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二十七話 野太い声のお人形

 


「……ビビの旦那おっそいなぁ〜」

 パティはとある家の屋根の上、ポソリと小さく呟いた。

 夜中をとっくに通り越し、子供はもう寝る時間。というか寝ている時間。未だ戻ってこない仕事仲間のことを考えながら、かわいいにゃんこのぬいぐるみである彼は困ったように眉尻を下げる。「まさか一人で帰ったとか……?」と呟けば、まじで帰ってそう、という考えが頭の中に浮かぶわけで……。

「い、いや、落ち着いて。落ち着くんですにゃんこのパティ。これでもし僕が帰還したとして、ビビの旦那が帰ってなかった、なんてことになったら旦那に殺されるだけでなく主様からも怒られてしまう! それは! それだけは避けねば! 避けなくてはならない事柄ですよパティ!」

 頭を抱えて唸り、「されど放置されてる可能性も否めないっ!!!」と叫ぶ彼はある意味不気味だ。現に聖地に住み着く神聖なる鳥、聖鳥が、その白いくちばしをカチカチと鳴らしながら彼のことを威嚇している。
 しかし、今のパティにはそんなことを気にする余裕はない。このまま帰るか否か、それを決めねばならなかった。しかも答えを間違えれば即クビが飛ぶというオプション付きなのでめっちゃ真剣に考えねばならなかった。

「にゃーん! ご慈悲を! かわいい僕めにご慈悲をください神様仏様主様ぁ〜!!!」

 えーん、と嘆くパティの背後。近づいた何者かがドカリと容赦なくその背中を蹴り飛ばす。それにより、屋根から転げ落ちたかわいいにゃんこは、かわいい悲鳴をあげながら地面に落下。べしゃりと、かわいくない音をたてて顔面から地に埋まる。

「ちょっとぉ、なぁにしてるんですかこのボンクラにゃんこ」

 言って、落ちたパティを見下げたのはビビだった。別れる前までは確かに顔に着けられていたはずの仮面は今現在取り払われており、彼の不思議な色合いの瞳が夜の闇の中でギラリと怪しく光っている。そして、彼の片腕には、子供。
 いや、厳密に言うと子供ではない。子供のような姿かたちをした玩具──所謂着せ替え人形が抱えられていた。外国からの輸入品だろうか。どこか上品さを兼ね備えたソレは、何故かビビの腕の中でカタカタカタッと激しく音をたてている。

「ぶへっ! ゲホッ! ゴホッ! ──ちょっとちょっとぉ! なんてことするんですかぁ、ビビの旦那!」

「お前がボケッとしてるのが悪いんでしょう? いいからはやく帰りますよ。全く、人の苦労も知らずに地面と仲良くしてるなんて、ほんとに使えないぬいぐるみくんですよ」

「誰の!! せいだと!!!」

 叫び、ふわりと浮いたパティは屋根の上へ。そこで、ビビの腕の中にある人形にようやっと気づいたらしい。彼は赤くなった鼻をさすりながら、「ビビの旦那、それは?」と人形を指さし、問う。ビビはその質問に、「ああ、これですか」と人形を見た。

「コレは先程ひっ捕らえた犯人です」

「犯人? なんの?」

「はぁ? 決まってるじゃないですか。 今回の玩具喪失事件のはんに──」

 話している途中で、人形の首がグルルンッ、と回転。異様なそれにパティが青ざめ悲鳴を上げて飛び退く中、カチカチと頭を停止させた人形がその視線をその場にいるふたりへ。カッと作り物の目を見開き、むき出すように作り物の歯をしならせて声を荒らげる。

「なによなによう! アテチが何したって言うのよう! アテチはただお友達が欲しかっただけなのよう! アテチは悪いことしてないのよう!」

 存外野太い声で人形は叫んだ。

「見た目と声のアンバランスさが……はわわ……」

 パティは震えている。

「お前たち、アテチをどうしようってのよう! ぶち殺すつもりなの!? それともあったかいお風呂に入れて髪の毛の色が変わるの楽しんでキャッキャウフフするの!? どっちなのよう〜!!??」

「せ、選択肢がこれまたアンバランス……」

 パティはまたも震えた。

 そんなパティを背後、ビビは人形の首をわし掴むと、空いた片手でガシリとその頭部をわし掴んだ。人形が悲鳴を上げるのもなんのその、彼はギチギチと人形の首を絞めつつ頭を取り外そうとしていく。

「んぎゃーーー!!!??? なあにすんのよーーーう!!!???」

「いえ、うるさいからいっそ取っ払ってしまおうと思って。頭。あとフツーに絞め殺したくなりました。声キモいんで」

「なんなのよう、このサイコパス!!?? そこのアンタ!!! 見てないでなんとかしなさいよう!!!!」

 え、無理です、と思うパティであるが、ココで犯人を殺してしまってはなにもならない──頭とって死ぬかは分からないのだが──そんなわけで仕方なく、仕方なく!彼は苦手な相方に声をかける。怒りを触発しないよう、柔らかく、それでいて愛らしく、声をかける。

「あ、あのぅ〜、ビビの旦那? そこまでにしておかないと主様に怒られちゃいますよ〜、なぁんて?」

「あ゛?」

「すみません続けてください」

 パティはサッと退いた。人形が文句を宣うが知ったことでは無い。

 人形の醜い悲鳴とビビの高笑いを背後、死んだ目でパティは空を見上げる。ぽっかりと暗い夜空に浮かぶ月が、妙に明るく、そして綺麗だった……。

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