第122話 オラルの街を出る
結局、修行をしたり、アンデットの群れを倒したりであまり体を休めていなかったので、俺たちはオラルの街をもう二日ほど堪能した後、オラルの街を離れることにした。
「それじゃあ、サラさん。少しの間ですけど、お世話になりました」
「あまりおもてなしをできずに、申し訳ございませんでした。またこちらに足を運んでいただける日を楽しみにしております」
そして、オラルの街を堪能し終えた日の翌朝。俺たちは馬車でミノラルにある屋敷に戻ることにしたのだった。
俺もリリも修行で一週間くらい別の場所にいたし、オラルの屋敷で過ごす時間は多くはなかった。
実際に、サラさんと一緒に時間を過ごせたのは数日間だけだったしな。
それでも、色々とよくしてもらった。そして、次会いに来るのがいつになるか分からないこともあり、お別れに少しの寂しさを覚えたりもしていた。
それは俺だけではなく、リリもポチも同じことだろう。
「サラさんがよければ、いつでもミノラルの方に遊びに来てくださいね。別に、屋敷なんてしばらく空けてもらってもいいんで」
「ありがとうございます。では、機会があればいずれお邪魔しますね」
サラは小さな笑みを浮かべながら、そっと礼儀正しく頭を下げていた。
オラルの屋敷滞在中、リリと仲良く話している場面を多く見たので、仲が深まっていると思ったのだが、サラの返答は少し畏まったものだった。
リリの友達としてもミノラルにはぜひ着て欲しいのだが、少し踏み込みすぎたかな?
俺がそんなことを考えていると、サラは微かに頬を赤く染めながら、俺とリリの方にちらりと視線を向けていた。
なんだろうかと思ってサラの言葉を待っていると、サラはきゅっと瞳を強く閉じた後、意を決したように口を開いた。
「あのっ、今度来ていただいた際には、気兼ねなくお二人の時間を過ごせるように、私も精進させていただきますのでっ」
申し訳なさそうでありながら、何かを期待するような口調。その瞳が微かに輝いていることから、サラが何を言おうとしているのか察してしまった。
その言葉に伏せられている意味が全く分からないほど、俺は鈍感でもない。
……そういえば、リリと話しているときにやけにサラさんが盛り上がっていたような気がするな。
サラが盛り上がるときの話題のテーマはいつも決まって恋愛関係のことなのだ。それは、年頃の女の子だから仕方がないのかもしれない。
つまり、何かやけに盛り上がってるなと思っていたリリとの会話は、全部恋愛トークだったことも考えられるわけで……。
「リリ、サラさんにあることないこと言ってないよな?」
「……ないことは言ってないです」
こちらからふいっと顔を背けながら、リリはそんな言葉を口にした。
つまり、あることは話したということか。
一体何を話したのか分からないが、俺たちの関係について勘違いをしていることは明確だろう。
まぁ、サラさんが楽しそうにしているのなら、いいのか? いや、いいのだろうか?
今回の旅の目標としてあった屋敷の確認と海魚の採取。それと、日々の疲れを癒すという目的は無事に達成することができた。
それに追加して、一週間も濃密な修行をすることができのだから、文句の付け所がないだろう。
十分すぎる旅行だったと思う。
そんなふうにして、オラルの屋敷のお手伝いさんと少しだけ距離が近くなって、俺たちのオラルでの旅行は幕を閉じた。
そして、それから馬車で揺れること数日。俺たちはミノラルの方の街に帰還したのだった。