107 マナト/農作業エリアにて
「でも、ケント隊長、最初隊長になるのイヤだって言ってたんだぜ」
「そうなんだ」
「隊長になると、ムハドさんの隊ではいられなくなるからな」
「えっ、そこまで」
……人を惹き付けるなんとやらってヤツだ。
加えて、相当、老練な、経験値のある人なんだろうなと、マナトは思った。
「ムハドさんって、何歳なの?」
護衛担当に、マナトは聞いた。
「ん~と、たしか25歳だよ」
「えっ!そんなに若いの?」
マナトと2歳ほどしか変わらない。ケントともだ。
「ああ、そうだよ。10歳から商隊に入って、交易を経験してるんだぜ」
「わっか!義務教育終わってないじゃん……」
「なんだそれ?」
……キャラバン歴15年か。確かに企業勤めだとしたら、15年は結構なベテランということになるな。
「いや、てか、でも、この村、青年になってから交易するんじゃ?長老にはそう聞いたけど?」
「いや、そうなんだけど……ムハドさん、そのしきたりを無視して、勝手に商隊についていっちゃったらしいんだ」
小さい声で、護衛担当は苦笑しながら言った。
「な、なるほど……ポリポリ」
……なかなか破天荒な人でもあるようだな。
思いながら、マナトはおつまみを口に運んだ。
その後、大衆酒場を後にし、ミトとラクトと合流するため、マナトは密林方面へ向かって歩き出した。
ミトは、村にいるときは、いつも規則正しく起床して、農作業に従事していた。
時間的に、畑で雑草を抜いたり、水をあげている頃で、おそらくラクトもそこにいるだろう。
村の中心部を抜け、農作業エリアへとやって来た。
「……んっ?」
畑と畑の間に造られた、農具や倉庫が置かれている広場に、村人達が集まって、ざわついていた。
「どうしたんですか?」
気になって、その集団の一人に、マナトは声をかけた。
「んっ?おう、確か君は、ミトとラクトの同期君だよね?」
「はい」
「前に出て見てみなよ。いま、ラクトが優勢だよ」
「優勢って……えぇ!?」
ビックリして、村人達をかきわけかきわけ、前方に出た。
「ハァ、ハァ……」
ミトが、息を切らしていた。
「おう!マナト」
ラクトがマナトに気づき、顔をこちらへ向けた。
広場の中央で、ミトとラクトが向かい合い、双方ダガーを抜いていた。
「えっ!ちょっと!何してるの!?」
「なにって、修練に決まってるだろ」
「修練!?」
「スキあり!」
マナトと話しているラクトの虚を突き、ミトのダガーがラクトに迫る。
「えちょっ!おま、ズル……!」
ミトのダガーを避けるため、ラクトは身を引いたが、少し体制を崩してしまった。
――カキィィン!
ミトがラクトのダガーをはじき飛ばした。
「うぃ~!」
「やるねぇ、ミト!」
「おいラクト!油断してんじゃねえよ!」
広場に集まった皆、やいやい騒いでさらに盛り上がっていた。
※ ※ ※
「……よし。コスナ、行くよ~」
――ニャッ。
交易会議のあった日の翌日、マナトは早起きして、コスナを連れて家を出た。
行き先は、密林の奥にあるという、湖。そこで、水の能力の修練をするためだった。