108 マナト/水の修練①
『あの負けを、引きずりはしない。でも、あの戦いを、なかったことには、できない。しちゃいけないんだ!』
昨日のミトとラクトのエキシビションマッチ中、ミトが放った言葉だった。
あの後、ミトとラクトは引き続き戦い続け、全部で50戦も行っていた。
村人達も農業そっちのけで応援し合い、賑やかな中に和やかさのある雰囲気だったが、2人の戦いは凄まじいスピードと剣術の応酬だった。
最終的にラクトの勝ち越し。
タイマンになると、基本的にはミトよりラクトのほうが強いらしく、キャラバンの最終試験もラクトが先に合格していたとのことだった。
ただ、今回の交易で、ラクトはその考えを改めたようで、実戦となると、ミトのほうが強いかもしれない、と言うようになってはいた。
どのみち、ミトにしろ、ラクトにしろ、マナトにとっては同じようなものだった。
つまり、2人とも、異常に強い。
そして、その戦いを目の前で見せつけられたマナトの、かつて子供のころ心に灯っていた、まぶしいまでの純粋なあの感情に、再び火が灯るのを覚えた。
……僕も、強くなりたい。
だが、ミトやラクトのように強くなることは、できない。
そこでマナトは、自分の個性をのばす、つまり、水の能力の向上に力を入れることしたのだった。
村の中心部を抜け、農作業エリアの先、密林へと、マナトとコスナは入って行った。
朝の日差しの、緑豊かな木漏れ日の中、色彩鮮やかな花が咲く。
涼しさのある風に乗って、小鳥のさえずりと葉っぱの揺らめく音が聞こえてくる。
……あぁ、贅沢。
森林浴を楽しみながら、湖に向かって歩き続けた。
ちなみに獰猛種の肉食生物も生息しているが、湖の更に奥に行かない限りは見ることはないのだという。だから、村までおりてくるのは本当に稀なことだった。
――ニャッ!ニャッ!
コスナは楽しそうに、チョウを捕まえようと飛びながら前脚をのばしていた。
「もうちょっとだよ、コスナ……おっ?」
前方に光が見えたと思うと、広々とした、キラキラ輝く青い水域が出現した。
周りは木々に囲まれていて、それが湖面に反射して、綺麗に写っている。
湖に、マナト達はやって来た。
「よし、じゃあ、早速……」
マナトは濡れても大丈夫なように、靴と上着を脱ぎ、インナーだけになった。
湖のほとりを歩き、手前まで来た。
マナトが右手をかざす。
――シュルシュルシュル……。
湖から細い水流が伸びてきて、くるくるとらせんを描きながら上昇してゆく。
「よし」
左手もかざした。
――シュルシュルシュル……。
別のところからも、細い水流が伸びる。そちらもらせんを描きながら、上昇を始めた。