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2話 やっとできた友達

 今の体になって2ヶ月ぐらい経ち、生理も経験して、女性として暮らすことは慣れてきた。最初、話し方はやや浮いている感じで、なんか調子悪い?とか聞かれたけど、今では、すっかりマスターし、どこから見ても女性の中学生に見えた。

 でも、女子校だから、女性どおしで話すんだけど、恋バナとか、クラスメイトの悪口とか、服の流行とかの話しが多かった。異性と付き合ったことないし、何を話していいのかよくわからない。ニコニコ笑顔でいるしかなく、興味もなかったので溶け込むのは難しい。

 今日の2時限目は体育だったので、教室では、みんなが体操服に着替えている中、私は、自分のブルマがないことに気づいた。朝は、確実に袋に入れて、袋は破れていないから、ここにあるはず。これは、昔、よく経験したいじめに違いない。

 体育の先生に、絶対にあるはずのブルマがないって話し、これは誰かが盗んだに違いない、いずれにしても今日の体育は出れないと怒りをぶつけた。昔の記憶がよみがえり、思っている以上に、語気が高まってしまった。担任の先生は、夕方、授業が終わってホームルームをしている時に、残念な事件が発生したと伝え、今回は、犯人は探さないから、このようなことは二度と起こさないようにと注意をした。

 みんな、誰がちくったのか分かっていたので、理恵は、みんなから嫌われるようになっていった。やっぱり、私は、いつも、みんなから嫌われるのね。運命なのかしら。性格が悪いのかも。

 そんな中、横のクラスの美沙が、理恵に声をかけてきた。
「あなたが理恵? 私、隣のクラスの美沙だけど、知っているよね。変な私の噂、噂じゃなくて本当なんだけど、流れているもんね。ところで、あなた、なんかB組で嫌われているらしいじゃない。気にしないで、毎日学校きているって、かっこいい。」
「それって、褒めてる?」
「褒めてる、褒めてる。ところでさ、私、大正高校の彼と付き合っているんだけど、彼の友達と私の友達で遊園地行こうって盛り上がっているの。おいでよ。男性3人、女性3人で考えているんだけど、あと女性1人足りなくてさ。別に数合わせで誘っているじゃないよ。理恵って可愛いし、なんか、男性の1人が街中であなた見かけて、誘ってくれないかって言われたのよ。どう?」
「いつ?」
「今週の土曜日だけど。」
「じゃあ、行ってみようかな?」
「これで決まりね。東京駅の京葉線改札口に朝7時に集合ね。待ってるからきてね。持ってくるものはお金だけで、他に何もいらないから。男性陣がいるから、1万円ぐらいで足りるかな。ランチとか園内で食べるし、お弁当とかはいらないよ。じゃあね。」
「分かった。」

 女性になったんだから、男性と付き合う経験も必要かなって思っていたんだ。だらか、すんなり決められた。日ごろ、女性としか話すことがないから、男性と会って、何か変わるかもしれないって。

 また、中学生で1万円って、けっこう大金だと感じたけど、この学校は裕福な親が多く、贅沢な生活をしていたので、お財布見たら、お小遣いで十分足りた。

 土曜日の朝、集合して遊園地に向かった。男性の中で、和人という人が積極的に話しかけてきたから、私を呼んだのは、この人ね。

「理恵ちゃんって、可愛いよね。彼とかいないんでしょ。」
「いないよ。いたら、今日、来ないでしょ。」
「そうだよね。休日とか何しているの?」
「う~ん。言えるほどのことしてないかな。ゴロゴロしたり、渋谷とかにショッピングに行ったりとか。」
「そうなんだ。俺、今、地元のサッカーチームに入っていて、今度、出るから、見に来てよ。」
「すごい。そうなんだ。地元って、どこ?」
「富ヶ谷なんだ。」
「それなら近くだから、日程が合えば応援に行くね。」
「やった。」

 そんな会話が続き、遊園地の中で、洞窟のような通路でアトラクション待ちをしている時、その彼は、理恵の手を握ってきた。理恵は、なんか気持ち悪いと思い、手を払ってしまった。

「理恵ちゃんは、恥ずかしがり屋だね。大丈夫だよ。」

 そんなんじゃなくて、なんか男性から触られるのが嫌なんだけど。そう言うのもなんだから、恥ずかしがり屋ということで済ませておくことにした。

 夜になり、パレードを見て、知らないうちに、男女3人組がバラバラになり、男性が女性を送るということになった。私には、認めたわけじゃないけど、成り行きで和人さんが送り役になった。美沙に、一緒に帰ろうよと言ったけど、何言っているの、邪魔しないで、彼とうまくやりなさいよと断られてしまった。

 自宅の最寄りの駅に着き、道路を歩いていると、横にあった公園が素敵だから見に行こうと誘われ、ついて行くしかなかった。そこで、ベンチに座り、満月を二人で見て、彼から話しが続いた。

 その時、いきなり彼はキスをしてきた。びっくりした理恵は、動けずにいたが、正気に戻り、彼を両手で押し、走り出した。やっぱり、男性とキスなんて無理。やっぱり、私の本質は男性なのよ。男性と手を握ったり、キスをしたり、エッチするなんて考えられない。本当に気持ち悪い。だめ。

 彼から、交換したLINEでサッカー見にきてとかメッセージが来たけど、無視した。付き合うつもりがないのにダラダラとする方が迷惑だものね。数日後、美沙から、あまり奥手だと、チャンス逃しちゃうぞと言われたけど、ごめん、タイプじゃなくてとごまかしておいた。美沙とは、これからも友達でいたいから、本当のことを言うのはやめた。

 ある日、電車を乗っていたら、ドキドキするぐらい魅力的な女性を見つけ、ずっと見いってしまった。あれ、もしかしたら、私、女性のことが好きなの? でも、もともと男性だったんだから、不思議ではないわ。その後、彼女を後ろからついていった。スタバに入ったので、後ろから入ってみると、店内は混んでいた。

「あの~。混んでいるので、相席してもいいですか。」
「ええ、ぜひ、ぜひ。ちょうど、誰か話し相手が欲しかったし。その制服、清和女学院の中等部のですよね。私、横にある渋谷区立第一中学校に行っているの。」
「そうなんだ。セーラー服も可愛いわね。」
「そうかな。ブレザーの方が良かったんだけど。そういえば、昔から気になっていたんだけど、女子校って、どんな感じなの。陰険ないじめが多いとか。」
「そんな陰険ないじめとかないと思うけど、なんか男性がいないから、気が緩んでいるというか、席に座っているときに、スカートの裾を両手で持って上下させて、涼しいとか言ってる人もいて、信じられないわよね。」
「そうなんだ。こっちは共学で、男性もいるから、緊張感もあって、いい雰囲気よ。外国ではトイレとか男女兼用のところもあって、そんな所では、お互いに気を使うから、女性同士の悪口で時間を使うとかもないらしい。日本でも、その方がいいかもね。他に、なんか面白いことある。」
「う~ん。男性の汗臭い匂いとかないからか、柑橘系の匂いとか、独特の雰囲気はあるわね。でも、私、男性には、そんなに興味ないから、女子校でよかったかな。」
「本当? 男性と会う機会が少ないから男性の良さに気づかないだけよ。男性は、優しいし、私、今は彼がいないけど、早く欲しいな。」
「早くできるといいわね。そういえば、私、理恵。名前は何ていうの?」
「祐美よ。」
「祐美、せっかく知り合いになったんだし、LINEを交換してよ。」
「いいわよ。」

 そんな会話をして別れたが、理恵は、これからもしばしば誘い、クラスメートより親しく過ごす時間が増えていった。

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