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二十八話 お友達

 


「──つまるところ、子供を追っていたら子供を見失い、困り果てていたら狂人と遭遇し、狂人に案内させたらその人形が玩具に囲まれ存在していました、と……」

「そういうことです」

 頷いたビビに、リレイヌは「なるほどなぁ」と頷いた。その視線の先、来客用ソファーに置かれた着せ替え人形が「なによう!」とドスの効いた野太い声を発している。正直とても気持ち悪いが、まあそれは良しとしよう。
 従者であるイーズが「如何なさいますか?」と問うてくるのに頷く彼女は、「即刻人形を組織へ」と指示。「かしこまりました」と頭を下げる彼を見てから、改めてと人形に目を向ける。

 人形は、ウェーブした白い長髪と、翡翠の目を持っていた。頭に可愛らしく巻かれた赤と白のチェックのリボンに合うように、纏う衣服もチェックのワンピース。顔はどことなく西洋風の作りをしており、一見それはホラー映画にでも出てきそうな見た目である。
 なんかの映画でこんな子居なかったかなぁ、と考えるリレイヌをよそ、人形は醜い男泣きを披露しながら、えぐえぐとこの場に捕獲されていることを嘆く。ついでにこれから殺されるのだと悲痛な声を上げるその姿を、この場にいるパティとビビは冷めた目で見つめていた。

「……ねえ、君」

 リレイヌが人形に声をかける。

「なによう……」

 力ない、けれどやはり野太い声が返ってきた。
 見た目と声のアンバランスさが異様なそれに苦く笑ったリレイヌは、一度こほんっ、と咳払いしてから人形を見てニコリと笑う。

「君、なんでまた玩具なんかを集めていたんだい?」

「……お友達が欲しかったのよう……」

「お友達が?」

 こくりと、人形は頷く。

「アテチの一番のお友達、どっかに姿を眩ませたのよう。だから、アテチ、アイツが帰ってくる前にもっとたくさんお友達つくって、アイツが寂しくないようにって……思って……」

「……そのお友達の行方はわからないのかい?」

「わからない。でも多分、近くにいる。そんな気がするのよう……」

「……」

 ふぅん、とリレイヌはよそを向いた。なにかを含んだようなそれに、イーズがチラリと目を向ける。

「……アテチ、どうなってしまうのよう……」

「……場合によっては、というか恐らく解体だな。君に宿る魂も、それと共に消滅するだろうさ」

「……アイツにまだ、おかえりって言えてないのよう」

「……悪いが、こちらも仕事でね」

 ヘコむ人形に告げ、リレイヌは立ち上がる。「何処へ?」と訊ねてくる従者に「散歩」と返し、彼女は部屋の扉へ。そこで、一度足を止めて、静かに言う。

「許してくれとは言わない。怨んでくれても構わない。それで君の心が晴れるなら、そうするべきだ」

「……アテチは誰も怨みたくないのよう」

「……そう。立派な事だね」

 言って退室する主を、止められる者は誰もいなかった。
 シン、と静まり返った部屋の中、一番に動いたイーズが人形の元へ。「ご同行願います」と告げる彼にこくりと力なく頷く人形を抱え、彼もまた、室内から退室する。

「……ビビの旦那」

「ご主人様が決めたことです。僕は何も言いませんよ」

 パティがしょぼくれるように下を向くのを、ビビは黙って一瞥。一足先に、部屋を出た。



 ◇◇◇



「はぁ〜、折角の主様とのお話の場。なんだか暗くなっちゃいましたねぇ〜」

 はにゃぁ、と嘆くように肩を提げたパティ。彼がとぼとぼと渡り廊下を歩いた時だ。近くで「パティさまー!」と声が上がった。見れば、そこにはアルベルトとメーラ、それから、この屋敷に滞在中の病人がいる。
 パティは目を瞬き、皆の方へ。「何をしているんですか?」と素直な疑問を問うてみる。

「メーラ様の特別授業です。現代科学の在り方について教わっています」

「現代科学の在り方……」

 それはまた難しそうな話である。

 パティは引き攣る顔をそのままに、「ボクには難しい話ですねっ」とその場を逃げようと企んだ。そんなパティに、「お前にも関係ある話なのよね」とメーラは告げる。

「はにゃ? ボクにも関係がある……?」

 現代科学の在り方と自分になんの関係が???、と首を傾げるパティに、メーラは言った。「今の科学的技術で、作り出せぬものは無い」、と。

「そもそも、ヒトの肉片ひとつあればそこから別の人間を作り出すことも出来る世の中。ぬいぐるみにだって命を宿す技術があるのだから、早々出来ないことなんてないのよね」

「それはまあ、そうですけれども……なぜまたいきなりそんなお話を?」

「コイツが望んだからなのよ」

 ピッと示されたのは病人──メニーだった。メニーは依然にこにこと柔らかに笑っているが、しかしその顔はどこか暗く、また寂しそうである。パティは不思議そうにメニーを見た。そして、彼から視線を外し、アルベルト、それからメーラを見る。

「ねえ、メーラ様」

「なによ」

 ぶっきらぼうに問われたそれに、パティは一つ間を置き、訊ねる。

「お友達って、どういうものなんでしょう?」

 メーラが訝しげに顔を上げ、アルベルトが目を瞬いた。メニーの顔からは笑顔が消え、それに、パティは焦ったように両手を振る。

「い、や! あの! 今し方その! なんというか、そう! お友達を作れって主様に言われてしまいましてっ!」

「ああ、そういうこと。全く、お前の口から『お友達』なんて単語が出てくるから何事かと思ったのよ」

 まあいいのよね、と少女は言った。毛先の黒い、赤い髪を揺らしながら、彼女はお友達についてを語る。

「友達は、そうね……学校とか……あるいは志、お金などを共にしている相手……同等の相手として交わっている人──友人のことを言うのよね。一般的なお友達は、よろしくしてから長らく仲良くしてれば大体が大体お友達なのよ。まあ、心の底からそうかは別としてね」

「つまり、ボクたちもお友達、ということですか?」

「それは違うのよ」

 ぴしゃりと告げてメーラは言った。

「メーラはお前たちの教育者。お前たちは生徒。お友達なんかじゃないのよね」

「はにゃぁ……ではボクとアルベルトは?」

「僕は主様にお仕えする護衛……従者なので、主様のぬいぐるみであるパティ様とお友達というには些か……その……」

「はにゃぁ……」

 つまり自分、お友達ゼロ???

 衝撃を受けるパティに、話を聞いていたメニーが前へ。そっと片手を差し出し、にこやかに笑う。

「では、僕とお友達、というのはどうでしょう?」

「にゃん……アナタとですか? うーん……」

 まあさすがに友達ゼロよりはマシか、と、パティは嘆息。「仕方がないですね」と差し出されたその手を掴む。

「ボクは、前にも名乗りましたがパティです。かわいいにゃんこのぬいぐるみなので、よぉく覚えておいてくださいね!」

「ふふ。僕はメニー。よろしく、パティ」

 交わされる握手と交わされる挨拶。
 それに、パティはほんの少しだけ、微笑んだ。

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