171 湖の村の若村長⑤/VSリート
その炎はゆらゆらとゆらめいて、沸き起こっては消え、渦巻いたと思うと空中に溶け込んだ。
どこか幻想的で、生命の比喩としてよく例えられる炎特有のその現象が、絶えずリートの周りで繰り返される。
その中にいるリートの顔が、炎が沸き起こる度に、パッと照らし出された。顔は相変わらず、笑顔。余裕の表情、そんな印象。
……背中にある矢筒が火元……いや、炎のマナ石があれば、いくらでもといったところか。
そう思いながら、リートを見るジャンの頬にも、熱が伝わってくる。
リートの口が再び開いた。
「どんな目的があって、あの美しい湖の村に潜伏してるんすか?ジン=ジャン」
「……ラクダを連れてきてくれたことには感謝しています」
ジャンは、リートの問いに対して……ジンに関して触れることはしなかった。
「だが、しかし」
そして、赤々と炎に包まれるリートを見て、言った。
「私は湖の村を……村人達を守る使命がある」
――シャキッ。
ジャンが、両手の長剣を抜いた。二刀流の構えをとる。
――ヒュゥォォオオオ……。
ジャンの周りに、風が、巻き起こり始めた。少し砂を巻き込みながら、その風がジャンを包む。
「そのために……私自身が、やられるわけにはいきません……!」
「……フッ」
リートが、微かに笑った。
そして、背中に背負っている弓に手をかけ、矢束から、一本、矢を取り出した。すでに矢先は燃えている。
……来る!
――ビュンッ!!
リートが火矢を放った。
――ボォワァアアッ!!
火矢が巨大な火の玉と化した。
「うぉおお!!!」
ジャンは真っ正面から、その火の玉を迎え撃った。
一閃。
――ブワッ!!
ジャンの剣先から出た風が、細く鋭い真空波となって、火の玉を真っ二つに切り裂いた。
「どもっす!!」
「なっ!?」
真っ二つに割れた火の玉の中から、リートが炎をまとったまま、矢をつかんでジャンに飛びかかってきた。
――キンッ!!
剣のように、リートが矢を振り下ろす。ジャンはそれを片方の長剣で受けた。
そこまで矢剣は重たくない。もう片方で反撃を仕掛けようとする。
――ボボボボッ!
リートの周りに包まれている炎と、長剣で受けている矢の矢尻の炎が長剣へと引火して、ジャンに燃え移らんと迫る。
「くっ!なんて火力だ!剣に引火するとは!!
――カキンッ!
矢を受けていた長剣を振り抜いた。リートが少し飛ばされる。引火した長剣は放り投げた。
地面に着地するまでに一撃入れようと、ジャンが一歩踏み出す。
「!?」
飛ばされながらリートはすでに、その持っていた矢を弓にかけていた。
――ボォワァアアア!!!
先よりも巨大な火の玉が、ジャンに襲いかかった。
「……」
――ムクムク。
ジャンの目が、耳が、口がなにかに変化しかけた、その時、
――ブシャァアアアア!!!
ジャンの目の前に何者かが立ちはだかり、リートの火の玉を水で受け止めた。
「やめてください!リートさん!」
「マ、マナトくん!?」
リートが慌てた様子で、大声を出してマナトと呼ばれた男に言った。
「マナトくん!!ダメっすよ!!そいつは……!!」
――ブンッ!!
ジャンは反射的に長剣を振りかざした。
そのまま、目の前の男に……
「大丈夫ですよね?村長」
――ピタッ。
すんでのところで、ジャンの動きは止まった。