バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

二十三話 飴と鞭

 


「ボクにはなぁんにもわかんないんですけどねぇ」

 ムスッとした顔で後ろをついて歩く少年。その名をパティ。猫のぬいぐるみである彼は、不満タラタラと言いたげに冒頭の一言を呟いた。
 それもそのはず、彼は帰ってきて早々謎の生物に捕食(?)されかけるという酷い目にあったのだ。理由の説明くらいほしいものだろう。

 全てを分かった風な主人たちをジトー、と見つめるパティに、その主人であるリレイヌは「おや、わからなかったかい?」と言葉を投げた。
 わからなかった。ええ、わからなかったですとも。
 パティはぷっくりとその頬を膨らませる。

「主様ってば、ボクを天才か何かと勘違いしておいでなのでは? ボクは可愛い可愛いお人形。頭の中に脳みそはなく、真っ白ふわふわな綿が詰まってるんですよ」

「その癖君は理解力があるから不思議だよなぁ」

「流そうとしてますね? そうはいきませんよ!」

 憤慨したように叫ぶぬいぐるみ少年に、リレイヌはやれやれと肩を竦めた。そして、おいでと手招き。パティはすぐにリレイヌの傍に寄る。

「いいかい? 一度しか言わないからよく聞くんだよ。先程の塊は作られたもの。言ってしまえば君と似たような存在だ」

「はにゃ? ボクと似たような……」

 投げられた言葉を噛み砕き飲み込んだパティは、少し考え理解したところで「待ってください!」と手をあげた。「嫌です」と笑顔で拒否するリレイヌに構うことなく、彼は「ボクとアレが似てる!? ご冗談でしょう!!??」と叫びをあげる。

「ボクはこんなにもかわいいにゃんこなんですよ!!?? そんなボクが、あの、奇天烈怪奇なまっくろくろすけと同等だと仰るのですか!!?? この!! かわいい!! ボクが!!!」

「かわいい二回言ったね」

「事実なので」

 コトザのツッコミにさらりと返したパティは、その場で蹲りおいおいと嘆いた。「あんな怪物と一緒にされるなんてぬいぐるみ人生終わった……」とボヤくその姿は哀れなものだ。
 しかしリレイヌは知っている。パティの性格、やること、その頭の中。理解している。故に彼を哀れむことはない。どころか「同等じゃないか」と吐き捨てる始末。パティはこれにムッとした。

「主様、ひどいです……このかわいいかわいいにゃんこなボクにそんな冷たい言葉を吐き捨てるだなんて……」

「事実を言って何が悪い。そも、キミは意志を持ったぬいぐるみ。アレは意志を持たぬ玩具たち。似たようなもので間違いはなかろう」

「全っ然違いますから! 見た目の愛嬌さに差がありすぎて草生えますよ!! 大草原──って、玩具?」

 なんのことだと目を瞬くパティに、リレイヌではなくコトザが答えた。あれらは各地よりより集められた玩具だと。だからリレイヌはパティとあれらが似ていると言ったのだと。

「玩具とぬいぐるみは同等でしょう?」

 言って朗らかに微笑むコトザに、パティはモゴモゴと口ごもる。
 言われてみれば確かに部類は同じ。同じなのだがやはり納得いかないというかしたくもない。
 パティはこう見えて見た目に気を使っているのだ。ぬいぐるみ=かわいいもの、という方程式が彼の中にあるからか、人型の時でもぬいぐるみの姿の時でも彼は気を使って見目を整えている。主人の好きそうな容姿に近づけて近づけて……努力しているのだ。
 それ故にあの見た目よろしくない怪物と同じだと言われることが、彼は非常に嫌なのだろう。

 不満げな顔でしかし口を閉ざしたパティに、リレイヌは一度目を向け「行くぞ」と一言。止めていた足を動かす彼女に、メニーがこそりと疑問を投げる。

「オカーサンは、彼のことが気に入っていないのですか?」

「ん? 気に入ってるが?」

 そうは見えなかったし聞こえなかったと、メニーは思考。そんなメニーに、リレイヌは笑顔でこう告げる。

「パティはかわいがるとすぐ調子に乗るからな。飴と鞭が必要なんだ」

「はぁ、なるほど……」

 大変なものだなと考えた。

しおり