふ〗
『お、おほほほ』
いや~ん
☆。.:*・゜☆。.:*・゜
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