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巨乳女騎士を添えて~【バトル】空中の合戦もあるよっ!

「いいか、よく聞けよ、そして、ポンコツはややこしくなるから少し黙っとけ」
〔承知シマシタ、ポンコツジャナイケド〕

 ……。

「少し考えれば分かることだ、いま、この状況で失ったら詰み、ゲームオーバーな物ってのはなんだ? ……そう、この船と――転移の指輪だ」
「あ、ああ」

 そう、と無理やり話を続けてみたが、返しの反応を見るに分かって無かったな、コイツ…。

「正確には転移の指輪の能力だ、これは範囲が指定されてる分、自由が利くが、範囲から出ると一方通行、つまり、<魔王島に行くことしか>できなくなる、そうなれば、さっきみたいな攻撃を仕掛けることが出来なくなっちまう事はもちろん、ロクな攻撃手段が無くなり、もし、あの、大軍の中の一人でも俺たちに追いついたら、それこそ確実に全員殺されて終わりだ」
「うっ、確かに」

 乳山は追いつかれた時の想像でもしたのか、顔色が悪くなる。
 ――百パーセント確実な詰みがある逃亡か。ある意味、戦いにおいては最強のアイテム二個持ちの戦闘か…。こうしてみれば後者の方が明らかに希望があることが分かるだろう。
 それに、俺はこの戦い、勝てると確信している。

「乳山、例のモンは運んできたか」
「あ、ああ、なるべく多く見繕ったつもりだが」

 乳山が体をひらりと、身を躱すように自分の背後にある木箱を見る。
 そうだな、こんなもんか。

「よし、なら、覚悟しろ、これが最後の戦いだ」

 俺は魔王島から飛んでくる、空を埋め尽くすほどの大軍を見る――――。

「取り舵いっぱい!!」
「と、取り舵いっぱい!」
〔取り舵イッパイ〕

 船は軋みながら、勢いよく左に曲がり、甲板に立っていた俺たちはその勢いに重心を保てず、転げるように膝をつく。
 大軍は、尚も速度を緩めずに直進してくると、十人の筋骨が特に発達した魔族が飛びながら軍の前に出ると、持っていた黄金色の盾を構え、防御の体制に入る。

「取り舵戻せー!」
〔取り舵戻セ、ヨーソロー〕

 船は船体の左側を大軍に向けると、そこから黒い、棒状の大理石で出来たような魔導砲が顔を出す。
 ガシャン―ガシャン―ガシャン――と、船体側面を覆いつくすほどの魔導砲は、曲げわっぱの弁当箱のように、上下に勢いよく開くと、中からは魔導炉に使われていたような、碧色の、美しいクリスタルが顔を覗かせ、それらが一斉に白い光を放つと俺らが乗っている甲板も含め、辺り一面が術式反応に満たされる。
 大軍の前に出て盾を構えていた魔族はもちろん、その後ろに、横の広がりをみせて飛んでいた魔族たちは全員その光を見て歩みを止め、額に脂汗を浮かべる。
 徐々に大きくなっていく光に、一人の魔族は前に飛んでいた魔族の後ろにスッと姿を隠す。軍の前に浮かび、盾を構えていた魔族はちらちらと後ろを振り返り、ある人物を見ると、再び前に向き直り、盾を持つ手に力を入れる。そして、その、ある人物が声高らかに喋り出す。

「…みんな! 大丈夫、魔王様率いる最強の軍隊、魔王軍、その――最高幹部<四天王>である私がついてるっ! 船が落ちて来た時も私がいれば大丈夫だったでしょ? 今回も……私がいる!」
「「「うお˝お˝お˝お˝お˝お˝お˝お˝お!!!!」」」

 雄たけびは魔王島全土に響き渡り、兵たちに力を込めさせる。
 だが反対に、俺は、勇ましく燃える魔族たちを冷ややかな目で、真っすぐ見据えていた。

「……これは、テメー等が名を上げる絶好の機会じゃない、絶望の主人公気取りで、友の仇討ちをする絶好の機会でもない。この俺が演じる、名誉ある逃亡、そのための茶番だ、逃げ場も希望も可能性も、全てひねりつぶして、必ずテメー等を――喰ってやる」

 その半獣半魔の魔族は、軍の中程、ひときわ大きなグリフォンの上に立ち、いま、号令を、最後の号令を掛ける。

「突撃いいいいいい!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

 俺は先程よりも速度を早めて突っ込んでくる魔族たちを、冷徹に、無慈悲に、その引き金を引いてみせる。

「ってええええええ!!!!」

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