177 帰路/ジャン、砂漠の上に立ち
昼頃。
湖のほとりで、ラクダ達に荷物を取り付ける。
その中の数頭には、今回の交易品である、ラハムの地の特産薬草の入っている木箱も取り付けられていた。
「いや~、この薬草を見たら、長老、喜ぶっすね~」
リートが木箱を眺めながら、ジャンに言った。
「おそらく、今後も頻繁に交易に来させてもらうと思うんで!」
「ええ。またその時は、よろしくお願いします」
ジャンは嬉しそうに応えた。
「よし、帰るとするか」
ジェラードの言葉に、皆がうなずく。
「あっ、皆さん。実は昨日の夜、盗賊が出まして……」
ジャンが、昨夜の盗賊団出現の一件を商隊に説明した。
「大丈夫っすよ、村長」
リートがジャンに言った。
「ジェラード一人で十分なくらいなんで」
「あはは、それは何より。ですが、万が一のこともあるので、砂漠の少し先まで、お見送りいたしましょう」
「あざ~す!」
ジェラード商隊と、ジャンは、湖の村を発った。
草原に差し掛かる。
「んっ?ここの草原……」
ミトが、歩きながら草原を見渡した。
「たしかここ、行きにも通ったよね。こんなんだったっけ?」
草原の所々が、線を描く形で焼かれていた。それはまるでミステリーサークルのように、草原一帯に広がっている。
……これは、完全に、リートさんとジャンさんが戦った跡だ。
マナトは思ったが、さあらぬ顔をして、言った。
「盗賊団との戦いのせいだろうね」
「あぁ、なるほどね」
ミトは納得していた。
※ ※ ※
草原を抜け、砂漠へ。
しばらく進む。
「……ここまで来れば、もう、大丈夫だろう」
ちょうど、湖の村とサライの中間程度のところで、ジェラードがジャンに顔を向け、言った。
「サライまであと少しだ。ありがとう、村長」
「ええ。それでは、お元気で」
ジェラードとジャンが、握手した。
「マナトさん、リートさん、また他のお方も、お元気で!」
手を振る商隊の皆に、ジャンは手を振り返した。
ジェラード商隊が、遠くへと離れていく。
「……キャラバンか」
やがて、地平線の先、商隊が消えていったのを見届けたジャンが、つぶやいた。
「……望むなら、私も、彼らみたいに、いろんな世界を旅してみたい。この世界を、真実を、この目で確かめてみたい……」
もう商隊は見えなくなってしまったが、ジャンはずっと、その消えていった地平線を眺めていた。
だが、やがて、
――サァ~。
ジャンの足下から、塵となって消え出した。
「……いや、すべてはこれからだ。先代より授かりし意思を受け継ぎ、その上で……よし、村へと戻ろう」
――サァァ……。
ジャンのすべてが塵となって、消えた。
(湖の村 終わり)