175 語る夜③
「……」
無言になり、ジャンはずっと、たいまつの火に目を向けている。
「どうしました?ジャンさん」
「あぁ、いや……」
ジャンが顔をあげた。
「ジン同士の交流……いま、マナトさんに聞かれるまで、そんなこと、考えたことすら、なかったなと思って」
「そうですか」
「確かに人間は、よく、人間同士で交流し、組織をつくりますよね。というか、それが最も典型的な生物だ。対してジンは、そのようなことは……」
ジャンは、また黙った。
「ジンが、ジンについて考えてるっすね……」
なにか考えを巡らせているジャンを見て、リートがマナトに小さな声で言った。
「そうですね……」
見守っていると、やがて、ジャンが再び口を開いた。
「やはり、人間に比べて個体数が少ないというのが、原因としてあげられると思いますが……」
「あぁ、なるほど」
「ですが、そもそも、ジン同士がお互い交流するというのは、ジンの私自身の感覚ですが、あり得ない気がするんですよ」
「それは、ジンならではの習性というか特性というか、そんな感じっすか?」
リートが聞いた。
「そうですね。あまりうまく伝えられないんですが。……それに、場合によっては、敵として相見えることも、あるので」
……そっか。かつてラハムの地で、村を襲われているんだった。
マナトは思った。
「そうでしたね……」
マナトの言葉に、ジャンはうなずいた。
「私はジンですが、同時にジンの恐ろしさも、身をもって体験しているのです。……繰り返しますが、リートさん、私はあなたをこれっぽっちも恨んでいません。至極、当然の行動だったと思っています」
「……っす」
「だからこそ、マナトさん」
ジャンは、マナトに目を向けた。
「あなたには、正直、ビックリしました。私をジンとして分かった上で、あの時、私を助けて下さるとは。先代以来ですよ」
「あぁ、いや……」
「マナトさん、あなたと出会えることができてよかった」
「こちらこそ」
マナトは素直に嬉しかった。やはり、分かり合えるジンもいるんだという事実に、マナトは高揚していた。
「ですが……」
ジャンは、少し曇った表情になった。
「私のようなジンばかりでないことだけは、言っておきます。あなたはまだ、ジンの本当の恐ろしさを知らない」
ジャンはリートの持っている紙を指差した。
「そこの書簡に書かれている通り、ただ人間を苦悩と悲惨のどん底に陥れるような輩も、いることは事実です……ジンである私が言うのも、おかしな話ですが」
「それは、そうだと思いますが……人間も、そうだと思うので」
「……」
マナトの言葉に、ジャンは目を丸くした。
「マナトさん、本当に変わっていますね」