112 伝報担当、ステラ
「ムハド隊が戻ってきたって?」
噂を聞きつけ、村の他の住民達も、遅れてどんどん集まってきた。しかし皆、ケントと馬を見て、察するのだった。
「おいおい誰だよ〜。鐘、間違って鳴らしたヤツは」
集まって来た者の中から、声がした。
「確か……」
さっき鐘が鳴ったときに、広場にいた一人が言った。
「おいラクト。お前、鳴らしてたよな?」
皆の視線が、ラクトに集まる。
「えっ!?い、いや、違うんだ、俺はアイツに鐘鳴らせって言われ……あれ?」
護衛担当の姿がない。完全に逃げたようだ。
……あ、あのヤロオオォォォ……!
※ ※ ※
「長老、先の鐘の音は、どうやら、誤報だったようですね」
長老の家にやって来た、前に交易会議で皆に向かってジンやムハドの報告をしていた伝報担当の若い細身の女性、ステラが言った。
「実際は、ケントがただ自分の愛馬に乗って、近隣の村にある鍛冶屋に、大剣を受け取りに行っていただけのようですね」
「ほっほ!そうじゃったのか」
長老は笑いながら言うと、居間にステラを案内した。
「……というか、村の外に出るなって、言ってるのに。やっぱりケントも含めて、ムハドさん旗下の者達って、自分勝手というか、自由人ばかりな気がします」
「おいおいステラ。そうしたら、この村のキャラバンのほぼ全員がそういうことになってしまうじゃろ」
「ウフフっ。いやでも、そうでしょう」
「参ったのぉ〜」
居間のテーブルには、何枚かの封書が置いてあった。交易会議を受け、各国や各村に送るための返書だった。
「やはり、ほとんどが交易の一時的休止と、運搬依頼のお断りって感じですか?」
ステラは封筒を手に取りながら、確認も含めて長老に聞いた。
「うむ。まあ、仕方あるまい。……が」
交易会議の時とは少し違った雰囲気で、長老は言った。
「ムハド達が戻ってくれば、な。一応、それも含めてある」
「なるほど。分かりました」
――ガタガタッ。
長老の家は居間の他にも部屋が設けられていて、その中の一つであろうところから、物音がした。誰かが作業している。
「あら、珍しい。先客がいらっしゃるのかしら?」
「おっと、そうじゃった。あやつに書庫の整理をお願いしておったんじゃった」
「へぇ。長老の書庫整理をしてくれる人なんて、リートさんくらいだと思ってたのに」
「『何でもいいので、働かせてください』と、言ってきてなぁ。リートがおらんくて、困っておったところじゃったから、助かっとるよ」
「えっ、誰なんですか?」
「マナトじゃ」
「あぁ。この前、アクス王国から戻ってきた、マナを取り込んだ能力者の男性ですね」
「うむ。マナトはヤスリブ文字も勉強中じゃから、ちょうどよかったみたいじゃの」