第121話 それぞれの修業について
「え?! じゃあ、ルーロさんと一週間修行してたんですか?!」
「まぁ、そうなるな」
無事にアンデッドの群れの討伐を終えた俺たちは、オラルの屋敷に帰るまでの道中で、ここ一週間の出来事について話し合っていた。
色々と知っている俺と違って、初めて俺とルーロの関係を知ったリリは目を見開いて驚いていた。
「な、なんでずっと黙ってたんですか?」
「なんでって……いや、リリ達だって言わなかったし、別にいいかなと」
「そ、それを言われると弱りますね」
リリは俺の返答を受けて、少しだけ気マズそうに視線を逸らした。
いきなり姿を消したことについては、リリも少なからず悪いと思っているみたいだ。申し訳なさそうにハの字になった眉がその感情を物語っていた。
「それに、実戦で見せた方が面白いだろ」
「私も、そう思ってました」
先程のリリの戦いぶりから見るに、結構気合を入れていたのだろう。そう思うと、せっかくの見せ場を潰してしまったような気もしてしった気もする。
いや、俺も普通にリリとポチの成長ぶりに驚いていたし、見せ場を潰したというほどでもないか。
アンデッドドラゴンを瞬殺してしまったけれど、他のアンデッドはリリとポチが倒したわけだしな。
「まさか、私達が修行に向かったことも、バレていたとは思いませんでした」
「ルーロに行き先を聞いて、そのまま俺も島に向かおうと思ったんだけどな。俺が島に向かっても、ただステータスでぶん殴る戦い方しか身に付かないだろうって言われて、やめたんだよ」
もしも、あの時ルーロに止められていなかったら、俺はリリ達を追って島に向かっていただろう。
そして、今のような戦い方を身に着けることができず、また知らない誰かに負ける未来が待っていたかもしれない。
そう思うと、ルーロには感謝しかないな。
「てっきり、もっと馬鹿力で魔物を屠る感じになって戻ってくるかと思ったけど、新しい魔法? スキル? も覚えてきたんだな」
「アイクさんの中で、私達ってどんなキャラになっているんですかね?」
「くぅん」
二人は心外そうな顔でこちらにジトっとした視線を向けた後、リリがポチの頭を撫でながら言葉を続けた。
「私達もルーロさんに島に行く前にお話をして、言葉で色々教わりました。ステータスの高さで殴るだけだと、強くなっても限界があるって。それに私達アイクさんほどの力もないのに、力でゴリ押す戦法なんかしてたら、あの島では本当に死んじゃいますよ」
「そんなに凄い場所だったのか。……少し気になるな」
冒険者の荒くれ者たちが行くというほどの場所。その場所がどんな場所なのか、気にならないと言えば嘘になる。
いつか俺もあの場所に行ってもみるのもいかもしれないな。
そんなことを思いながら、俺は何か言葉を待っているような二人の表情を見て、先程までの戦いについて何も言っていなかったことを思い出した。
驚いたのは事実だし、二人の成長に感動したのも事実だ。それなら、それはちゃんと言葉にして伝えてあげるべきだろう。
「それにしても、本当に二人とも強くなったな。驚いたよ」
俺が心から漏れたようにそんな言葉を口にすると、二人は表情を緩めて小さく胸を張っていた。
「ありがとうございます。まぁ、私はアイクさんの助手ですからっ」
「きゃんっ」
リリに似てきたようなポチの態度に笑みを浮かべていると、ふと思い出したようにリリが口を開いた。
「でも、それ以上にアイクさんの戦闘スタイル変わり過ぎてませんか? ていうか、さっきのなんですか?」
「さっきのは【肉体支配】って言って、相手の肉体を操作できるスキルだな。あとは、【精神支配】って言って、相手の恐怖心を一時的に跳ね上げるスキルだな」
「え? ……なんですかそのスキル。それって、最強過ぎませんか?」
リリは思っていた以上の返答が返ってきたのか、瞳をぱちくりとさせて驚いていた。
まぁ、確かにいきなりそんなスキルを身に着けましたと言われても、そんな反応になるよな。
「最強ってことはないとは思うけど……でも、そうだな。結構チート染みているよな」
実際に、S級冒険者でもかかるくらいのスキルなわけだから、ある程度どんな奴相手にでも俺のスキルは使える気がする。
それに加えて、まだ試していないスキルもあるし、一週間での成長とは思えないくらい強くなっているだろう。
俺の返答を聞いて、リリはしばらく悩んだ後に何か思いつたような顔で口を開いた。
「また差ができてしまった気がしますね。……あ、アイクさん。もう一週間ぐらい、ここの街に滞在しませんか? 私とポチはお暇を頂くかもしれませんが」
「いや、明らかにまた島にでも籠るつもりだろ。それなら、俺が修行してやるから、あんまり危ないことはしないでくれよ」
「え?! アイクさんが修行をみてくれるんですか!」
リリは俺の言葉がよほど嬉しかったのか、ずいっと前のめりになって瞳を輝かせていた。
そういえば、前からリリは助手らしいことに憧れている節があったな。
そんなことを考えていると、リリの隣にいたはずのポチが俺の脚に、自分の前足を乗せて瞳を輝かせていた。
ポチ、お前もか。
「まぁ、リリは助手だし、ポチは使い魔だからな」
すぐにではないにしても、いつかリリとポチの修行をみるのもいいかもしれない。
俺がルーロに教わったのなら、それを他の人に教えるのもルーロへの感謝の方法としてはありだろう。
そして、二人をより強くするためにも。
それから、俺たちは互いの修業のことなどを話しながら、オラルの屋敷へと帰っていったのだった。