1
目が覚めるとそこは、見慣れた自室のベッドだった。
自分が処刑されるなんてイヤな夢を見たものだとベッドから降りて立つと違和感に気づく。確かに見慣れた部屋だが何かおかしい。
「あら、お嬢様。今日はご自分で起きられましたね。」
入ってきた女性は、私の乳母で3年前に亡くなったはずのマーサだ。
「マーサ!大丈夫なの?」
「何をおっしゃっているんですか?夢でも見ましたか?」
「うん。寝ぼけてたかも?私はキャロライン・オーウェンよね?」
「はい、お嬢様はキャロライン様です。先月6歳のお誕生日を迎えたマーサ自慢のお嬢様です。」
朝の支度のために部屋の隅にあるドレッサーの前に行くとマーサが抱き上げて椅子に座らせてくれた。
鏡に映る顔を見てみると確かに少し癖のある淡い金髪も深い湖のような碧の瞳も変わらないが、自分の顔が丸っこく幼くなっている。先程の違和感に納得した。身長が文机の天板とほぼ同じで椅子に座るのもよじ登るに近いくらいの高さしかない。
それにしても私はさっき処刑されたはずだったのに6歳に戻っているのは、どうしてだろう。本当にただの夢だった?それか神様が冤罪の私を可哀想に思ってくれた?
でもなにより、あれが本当にこれから起こることなら、なんとかして殺されないようにしなければ。
まずはフィリップ殿下と婚約しない。グレアムと姉弟にならない。この2つは最低限のラインだ。
私が覚えているのは、フィリップ殿下と婚約したのは8歳の時で、確か子どもたちが集められたお茶会で王妃様に気に入られてしまったからだったような気がする。
それでオーウェン侯爵家の後継がいなくなるからと遠縁のグレアムを養子にしたのだから、一番いいのは、8歳までに侯爵家に婿入りしてくれる婚約者を見つけるというのがベストだろう。
「お嬢様、そろそろお着替えをして朝食になさりませんか。」
「そうね。そうするわ。」
まずは食事をしてから対策を考えることにした。何しろ処刑前、まともなご飯が食べられなかったから気持ち的にはすごく空腹なのだ。
それにしても淡い金髪に碧の瞳だから似合わないわけじゃないんだけど、さすがに心が18歳では恥ずかしいくらいのピンク色のふりふりワンピースに同色のリボンはちょっと抵抗がある。でもまぁ今見た目は6歳だもの大丈夫よね。と無理矢理自分を納得させた。