1話 僕は1回死んだ
僕は、いつも虐められていた。中学3年生の教室では、はぶられたり、教科書に落書きされたりは毎日のこと。今日は、町工場の裏にある空き地に連れられて、5人に囲まれ、殴られたり、蹴られたり。倒れて、意識が朦朧としてきた。
「やばいよ。これ以上やると死んじゃう。」
「大丈夫だ。そんなに簡単に死なないさ。」
「だって、顔はこんなに腫れてきたし、お腹おさえてもう立てそうにない。」
「そろそろ、許してやるか。お前が、何やるにしても、ぐずぐずしてイライラするからだからな。お前のせいだぞ。」
「行こうぜ。」
これで人生、終わっちゃうのかな。もう目も見えないや。口から血も出て、息もしづらい。何が悪かったんだろう。頑張ってきたのに。でも、仕方がない。嫌われる僕が悪いんだ。でも、こんなに身体中が痛くて死ぬのは嫌だ。
僕の人生って、なんだったんだ。親から愛された記憶もないし、女性を好きになったこともない。この世の中で、存在していたんだろうか? 意味なんかないのかもしれない。そう、水が上から下に流れるように、ただ、生物として生まれ、死んでいくだけ。
そんなことを考えながら、意識はなくなっていった。そして、気づいたらベットの上にいた。
「理恵ちゃん、早く起きなさい。学校、遅れるわよ。」
え、理恵ちゃん? どこの子だろう? 僕の家の周りにそんな子いたかな? でも起きないと。そういえば、昨日、怪我していたけど体は痛くない。
起きたとき、鏡の前で立ちすくんでしまった。なんで、鏡に女の子が映っているんだ。いや、僕だ。どういうことだ? 明らかに、鏡に写っているのは、下着姿の女の子で、自分が手を挙げると、鏡の女の子も手を上げる。
「何やっているの。早く着替えて、朝ご飯食べなさい。」
「はい。」
要領を得なかったが、まず、学校に行かなくてはいけないらしい。ハンガーにかけられていたブラウスを着て、あれボタンが逆でやりにくい、スカート履いて、どっちが前なの? 靴下履いてキッチンにきた。
「何、寝ぼけているの? ブラつけてないじゃない。恥ずかしわよ。しっかりしなさい。」
え、ブラって、ああ、ブラジャーのことか。部屋に戻って、なんとなくこんなんかなと付けて、もう一回、着替えをしてキッチンにやってきた。
「もう時間だから、牛乳だけでも飲んで行きなさい。ブレザーも着なさいね。早く。」
何が何だかわからずに家を追い出された形だったが、学校はどこだろう。カバンにあった学生手帳を見ると、清和女学院の中等部3年B組と書いてある。携帯で調べると、電車に乗って5駅ぐらい先で降りて、そこから歩いて5分ぐらいの所だ。あ、定期券があった。まず、そこの3年B組に行ってみよう。
どうしたらいいかわからないまま、行き当たりばったりの行動でクラスまで到着した。
「あ、理恵、おはよう。」
「おはよう。」
「なんか、髪ボサボサじゃない。寝坊した? あ、呼ばれてる。じゃあ、また後でね。」
「私の席って、どこだったっけ?」
「何、ボケてるの。ここでしょ。頭でも打った? 今日、変じゃない?」
「あ、そうだった。」
授業が始まり、なんかスカートってスースーするし、ブラは締め付け感あるしって、違和感満載だったけど、そうこうしているうちにお昼休みになった。よく考えてみると、前は、引っ込み思案で、クラスの人達にいじめられていたけど、ここで挽回できるじゃない。まずは、明るくして、みんなと仲良くなってみようと。
「ねえねえ、一緒に食べない?」
「あ? いつも1人で食べてる理恵が、どう言う風の吹き回しなの。まあ、いいか。ここに座れば。」
「お邪魔します。美味しそうなお弁当。」
「あげないよ。」
「そうじゃなくて。」
「そういえば、A組の美沙、大正高校の男性と付き合っているんだって。やるよね。」
「そうなんだ。大正高校って、荒れてる高校じゃない。でも、そっちの方が、男らしいかもね。筋肉ムキムキとか。いやだ~。」
「知らないけど、この前、映画一緒に行って、キスしたとか言ってた。」
「え~、いいな。私も彼欲しい。」
お弁当を食べているとき、ずっと恋バナの話しで盛り上がっていた。こんな会話をしているんだ。今日は、周りを観察することに集中しよう。そうこうしているうちに授業は終わった。本当に疲れた。やっと、これで家に帰れる。
家に着くと、体をチェックすることにした。女性の体って、どうなっているんだ? まず、胸を触ってみたけど、もっと張って硬いのかと思っていたら、なんかプニュプニュしていて、飛び跳ねると、結構、上下するんだって新たな発見だった。
次に、下半身を見てみた。何もなくて、なんか変。しかも、割れ目があって、開いてみると、中は、なんて言うのかな、びらびらって感じ。あとは、男性とそんなに違いはなさそう。あえていうと、肌は薄くてきめ細やか。髪の毛は暑い。そんなところかな。
胸を触っていると、気持ちいいという感じもあったけど、下半身は、最初、中に指を入れてみても、あまり感じなかった。こんなもんかな? でも、少し上側をさすっていたら、急に快感が体に走り、自分の体を抑えられなくなった。声が出たけど、お母さんは買い物でいないから続けていたら、体が震えて、中で何かが爆発した。なんか、頭の中で火花が散ったみたいで、まだ体が痙攣していた。気づかなかったけど、体はのけぞっていて、これが女性の一人エッチなんだって初めて知った。
ところで、暴行を受けた後の僕はどうなったか気にはなったけど、多分、死んだから、別の体に乗り移ったんだろうね。今の理恵との関係とか聞かれるのも嫌だし、それ以上、詮索するのはやめた。
また、理恵っていう子の心はどうしっちゃったんだろうとは思ったけど、これも、どうしようもないから考えないことにした。