118 ムハドの帰還
「船から離れろ!着地するぞ!」
その男ムハドの、少し低めでありながら、それでいてよく通る声が響いた。
出迎えの皆が避難した。宙に浮いていた箱船が、地面に着地した。
――ドォォォォオン!!
ものすごい音とともに、まるで地震が起こったかのようにキャラバンの村全体が揺れた。
「す、すごい……」
マナトは唖然として、目の前で起こる超常現象を、ただ眺めていた。
はしごが船上から出てきた。続々と、キャラバン達が箱船から降りてくる。その先頭に、ムハドがいた。
「ムハドさ~ん!!」
「おい遅かったじゃねえか!!コノヤロー!!」
「なんなんですかこの箱船は~!!」
子供達だけでなく、大人達までがムハドに駆け寄り、肩を抱き、腹を小突き、ムハドをもみくちゃにした。
「あはは……元気にしてたか?みんな」
均整のとれた、少し彫りが深めの容姿。太めの眉毛に、両サイドを短く刈り上げた黒髪。
真っ直ぐな、大きな黒茶色の瞳からは、自信に満ち溢れた輝きが放たれ、それでいながら、その振る舞いには落ち着きと風格が漂っていた。
「ウフフっ。相変わらず、すごい人気ね、ムハドさん」
マナトの隣にいるステラが言った。
「ですね」
……こういう人もいるんだよなぁ。
生まれながらの王者のような、また、英雄のような、キラキラした人がごくたまにいる。
見た目だけでなく、それはまさにオーラとしか言いようがないそれを、その人は持っている。魅力的で、非凡な才能を持っていて、その人に会った多くの人が、ついつい感じ入ってしまうような、そんな存在。
そして、目の前でもみくちゃにされている、ムハドという人物にも、それを感じた。
「なんだなんだ!?」
「な、なんじゃありゃああぁぁぁ!?!?」
「いやてか、ムハドさんいるじゃん!!」
箱船の衝撃でビックリして村からやって来た村人達が、箱船を見るや否や、ムハドを見るや否や、絶叫した。
「まったく、毎回毎回、ビックリさせおって。しかし、空飛ぶ箱船とは、考えたのう~」
マナトとステラの近くにいた長老が、関心した様子で、ムハドに近寄り、言った。
「おう、じいちゃん。驚いたろ?交易品も、この中に積んでるんだ」
「うむうむ。これ、ウームーのマナか?」
「ああ、そうだ。マナの風車《かざぐるま》だ」
「前の失敗を、ちゃんと考えての対策、見事じゃ。前はラクダをたくさん連れ帰ってきたせいで、大変なことになってしまったからな」
「あぁ、いや……えっと……ムグっ!」
「ムハドさ~ん!!」
ムハドが少し気まずそうに、なにか言おうとしたが、村人達の手によって遮られてしまった。