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七話 過去が行き交う食事の席

 


 届いた『肉』を素早く捌く。
 硬い部位は柔らかくする為にすりおろした果物と袋に入れ、匂いを消すために重曹を使う。骨は砕いてすり潰し、スープの中に入れ込んだ。目玉はレモンと飾りに使い、見た目が悪くないように加工。デザートと飲み物には血液をたっぷり使って口当たり爽やかなモノを作成した。

「……お見事ですね」

 屋敷内コックである、等身大の黄色いネズミが思わずと呟いた。頭に乗せた白いコック帽の位置を正しながら、その青い瞳で並べられた『料理』たちを目にする彼は、尊敬の眼差しを、それらを作り出したオルウェルへと向ける。オルウェルはそんなコックに、「どーも」と柔らかく微笑んだ。

「いやぁ、しっかし人捌いたの何年ぶりやろな。腕落ちてないとええんやけど……」

「見た目も味の付け方も、見ている限り完璧でした。味見ができないことがとてつもなく歯がゆく悔しいですが、これはまさに天界から降ってきた神による神のための神だけの料理かと!」

「大袈裟やない?」

 ついつっこんだオルウェルは、スープの味をみながらうん、と頷く。
 人を使った料理など食べることすら嫌悪を抱くが、それでも尊き主君に己の力作を食べてもらうためなら味見だって容易いこと。それに、人でも食べられる人間料理を作成していたのが過去の彼だ。味見くらいできなくては過去の自分に申し訳ない。

「オルウェルさんは本当に素晴らしい料理長ですよね。主様専属コックとしては見習いたいところでございますぅ〜」

 ユラユラと揺れる細い尾をそのままに、キラキラとした目で己を見てくるコックに、オルウェルは苦笑。「とりあえず運ぶかなぁ」と、台に並んだ食事たちを一瞥。屋敷のメイドの手を借り、それらを食卓へと運んだ。



「──美味いのが憎たらしい」

 ズン、としなだれながらボヤいたリレイヌに、控えていたオルウェルは「ありがとうございます」と朗らかに笑った。そんな彼に、リレイヌと同じ人肉料理を食べていたメニーも「とても美味しいです」と柔らかく微笑む。

「お肉は柔らかいし、臭みもない。味付けもキチンとされていて、今まで食べてきたモノとは到底思えません。すごいですね。人間ってここまで美味しくなるんだ……」

「気に入ってもらえたなら嬉しい限りやね」

 素直に賞賛の言葉を受け取るオルウェルは、「主様のお口には合わんかったですか?」とリレイヌを見た。そんな彼に、リレイヌは赤色のドリンクを飲みながら沈黙。「最高に合います」と、忌々しげに一言零した。

「オルウェルがいると主様がキチンと食事を摂るので助かりますね。いっそウチの専属になったらいかがです?」

「そら有難い話やけど俺には荷が重いわなぁ。レヴェイユの厨房におることすら夢のような話なんに主様の専属て……」

 思わずと告げたオルウェルに、「僕は賛成だなぁ」と黒い小人が呟いた。真っ白な縦長の目を瞬く彼は、己より大きなサイズの肉に器用にかぶりつきながら、「僕もオルウェルの料理好きだもん」と明るく告げる。
 そんな小人の隣、小柄な少女が鼻を鳴らした。赤い、ドレス風の衣装に身を包み、頭に小さな赤い冠を乗せている少女だ。
 毛先の黒い、赤い髪をハーフツインに結っており、それは少女が動く度にひょこひょこと揺れている。
 無気力な瞳の色は、透き通る翡翠色。美しい色のそれは、しかし、どこか作り物のような印象を受けてしまう代物だ。

「論外なのね。これ以上主様のお屋敷にケダモノ増やすのはお断りなのよ」

 吐き捨てた少女に、向かいに座っていたビビも「ボクも反対です」とオレンジジュースを飲んだ。そして、「殺人鬼をご主人様の傍に置いておくなんて嫌ですよ」と、椅子の背もたれに寄りかかり、両の足を前に伸ばす。

「殺人鬼はあなたにも当てはまるかと」

 イーズが告げた。

「まっさか! ボクはただのペットですよ。ご主人様にちゅーじつな、ね。心無い殺人鬼と一緒にするのはやめてくださーい」

 ビビは憤慨したとばかりに吐き捨てる。

「……殺人鬼云々はともかく、あまりオルウェルを弄ってやるな。オルウェルも黙ってないで文句くらい言ってもいいんだぞ?」

 助け舟を出すように言葉を発したリレイヌに、オルウェルはただ首を横に振った。別に気にしていないと、柔らかに笑う彼に、彼女は呆れたと言わんばかりにため息を吐く。

「……オルウェルさんは、殺人鬼、なんですか?」

 と、メニーがモクモクと動かしていた口を止め、疑問を発するように言葉を紡いだ。不思議そうに首を傾げた彼に、「そうですよー」とビビは返す。

「コイツはボクの元ご主人様の飼い犬だったんです。忌々しいことに元ご主人の一番のお気に入りでしてね。自分の元から去った後も、ご主人はコイツを求めてました」

「その元ご主人というのは?」

「殺人狂のマーナという人物だ。彼女は自分好みの人間をペットとして集め、しつけ、殺人集団を作り上げた。ペットとされた者たちは皆動物の仮面を着け、殺しを強要されたそうだ。まあ、強要といっても、彼女の躾によりその大半が自ら殺しを楽しんでいた節はあるがね」

「へぇ……」

 メニーの目が、オルウェル、そしてビビを見た。楽しそうに歪むそれに、二人は静かに目を細める。

「……まあ、全ては過去の話だ。そこまで拘る必要も無いだろうさ」

 告げたリレイヌは軽く瞳を伏せ、赤色の飲料を嚥下した。

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