92 砂漠を歩きながら①
西のサライを出て、キャラバンの村へ向け、ケント商隊は砂の世界を進んでいた。
――ザッザッザッ……。
少しだけ、ペースが速い。
しかし、ラクダ達はむしろ、これくらいがちょうどよいといった様子で、長い脚を大股に動かし、気持ち良さそうに歩を進めていた。
「いよいよ帰還だ!出る手前にも言ったが、帰ったら、ゆっくり休めるからな。その代わり、ちょっと遠いが、サライは経由しない。休みは取りつつ、一気に村まで戻るぞ!」
先頭を歩くケントの力強い声が響いた。
「はい!」
「はい」
ミトが元気よく、マナトも次いで返事した。
「……はい」
最後尾にいたラクトが返事したが、どこか元気がなかった。
「……」
ケントが、後ろを振り向いた。
「マナト、ちょっと……」
ケントが手招きした。
「あっ、はい」
隊の先頭に移動し、ケントと並んでマナトは歩いた。
「……いや、ラクトの気持ち、分からなくはないんだが……もしかして、ウテナってコのこと、本気で好きになっちまったのか?」
「それは、分からないですけど……でもやっぱり、急な別れは、ちょっとショックだったのかなと」
「そうか。今回は、ジンの報告を国に知らせるためにも、彼女達は早急に帰らないといけなかった。西のサライに駐屯する護衛も頼まないといけないとか、言っていたしな」
「ええ、ラクトもちゃんと、分かってます。でも、ラクトの気持ちも、僕はよく、分かりますよ……」
マナトもまた、悲しくないかといえば、そうではなかった。
いや、むしろ、表情には出していないが、ラクトより、もしかしたら、哀愁は深いかもしれない。
……前の世界、現代日本において、スマホやパソコンがあればいつでも、声も文字も届けられる。
それが、このヤスリブ世界においては、ない。連絡が取れないことはないが、それでも通信手段においてはかなり限られていた。
最初は怖いと思ったが、性格はとても天真爛漫なウテナ。落ち着いた大人の女性で、商隊に誘ってくれまでしたフィオナ。そして、ルナ。
……しばらく会うことも、まず出来ない。いや、もう、会うことは……。
そう思うと、やはり、どうしても、寂しい。次はいつ会えるのか……。
「ケントさんは、寂しくないんですか?」
「俺か?……そうだなぁ」
ケントは、無精髭をさすりながら、遠い日に思いを馳せるように言った。
「これの繰り返しだからよ、キャラバンてのはさ、ははっ!」
そして、にこやかに、ケントが笑った。
……あぁ。
いま、この瞬間だけは、現代日本のあの環境が素晴らしかったと、思うしかなく、マナトは心の中で、深くため息した。
「ミトは、そうでもないんだがなぁ」
ケントとマナトは振り向き、ミトを見た。
ラクトとは対照的に、ミトは割かし、あっけらかんとしている様子で、時折ラクダ達の首をなでながら、のびのびと歩いている。
「ミトは、まず最初に経験してるからじゃ、ないでしょうか……」
「……そうだな」