巨乳女騎士を添えて~【バトル】魔王島脱出編――完っ!
――――ぶふゥああああ!!
「大丈夫か!?」
「はあ、はあ、はあ……」
俺が聞きたい。
船の甲板の上、ヴォックスの攻撃が当たる瞬間、俺は自分でも驚くほどの反応速度で一心不乱に転移した。
急いで立ち上がろうとするが船はヴォックスのパンチの煽りを受け、その突風とも呼べるほどの風で大きく傾いていた。
「ぐっ…」
「うわあああ!」
軍隊の残っていた羽付き魔族がヴォックスを拾い、元の位置へと戻ると、辺りを確認する。
兵はごく少数まで減らされ、先程のような覇気は見る影もない、ヴォックスは船を見据えると、小さな声で呟いた。
「…ごめんね、みんな」
「? どうしたんですか、ヴォックスさ――!」
ヴォックスは先程の攻撃よりも大きく息を吸い込むと、自身の能力を発動させる。
「嘘だろ!? おい、乳山! 耳、耳ふさげ!!」
「くっ!!」
「ギヤ˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝!!!!」
音の壁とも錯覚しそうな大音量の絶叫に、船はミシミシと細かく振動し、足元の甲板の板は限界を迎えたのか、バキィと音を立てて跳ね上がる、俺の体は毛が逆立ち全身から嫌な脂汗が吹き出すと、脳みそは冷え切り、ストレスによる頭痛が絶え間なく危険信号を発し続け、その声は地獄から這い出る悪魔を連想するような、生命の危機を感じさせる不快な周波数を垂れ流していた。耳を両手で塞いでいるにも関わらず自身の平衡感覚が奪われ、視界がぐにゃりと歪む。
馬鹿か!? あいつは馬鹿なのか!?
それはヴォックスの能力、相手を気絶させる咆哮、だが、同時に、周りにいる全員に効果を発揮するため、普段は味方の居ないところで使うことが常識となっていた。それをお構いなしに使ってきた、つまり。
ここが要か、ヴォックス!
次々と気絶していく羽付き魔族たちは、真っ逆さまに落下していく。
もちろん。
ヴォックスのことを支えていた魔族も気絶し、自身もろとも落下していく。
だがヴォックスは当然のようにその落下してくる魔族を踏みつけ、壁ジャンプのように軽やかな身のこなしで移動する。
クソッ、一瞬気絶してた。
だが、愚策だったな、俺の勝ちだ!
俺は耳に張り付いていた手を離すと、甲板に触れようと――。
「ギヤ˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝!!!!」
瞬時に再び耳を両手でふさぐ。
あいつ、連続で!?
ヴォックスは気絶して落ちて来た魔族の体を使い両足を深く沈み込ませると、こちらに向かって一気に跳躍した。
軽く衝撃波が起こるほどの跳躍、たぶん支えていた魔族の体は何本か骨が折れただろう。
凄まじいスピードで近づいてくるヴォックス。
いつの間にか気絶から戻った乳山が嘆く。
「嘘だろ!? この船まで六〇〇mはあるぞ!?」
関係ない! 触れれば! 触れれば!!
ヴォックスから空気を吸い込む音が聞こえる。
触れッ――!
「ギヤ˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝!!!!」
咆哮をあげながら高速でこちらに向かってくる、ヴォックスの、その、手が、船体に掛かる瞬間。
シュン。
ヴォックスの目の前から船は、その巨大な帆船は姿を消した。