120 セラ/マナの風車
箱船から降りてきた、キャラバンの一人が長老の近くにやって来ると、お辞儀した。
「ご無沙汰しておりました」
「セラか。ご苦労じゃった」
大きな深緑色の瞳が特徴的な、白く美しい容姿。背中まで伸びた、流れるようなストレートの金髪。
背が高く、マナトよりも一段上の目線をしていて、銀色の胴着越しからでも、引き締まった身体をしていることが分かる。
男だけでなく、女もついつい目を引いてしまいそうな、そんな印象だ。
つまり、超絶カッコ美しい。
……あの目、ステラさんと同じ。
「お姉ちゃん!お帰りなさい!」
ステラがセラに向かって、嬉しそうに言った。
……やっぱり、お姉さんだった。
「ただいま、ステラ……あらっ?」
セラが、ステラの隣にいるマナトを見た。
「紹介するわ。お姉ちゃん達が交易中に、この村にやって来て、キャラバンになったマナトくんよ」
「はじめまして、マナトです」
マナトはペコリと頭を下げた。
「はじめまして、セラよ。キャラバンになったってことは、もう交易を経験したのかしら?」
「はい。アクス王国に、一度」
「ウフフっ、これから大変よ。まあでも、一緒に、頑張りましょうね」
ニコッと、セラはマナトに笑顔を向けた。
「はっ、はい。よろしくお願いします」
マナトはもう一度、頭を下げた。
……美人すぎて、顔が見れない。
「セラ、さっきの話じゃが、あの箱船は、もう動かせんのか?」
長老が、箱船を指差した。
箱船の白い帆の後ろ、船体に立っている3本の垂直棒に、木製の回転羽根が縦と横に2つずつ装着されていた。
「はい。ウームーで入手した、風のマナを込めた木の羽根、マナの風車《かざぐるま》は、一度止めてしまうと、もう動かすことはできないようです」
「ふむふむ、なるほどのう」
長老は、なにか思考を巡らせるように、あご髭を触りながら箱船を眺めた。
「ところで、ラクダ達は?」
少し間があって、長老が再びセラに言った。
「はい。この後、リートとジェラードが率いて、戻ってきます」
「うむ、承知した。まあでも、そちらの交易品は、この箱船の半分くらいかの」
「……えっ?」
セラが、いぶかしげな表情を、長老に向けた。
「長老、違いますよ?ムハドから聞かなかったのですか?その相談のために先に降りてもらったのですが……」
「……なんじゃと?」
「いわばこの船は、早馬のようなもの。今こちらに向かっている本隊の規模は……」
セラが長老に何か言おうとした、その時だった。
「……あれ?長老!砂漠からまた、なにか来るようです!」
砂漠のほうを見ていたステラが長老とセラに言った。
「……あれは、ラクダです!しかも大量に!!」
もはや何体なのか分からない。おびただしい数のラクダの群れが、地平線を埋め尽くしていた。
「あっちが本隊ですよ。ラクダは確か……1000頭だったかと」
「そっ、そっ……それはいか~~~~ん!!!!!」
――ピュァアア!
長老の絶叫に応えるように、ラクダ達の上空で飛んでいたルフが鳴いた。