178 キャラバンの村にて
湖の村から帰還した翌日の、朝。
村のメインストリートに、マナトの姿はあった。
横道に外れて、細道に入る。
細道の奥、周りの他の建物より、ひと際大きな石造りの建物が見えてきた。
その建物の、入り口にかかっているのれんをくぐる。この世界に来たばかりの頃、意味の分からなかったのれんの文字も、今ではもはや親しみすら覚える。
中に入り、さらに入口が2つ。入るべきほうへ。服を脱ぎ、裸になって、さらにさらに中へ。
壁際、流しそうめん風の流し台で身体を洗う。
そして、
「あぁ……」
やっぱり、声が出た。
ここは、村の大浴場。
マナトは広い湯船にちゃぷんとつかっていた。
「極楽、極楽~」
村の大浴場は、いつキャラバン達が戻ってきても大丈夫なように、朝から夜まで自由に利用できるようなっていて、マナトは朝風呂を楽しんでいた。
今日は、朝から利用している者は、マナトだけだ。
天井を見上げ、マナトはひとり、つぶやいた。
「次は、どんな村なんだろうなぁ……」
キャラバンの村に帰還してすぐは、なんだかんだでぐったりして疲れてしまっているが、一晩寝て、起きて、こうやって過ごしていると、不思議と、次の交易について、思いを巡らせる自分がいた。
それも、前向きに。
……仕事が、こんなに楽しいとは。
とはいっても、最初は長老に言われるがまま、そして、今も、ただがむしゃらにやっているだけではあるが。
「……ふぅ。そろそろ、あがるか」
マナトは湯船から上がった。
服を着て、大浴場を後にした。
「はぁ~、気持ちいい~」
キャラバンの村の朝は、密林や湖のある影響か、砂漠に比べて意外と涼しく、朝風呂後にちょうど良い。
その足で、中央広場の、大衆酒場に立ち寄る。
大衆酒場の大きな扉はもう開け放たれていて、扉には、今回のラクダ交易のリスト。
ラクダは着実に減って来ている。キャラバンの村の砂漠化は、なんとか食い止められそうだ。
「半分は、なくなったかな?」
「マナトく~ん!」
マナトがリストを見比べていると、後ろから声がした。
伝報担当の、ステラがやって来た。手には複数の紙が持たれている。
「やっほ~」
「ステラさん。おはようございます」
「交易お疲れさま。あら。朝から銭湯行ってきたの?」
「あはは、そうなんですよ。お風呂入るの、気持ちよくて」
「あたしもこの後行こっかな~」
話しているうちに、ステラは大衆酒場の大扉の前に立ち、手に持っていた紙をペタペタと扉に貼り付け始めた。
「ステラさん、それは?」
「新しい交易のリストなの」
「へぇ。……あっ、ラクダのじゃないんですね」
「そう。これ、ジンの影響で中止していた案件なの。村から村への、物資の運搬依頼なんだけど」
「運搬依頼、ですか」
「そう。ラクダの交易が優先だったけど、こっちも進めていこうって、交易会議で決まってね」